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第二部:第二十章 真実と虚構の存在

(三)剣を振るうは誰が為に②

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 しばらくエラゼルの剣に目を奪われていたホグアードだが、一瞬上がったレガンダの悲鳴にも似た声で我に返った。
 ここで止めればまだ引き分けと言える。
「そ……」
 言いかけた瞬間だった。
「ぐぁ!」
 さらに速度を上げたエラゼルの猛攻に耐えきれず、レガンダは腹に一撃を喰らって尻餅をついてしまった。
「他愛の無い。これでは稽古にならぬ」
 呆然とするレガンダに背を向けると、エラゼルは持っていた剣を、くるりと回転させて遊んだあと武器棚に戻した。

「あれが別格か?」
「いんや、恐ろしく強い方」
「あん?」
 ガイザとゴランドラは並んで座ったまま、会話を続けている。何となく馬が合うのかもしれない。
「何かの依頼で、お前さん達と対峙する事になったら、俺逃げることにするわ」
「そうして下さい。俺もなるべくなら見知った人とは戦いたくない」
 互いに苦笑した。

 ホグアードはエラゼルの動きに見惚れ、制止が遅れた事を悔やんだ。
 ギルドの面子にかけて、負けるなど有り得ない。次に勝っても引き分け。
 自らが言い出した事とは言え、やるべきではなかったという思いが渦巻いている。ここで止めては尻尾を巻いて逃げるのと同じ。残ったエドウィールに後を委ねるしか無かった。
「さあ、次で最後だ」
 ホグアードは自分に言い聞かせるように、大きな声を出す。
 周囲には何時の間にやら、冒険者という名の野次馬が周囲を取り囲んでいた。ここで負ければ恥を曝す。ホグアードの背中に冷ややかな汗が流れた。

「エドウィールだ。手加減せずに行くぞ」
 先程までの二人と比べ、やや礼節を持っているようで、落ち着いた口調でラーソルバールと対峙した。
「ルシェです。胸を借りるつもりでいきます」
 ラーソルバールは手にした剣を下げると、エドウィールに頭を下げた。
「いつでもどうぞ」
 ラーソルバールはしなやかな動きで剣を構えると、大きく息を吸った。
「こっちもだ」
 二人の言葉を聞き、ホグアードは短く「始め」とだけ言って、手を挙げた。
 ラーソルバールはゆったりとしたステップで間合いをつめると、素早く剣を繰り出す。
 縦に横にと出した剣は、エドウィールの剣によって阻まれた。
 相手の方が力が強いことは分かりきっている。あとは技と手数、そして、体内魔力の操作。ラーソルバールはまず、手数を増やし、エドウィールの足を止める。
「良い攻撃だが、大したことはない」
 全ての攻撃をあしらいながら、エドウィールは笑みを浮かべた。

「全く。あの程度であれば、武技大会で負ける事も無かったな」
 エラゼルの言わんとする事が分かったので、シェラは苦笑する。背後から聞こえる野次馬の歓声のおかげで、その言葉はホグアードには届いていない。
「こちらの番だ」
 ラーソルバールの出した剣を強く弾くと、エドウィールが攻勢に移る。
 刹那、強烈な斬撃がラーソルバールを襲う。だが、剣を返してその攻撃を受け流し、お返しとばかりに勢い良く剣を突き出した。エドウィールも慌てることなくそれを捌くと、後ろにステップを踏み、間を取った。
「なかなかやるな」
 ニヤリと笑うエドウィールに対し、ラーソルバールは表情ひとつ変えずに、相手の顔を見たあと、ちらりとホグアードの顔色を伺う。
「余所見とはいい度胸だな」
 隙と見て、エドウィールが斬撃を放つが、ラーソルバールは難なく避けると、逆に手元へ剣を振り上げる。エドウィールは慌てて手を引いたが、剣の柄を激しく打ちつけられた。
 白熱した戦いに野次馬達が沸く中、エラゼルだけが憮然としていた。
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