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第二部:第二十二章 暗き森への誘い

(四)疲労と休息と②

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 一行は森を出て、東へと一刻程歩いた所にある、ルクスフォール領フルルカの街にやって来た。街は僅かに北へ行けば、ガランシャー伯爵領という位置に存在しており、遺跡の探索がようやく半分程度終了したという事を示していた。

 街に入った頃には日も傾き始めており、宿の調達が最優先となった。
 聞き込みをして見つけた、二件目の宿屋で部屋を確保すると、誰もがほっとしたように大きく息を吐いた。
「久々にベッドでゆっくり寝られる!」
 ディナレスが皆の意見を代弁する。夜間は交替で見張りをしながら、遺跡の石の上で薄い寝袋に入って寝るという生活だったので、寝不足と疲労で誰もが限界に近かった。

 部屋に案内されて各々が荷物を運び入れると、一室に集まり相談を始める。
「今日、ここで一泊したら、私は伯爵家に報告に行ってくるね……」
「ああ、馬車で行けば日帰りも出来るだろう。気分転換に行くといい。同行者はどうする?」
 言葉とは裏腹に、エラゼルは「連れて行け」という表情をする。
「じゃあ、エラゼルはここで疲れを取ってて。苦労かけっぱなしだったから……」
「いや、私は……」
「この街の名物のお菓子は何だろうねー?」
「うぐっ……」
 言い返そうとした瞬間に、見事に口封じをされてしまい、黙るエラゼル。あまりに見事なやりとりに、からかい半分だが、わざと真顔のままモルアールが問いかける。
「友人よりも菓子を選ぶのか?」
「い……、いや、ラーソルバールが休めと言ったのだ。素直にそうさせて貰うだけだ」
 説得力の無い言葉にシェラは堪えきれず、横を向いてくっくと笑い出した。
 ふいっと拗ねた様に顔を背けるエラゼル。その首に腕をかけ、軽く引き寄せると、ラーソルバールは耳元で「留守番、よろしくね」と囁いた。
 腕を組んで頬を赤く染めながら「うむ……。仕方が無いな」と、エラゼルは答えると、恥ずかしいのかさっさと湯浴みの仕度をしに出て行った。
「じゃあ、明日は俺がついていくわ」
「私も行く」
 ガイザとシェラが名乗り出る。
「じゃあ、フォルテシアはエラゼルをよろしくね」
 フォルテシアが無言で手を上げようとしたが、それを制するようにラーソルバールは笑顔で軽く頭を下げる。
「承知した……」
 先を取られ、フォルテシアは苦笑しながらも、それに応じるしかなかった。

 このあと汗と疲れを洗い流し、隣接する食堂でさっさと夕食を済ませて宿に戻ると、誰もが即座に泥のように眠り込んでしまった。

 翌朝、疲れていた為だろうか、誰もがいつもよりも遅く目覚める。ガラルドシア行きの三人は、馬車の手配もしなくてはならず、朝食もそこそこに支度を整える。
「じゃあ、行ってくるね」
 留守番の四人に笑顔を向けると、宿で聞いた乗り合い馬車の取り次ぎ所へと急ぐ。
 受付窓口の指示に従い、行商人との同乗でガラルドシアへ向かうことになった。
「ガラルドシアまではどれくらいですか?」
 御者に問いかける。
「何事も無ければ、いつも二刻程度で着くよ」
 御者の答えに、ラーソルバールは安心したように小さく息を吐いた。日帰りが出来ない事も想定していたが、とりあえずは何事も無ければ日帰りが可能と分かったからだ。

 道中は馬車に揺られていると、疲れが抜けていないのか、眠気が襲ってくる。うとうととしていると、突然の大音で目が覚めた。
 外を見ると、重そうな荷を運ぶ馬車とすれ違うところだった。
「あれは武器?」
 槍のようなものが箱の隙間から見え、思わずぼそりと呟く。その声が聞こえたのか、行商人の中年女性が身を乗り出す。
「あれはカサランドラから来たんじゃないかね。嫌だね、今度はどこで戦争するつもりだい」
 肩をすくめつつ、すれ違う馬車を睨み付ける。
「お仕事に影響出ますもんね」
「そうだよ、あたしらの営業範囲でやられたら、食っていけなくなる。国土が広くなったって……」
 女性は言葉を止めた。庶民が何を言ったところで変わるものではないし、聞き咎められれば、何があるか分からない。
 ラーソルバールは女性と苦笑いを交わしつつ、沈黙した。
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