265 / 439
第二部:第二十二章 暗き森への誘い
(四)疲労と休息と②
しおりを挟む
一行は森を出て、東へと一刻程歩いた所にある、ルクスフォール領フルルカの街にやって来た。街は僅かに北へ行けば、ガランシャー伯爵領という位置に存在しており、遺跡の探索がようやく半分程度終了したという事を示していた。
街に入った頃には日も傾き始めており、宿の調達が最優先となった。
聞き込みをして見つけた、二件目の宿屋で部屋を確保すると、誰もがほっとしたように大きく息を吐いた。
「久々にベッドでゆっくり寝られる!」
ディナレスが皆の意見を代弁する。夜間は交替で見張りをしながら、遺跡の石の上で薄い寝袋に入って寝るという生活だったので、寝不足と疲労で誰もが限界に近かった。
部屋に案内されて各々が荷物を運び入れると、一室に集まり相談を始める。
「今日、ここで一泊したら、私は伯爵家に報告に行ってくるね……」
「ああ、馬車で行けば日帰りも出来るだろう。気分転換に行くといい。同行者はどうする?」
言葉とは裏腹に、エラゼルは「連れて行け」という表情をする。
「じゃあ、エラゼルはここで疲れを取ってて。苦労かけっぱなしだったから……」
「いや、私は……」
「この街の名物のお菓子は何だろうねー?」
「うぐっ……」
言い返そうとした瞬間に、見事に口封じをされてしまい、黙るエラゼル。あまりに見事なやりとりに、からかい半分だが、わざと真顔のままモルアールが問いかける。
「友人よりも菓子を選ぶのか?」
「い……、いや、ラーソルバールが休めと言ったのだ。素直にそうさせて貰うだけだ」
説得力の無い言葉にシェラは堪えきれず、横を向いてくっくと笑い出した。
ふいっと拗ねた様に顔を背けるエラゼル。その首に腕をかけ、軽く引き寄せると、ラーソルバールは耳元で「留守番、よろしくね」と囁いた。
腕を組んで頬を赤く染めながら「うむ……。仕方が無いな」と、エラゼルは答えると、恥ずかしいのかさっさと湯浴みの仕度をしに出て行った。
「じゃあ、明日は俺がついていくわ」
「私も行く」
ガイザとシェラが名乗り出る。
「じゃあ、フォルテシアはエラゼルをよろしくね」
フォルテシアが無言で手を上げようとしたが、それを制するようにラーソルバールは笑顔で軽く頭を下げる。
「承知した……」
先を取られ、フォルテシアは苦笑しながらも、それに応じるしかなかった。
このあと汗と疲れを洗い流し、隣接する食堂でさっさと夕食を済ませて宿に戻ると、誰もが即座に泥のように眠り込んでしまった。
翌朝、疲れていた為だろうか、誰もがいつもよりも遅く目覚める。ガラルドシア行きの三人は、馬車の手配もしなくてはならず、朝食もそこそこに支度を整える。
「じゃあ、行ってくるね」
留守番の四人に笑顔を向けると、宿で聞いた乗り合い馬車の取り次ぎ所へと急ぐ。
受付窓口の指示に従い、行商人との同乗でガラルドシアへ向かうことになった。
「ガラルドシアまではどれくらいですか?」
御者に問いかける。
「何事も無ければ、いつも二刻程度で着くよ」
御者の答えに、ラーソルバールは安心したように小さく息を吐いた。日帰りが出来ない事も想定していたが、とりあえずは何事も無ければ日帰りが可能と分かったからだ。
道中は馬車に揺られていると、疲れが抜けていないのか、眠気が襲ってくる。うとうととしていると、突然の大音で目が覚めた。
外を見ると、重そうな荷を運ぶ馬車とすれ違うところだった。
「あれは武器?」
槍のようなものが箱の隙間から見え、思わずぼそりと呟く。その声が聞こえたのか、行商人の中年女性が身を乗り出す。
「あれはカサランドラから来たんじゃないかね。嫌だね、今度はどこで戦争するつもりだい」
肩をすくめつつ、すれ違う馬車を睨み付ける。
「お仕事に影響出ますもんね」
「そうだよ、あたしらの営業範囲でやられたら、食っていけなくなる。国土が広くなったって……」
女性は言葉を止めた。庶民が何を言ったところで変わるものではないし、聞き咎められれば、何があるか分からない。
