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第二部:第二十章 真実と虚構の存在

(四)依頼書③

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 ラーソルバールらは慌てて地図を頼りに大使館へと向かう。
 街の中心部近くに有る大使館は、ギルドに比べ分かり辛い。入りくねった路地を時折迷いそうになりながら、時間を無駄にしつつようやく辿り着いた。
「迷宮のような街だな」
 エラゼルが呆れたようにため息をついた。
 外部から攻撃を受けた際には、防衛に向いていると考えれば良いかもしれないが、初めて訪れたただの旅行者にとっては、エラゼルが言うように迷宮でしかない。
「住んでいる人には分かるんだろうけどね……」
「住人でも外郭に住んでいれば、中央部では迷うと思う」
 フォルテシアの言葉は半分皮肉だろうが、決して的外れではない。シェラは苦笑しつつも同意するしなかなった。

 大使館入り口で身分証明を提示すると、職員に案内され大使館応接室に通される。
 館内壁面に国旗が飾られていた他、装飾も祖国の様式となっており、一行を少なからず安心させた。
「こちらで少々お待ちください」
 一礼をすると、大使館職員は扉の向こうへ消えた。
「大使ってどんな方?」
「現在はホーリライデル・ゼレッセン子爵が勤めておられるみたい。エラゼルならお会いした事があるんじゃない?」
 ラーソルバールに言われて、エラゼルは首を傾げ、思案するような素振りを見せた。
「……恐らくは無い。いや、何処かの会でご一緒した事はあるかと思うが、ご挨拶をしたことも無いと思う。信頼できるお方だとは聞いたことがある」
「公爵家ともなると、色々な方にお会いするから覚えておくの大変そうだわ」
「私の頭の中の人名図鑑はかなりの数なのだが、肖像画が無い方も多くてな。いや忘れたのでは無く、名前を伺っただけの方も多い」
 冗談めかしく話していると、扉を開けて職員とともに大使と思しき人物が入室してきた。慌てて一同はソファから立ち上がり、頭を下げる。
「ああ、頭を下げる必要はないです。気楽に座ってください。皆さんの事は本国から聞いています。ああ、申し遅れました。私が駐シルネラ大使のゼレッセンです」
 大使はどうも腰の低い人物のようで、逆に緊張させられる。
「恐れ入ります。私が名目上の代表であります、ラーソルバール・ミルエルシです」
「ああ、お名前は伺っていますよ。小さな英雄、いやエイルディアの聖女とお会いできて光栄です」
「は?」
 思わず声が裏返った。同時に横にいたエラゼルが失笑する。
 いつの間にそのような大層な呼び名がついたのか。それもシルネラに居る大使の耳に届く程に。国民に浸透していることは無さそうなのが幸いだが、何とも恐ろしい話だと、ため息をついた。
「こちらでの用件は本国の身分証明書のお預かりと、帝国通貨のお渡しでしたね。もし、広域通貨以外に王国通貨をお持ちでしたら、そちらもお預かりします」
 帝国入国の際に、怪しまれるような物を預けていく事。それが大使館に寄った理由でもある。一行は持ち物から身分証明書と、王国通貨を取り出すと、大使に預ける。
「こちらは大使館が責任を持って本国にお送りしておきます」
「本国入国の際は……?」
 気になっていた事を聞いてみる。
「シルネラの身分証明書を受け取っておいでのはず。それが有れば、問題なく本国に入る事ができますよ。帝国からの入国でも、恐らくは問題ないはずです」
 皆が胸をなでおろす。またシルネラ経由で戻る事になると、道のりが長すぎると懸念していたが、これで不安は解消された。
 この後、大使と少々の雑談をしたところで、短い接見は終了となった。用件を終えた一同は大使に礼を述べ、大使館を後にする。

 いざ、帝国へ。現実が目前へとやってきた瞬間でもあった。
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