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第二部:第二十章 真実と虚構の存在

(二)偽りの名①

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(二)

「存外張り合いの無い……」
 大柄な冒険者一人を瞬時に打ち倒したエラゼルは、呆れたように大きく息を吐いた。
 モルアールは呆気に取られて見ていたが、横に居たガイザの平然とした様子を見て眉をしかめる。
「驚かないのか?」
「いやぁ? 彼女にしたら手を抜いてると思うぞ」
 ガイザは笑った。

「何事か!」
 騒動を聞きつけ、一人の男が別室から現れた。
「申し訳ありません、私が悪いんです!」
 ミディートが男に向かって謝罪する。
「説明しろ」
「……は、はい。それは別室で。フィリララ、デットーラさんをお願い。それと……」
 同僚に後処理を依頼すると、ミディートはちらりとラーソルバールらに視線をやる。
「あの子達は?」
「あの、例の……」
 手にして居た書状を手渡す。
「ああ……。応接室で話を聞こう。そちらの方々もご一緒に……」

 ラーソルバール達は応接室に通され、ソファに座るよう言われた。ソファは全員が座るには足りなかったので、ガイザとモルアールは手近に有った椅子に腰掛ける。
 先程の男と共に、向かい側のソファに座ったミディートは即座に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした! 全て私の責任です」
「どういう事か?」
「近々ヴァストールの方々がいらっしゃると聞いては居たのですが、失念しておりまして……。それとこんなに若い方々だとは思っておらず、対応出来ていなかったのを見かねてデットーラさんが……」
 嘘を言っていない事は分かる。取り乱していて泣きそうな程だ。
「お聞きの通りだ。申し訳ない」
「いえ、私がもう少しちゃんと説明出来れば良かったのですが、公の場では身分などを言う訳にも行かず……」
「事情が事情だけに致し方無いだろう。ああ、申し遅れた。私はここの責任者でホグアードという者だ」
 男は名乗ると泣き出したミディートの頭に、手を乗せた。
「そして、この泣いているのがミディートだ」
「ラーソルバールと申します。よろしくお願いします。こちらが騒動の元、エラゼルです」
「な……」
 エラゼルは抗議の目を向けるが、完全に無視された。
「我が国の事情でご迷惑をおかけすることになり、大変申し訳ありません」
 ラーソルバールは深々と頭を下げた。
「いや、そこは問題ない。貴国が帝国と事を構えた場合、次に狙われるの我が国だというのは、議会の共通認識だ。今は友好を装っているが、誰も帝国を信用していないからな」
「そうですか」
 言外に「帝国にヴァストールが破れた場合」と言っているのだが、そこは仮定の話なので特に気にする必要もない。
 話を聞いて少しだけ安心した。友好国であるのを良いことに無理な依頼をしているのかと、ずっと気になっていた。
「とは言え、我が国から明確な敵対行為をして、自ら災禍を招くような事もしたくない。ただ少しでも未来の展望を明るくしておきたい、というところだ」
「嫌がらせの手段が有るなら惜しまずやる、という事ですか」
 ラーソルバールはにやりと笑った。
「そう聞こえたか?」
 ホグアードも笑って応える。シルネラとしても、帝国に対する不信感や嫌悪感は有るという事なのだろう。
「この際だから是非、帝国で思う存分活動をしてきて欲しい。とはいえ、うちの認識票を持つ以上、実力を示して貰わないと困る。『一国の騎士団長にも劣らぬ者を派遣する』と記載があったが、その若さでは信じるに値しない」
 その書きっぷりでは、信じられないのも無理はない。書いたのは恐らく軍務省辺りだろうが、もう少し信じて貰えそうな内容にすれば良いものを、とラーソルバールは呆れた。
 すんなり話が通ると思っていただけに、この反応は少々想定外だった。余計な一文が有ったせいだろう。
「では、どうすればよろしいのですか?」
「裏手に訓練用の庭がある。実力の一端でも見せて貰おうか」
 ホグアードは真っ直ぐにラーソルバールを見詰める。エラゼルの一件で何とかなりませんか、と喉まで出掛かった。
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