上 下
236 / 439
第二部:第二十章 真実と虚構の存在

(二)偽りの名③

しおりを挟む
「さて、最初は俺からいきますか」
 剣を手に取ると、ガイザは大きく腕を回した。
「お前が一番強いのか?」
 冒険者の一人が睨む。
「いやぁ。恥ずかしながら、この三人じゃ俺が三番だ」
 苦笑しながら頭を掻く。
「なんだと?」
「それじゃあ、エドウィールさん達は下がっててくれ。俺がやる」
 一人の大柄な冒険者が進み出る。短髪のボサボサ頭をかき上げながら、斧を振り回す。
「斧かよ……。彼女より強いかなぁ」
 ミリエルを思い出しながら、ため息をついた。
「あん? 何か言ったか?」
「いえいえ、何も。俺はグラデア。よろしく、先輩」
 わざと挑発するように答える。挑発に乗せられ、冷静さを失ってくれればやりやすい。
「ゴランドラだ。ちっとばかし名が売れてると思うが、お前さんは知らないみたいだな……。痛い目見たくなかったらやめときな」
 挑発に乗った様子も無く、ギロリとガイザを睨みつける。

「あの体格差は面倒だな」
「んー、そうだね。でもガイザなら、一撃も貰わない気がするよ」
 楽観的に見る二人の言葉を聞き、冒険者たちが鼻で笑う。ゴランドラが負けるとは思ってもいないのだろう。
「さあ、準備はいいか?」
 ホグアードが楽しそうに二人を見つめる。
「いつでもどうぞ」
 ガイザが応じると、ゴランドラも頷いた。
「始めてくれ」
 開始の合図と同時に、ゴランドラが襲い掛かる。斧を巧みに操り、上から振り下ろすと見せてから、横薙ぎに切り替えた。
 ガイザは半歩退がって斧を避け、間髪入れずに牽制の突きを繰り出す。
「ぬっ!」
 ゴランドラは斧の柄でそれを弾き上げると、そのまま斧を振り上げる。剣を戻しつつ、ガイザは体を傾けて斧を避ける。
「防御だけなら、ガイザは一流に近いと思うんだよね。教か……師匠も、そこは認めてたし」
「そうだな。相手の隙を突いた攻撃が身に付けば、もっと強くなるのだろうな」
 二人の想定通り、そのまま一進一退の攻防が繰り広げられ、どちらも決定打が出せないで居た。

「そこまで!」
 ホグアードが長引きそうになった戦闘を中断させる。ゴランドラに疲労が見えてきたからかもしれない。
 同様にガイザの息もやや荒い。
 お互いに武器を下ろし、息を整えながら手を差し出す。
「やるじゃねえか、坊主……いや、グラデアだっけか」
「お褒め頂き、光栄です。先輩」
 二人は握手をすると、武器を置き近くにあった椅子に並んで座る。
「おい、グラデア……。あの嬢ちゃん達は、お前さんより強ぇのか?」
「ええ。一人は恐ろしく強い……。もう一人は別格です」
 ゴランドラがガイザに気を許したように、問いかけたので、ガイザもそれに応じる。二人とも、まだ息が荒い。
「なんでぇそりゃ。性質の悪い冗談か?」
「そんな笑い話だといいんですがね……」
 ガイザが爽やかに笑うので、ゴランドラは顔を引きつらせて苦笑した。

「では、順番的に言うと、私か?」
 珍しく鼻歌を歌いながら、エラゼルが武器棚へと足を運ぶ。使う剣を選びながらも、鼻歌は続けている。
「何だかご機嫌だな。あのお嬢様」
 モルアールが不思議そうに呟く。
「道中、馬車の休憩時間にしか稽古ができなかったから、久々で嬉しいんだと思う。多分、本気でやる……」
 フォルテシアが微笑みを浮かべながらそう答えた。村での賊討伐の際には、腕の立つ相手が居なかったので、命が掛かっていたとは言え、恐らく本気は出していない。
 道中の僅かな稽古相手を、主にフォルテシアが勤めていたので、その辺りは何となく分かるのだろう。
「本気?」
 公爵令嬢の本気の剣とはどんなものか。モルアールは興味をそそられた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...