ラーソルバールは女性と苦笑いを交わしつつ、沈黙した。
街に入った頃には日も傾き始めており、宿の調達が最優先となった。
聞き込みをして見つけた、二件目の宿屋で部屋を確保すると、誰もがほっとしたように大きく息を吐いた。
「久々にベッドでゆっくり寝られる!」
ディナレスが皆の意見を代弁する。夜間は交替で見張りをしながら、遺跡の石の上で薄い寝袋に入って寝るという生活だったので、寝不足と疲労で誰もが限界に近かった。
部屋に案内されて各々が荷物を運び入れると、一室に集まり相談を始める。
「今日、ここで一泊したら、私は伯爵家に報告に行ってくるね……」
「ああ、馬車で行けば日帰りも出来るだろう。気分転換に行くといい。同行者はどうする?」
言葉とは裏腹に、エラゼルは「連れて行け」という表情をする。
「じゃあ、エラゼルはここで疲れを取ってて。苦労かけっぱなしだったから……」
「いや、私は……」
「この街の名物のお菓子は何だろうねー?」
「うぐっ……」
言い返そうとした瞬間に、見事に口封じをされてしまい、黙るエラゼル。あまりに見事なやりとりに、からかい半分だが、わざと真顔のままモルアールが問いかける。
「友人よりも菓子を選ぶのか?」
「い……、いや、ラーソルバールが休めと言ったのだ。素直にそうさせて貰うだけだ」
説得力の無い言葉にシェラは堪えきれず、横を向いてくっくと笑い出した。
ふいっと拗ねた様に顔を背けるエラゼル。その首に腕をかけ、軽く引き寄せると、ラーソルバールは耳元で「留守番、よろしくね」と囁いた。
腕を組んで頬を赤く染めながら「うむ……。仕方が無いな」と、エラゼルは答えると、恥ずかしいのかさっさと湯浴みの仕度をしに出て行った。
「じゃあ、明日は俺がついていくわ」
「私も行く」
ガイザとシェラが名乗り出る。
「じゃあ、フォルテシアはエラゼルをよろしくね」
フォルテシアが無言で手を上げようとしたが、それを制するようにラーソルバールは笑顔で軽く頭を下げる。
「承知した……」
先を取られ、フォルテシアは苦笑しながらも、それに応じるしかなかった。
このあと汗と疲れを洗い流し、隣接する食堂でさっさと夕食を済ませて宿に戻ると、誰もが即座に泥のように眠り込んでしまった。
翌朝、疲れていた為だろうか、誰もがいつもよりも遅く目覚める。ガラルドシア行きの三人は、馬車の手配もしなくてはならず、朝食もそこそこに支度を整える。
「じゃあ、行ってくるね」
留守番の四人に笑顔を向けると、宿で聞いた乗り合い馬車の取り次ぎ所へと急ぐ。
受付窓口の指示に従い、行商人との同乗でガラルドシアへ向かうことになった。
「ガラルドシアまではどれくらいですか?」
御者に問いかける。
「何事も無ければ、いつも二刻程度で着くよ」
御者の答えに、ラーソルバールは安心したように小さく息を吐いた。日帰りが出来ない事も想定していたが、とりあえずは何事も無ければ日帰りが可能と分かったからだ。
道中は馬車に揺られていると、疲れが抜けていないのか、眠気が襲ってくる。うとうととしていると、突然の大音で目が覚めた。
外を見ると、重そうな荷を運ぶ馬車とすれ違うところだった。
「あれは武器?」
槍のようなものが箱の隙間から見え、思わずぼそりと呟く。その声が聞こえたのか、行商人の中年女性が身を乗り出す。
「あれはカサランドラから来たんじゃないかね。嫌だね、今度はどこで戦争するつもりだい」
肩をすくめつつ、すれ違う馬車を睨み付ける。
「お仕事に影響出ますもんね」
「そうだよ、あたしらの営業範囲でやられたら、食っていけなくなる。国土が広くなったって……」
女性は言葉を止めた。庶民が何を言ったところで変わるものではないし、聞き咎められれば、何があるか分からない。
ラーソルバールは女性と苦笑いを交わしつつ、沈黙した。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる