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第二部:第十九章 シルネラ共和国へ
(二)ラモサの夜①
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(二)
国内とは言え、一行の誰もこの街に来た事が無かった。初めて目にする街は、夜の帳が降りつつあるとは言え、ラーソルバールにとっては新鮮だった。すぐにでも宿を出て、街並みを見たり店を巡りたいという気になってしまう。
だがこの日は皆、疲労がたまっているためそれも叶わない。部屋に荷物を置くと、そのままベッドに倒れ込んでしまおうかという誘惑もあるが、空腹感が邪魔をする。
各自の部屋に別れる前に約束していた通り、夕食を食べるため、護身用の懐剣だけを持ち外に出た。
全員が揃ったところで、宿と併せて御者に聞いた食堂へと足を運ぶ。
日が沈んだとは言え、街を行き交う人の数は少なくない。王都とは比較にならないが、温泉が有るだけに賑わっているという事だろう。
行政手腕も悪くないのだろう。それもあっての処分保留なのだろうか。出立前に与えられた情報を繋げてみると、何となく見えてくる。
宿から少し離れた場所に教えられた食堂は有った。少し細い路地に入った所に有る為か、人通りは多くない。
店の中からは賑やかな話し声が聞こえてくる。そこ声に誘われるように店の扉を開けた。
中に入ると、店内の客の一部から視線が寄せられるが、すぐに視線は元に戻される。
そんな中、刺すような視線を感じ、ラーソルバールは一瞬身構えた。
視線の主は店の奥に座っていた隻腕の男だった。
「どうした?」
ラーソルバールの様子に気付いたエラゼルが声をかける。
「ん!」
ラーソルバールの視線の先に居た男の姿を見て、エラゼルが警戒する。男には見覚えが有った。
「あの男は……」
警戒する二人を余所に、男は手招きをする。
「皆は先に座ってて」
ラーソルバールはそう言うと、男の座っている場所へと歩を進める。
「そんなに警戒しなさんな。この腕じゃ、どうあがいたってアンタらにゃ勝てない」
男は苦笑いを浮かべると、指で向かいに座るよう促す。
間違いない。男はイリアナを狙った暗殺者の一人だ。ラーソルバールは確信した。
「アンタらをどうこうしようってつもりは無い。今更どうでも良いことだ」
「では何故か?」
エラゼルが先に言葉を発した。
「いや、見覚えのある顔を見掛けたのでな、挨拶くらいはしておいた方が良いかと思ってな。お互い飯は美味く食いたいだろう?」
男は屈託なく笑った。その言葉に嘘偽りは無いのだろう。
「その腕は?」
ラーソルバールが周囲に聞こえぬよう、小さく問う。
「ああ、あの時の毒で壊死したんでな、切った。とはいえ、さっきも言ったように、アンタらに恨みは無い。仕事の上での事だ」
「ふむ」
「まあ、この腕じゃあ、あの仕事はもう出来ないんでな、足を洗った。陽の当たらない仕事をしていた奴がこの腕で出来る仕事なんか、そうは無いがな……。流れ流れてここに来たってとこだ。因果応報ってやつだな」
「そうですか……」
ラーソルバールは言葉に詰まった。例え相手が暗殺者だったとはいえ、罪悪感が無いという訳でもない。男の道を変えたのは自分だという認識はある。暗殺者を続けた方が良かった、という訳ではないのだが。
「ただ、お頭はそうはいかねえ。仕事をしくじり、手下を死なせ、依頼人まで捕まったとなれば、面目丸潰れだ。アンタらに復讐するため、剣を研いで狙っているだろうさ」
「何故それを我々に?」
警戒を解いたように、エラゼルは椅子の背もたれに寄りかかる。
「ここで会ったのも何かの縁だ。綺麗な娘さん二人の姿に絆されたってとこかねえ」
男は二人の顔を見て笑った。そこにかつての暗殺者の陰は無い。ただ純粋に、胸のつかえが取れた、といった様子だった。
国内とは言え、一行の誰もこの街に来た事が無かった。初めて目にする街は、夜の帳が降りつつあるとは言え、ラーソルバールにとっては新鮮だった。すぐにでも宿を出て、街並みを見たり店を巡りたいという気になってしまう。
だがこの日は皆、疲労がたまっているためそれも叶わない。部屋に荷物を置くと、そのままベッドに倒れ込んでしまおうかという誘惑もあるが、空腹感が邪魔をする。
各自の部屋に別れる前に約束していた通り、夕食を食べるため、護身用の懐剣だけを持ち外に出た。
全員が揃ったところで、宿と併せて御者に聞いた食堂へと足を運ぶ。
日が沈んだとは言え、街を行き交う人の数は少なくない。王都とは比較にならないが、温泉が有るだけに賑わっているという事だろう。
行政手腕も悪くないのだろう。それもあっての処分保留なのだろうか。出立前に与えられた情報を繋げてみると、何となく見えてくる。
宿から少し離れた場所に教えられた食堂は有った。少し細い路地に入った所に有る為か、人通りは多くない。
店の中からは賑やかな話し声が聞こえてくる。そこ声に誘われるように店の扉を開けた。
中に入ると、店内の客の一部から視線が寄せられるが、すぐに視線は元に戻される。
そんな中、刺すような視線を感じ、ラーソルバールは一瞬身構えた。
視線の主は店の奥に座っていた隻腕の男だった。
「どうした?」
ラーソルバールの様子に気付いたエラゼルが声をかける。
「ん!」
ラーソルバールの視線の先に居た男の姿を見て、エラゼルが警戒する。男には見覚えが有った。
「あの男は……」
警戒する二人を余所に、男は手招きをする。
「皆は先に座ってて」
ラーソルバールはそう言うと、男の座っている場所へと歩を進める。
「そんなに警戒しなさんな。この腕じゃ、どうあがいたってアンタらにゃ勝てない」
男は苦笑いを浮かべると、指で向かいに座るよう促す。
間違いない。男はイリアナを狙った暗殺者の一人だ。ラーソルバールは確信した。
「アンタらをどうこうしようってつもりは無い。今更どうでも良いことだ」
「では何故か?」
エラゼルが先に言葉を発した。
「いや、見覚えのある顔を見掛けたのでな、挨拶くらいはしておいた方が良いかと思ってな。お互い飯は美味く食いたいだろう?」
男は屈託なく笑った。その言葉に嘘偽りは無いのだろう。
「その腕は?」
ラーソルバールが周囲に聞こえぬよう、小さく問う。
「ああ、あの時の毒で壊死したんでな、切った。とはいえ、さっきも言ったように、アンタらに恨みは無い。仕事の上での事だ」
「ふむ」
「まあ、この腕じゃあ、あの仕事はもう出来ないんでな、足を洗った。陽の当たらない仕事をしていた奴がこの腕で出来る仕事なんか、そうは無いがな……。流れ流れてここに来たってとこだ。因果応報ってやつだな」
「そうですか……」
ラーソルバールは言葉に詰まった。例え相手が暗殺者だったとはいえ、罪悪感が無いという訳でもない。男の道を変えたのは自分だという認識はある。暗殺者を続けた方が良かった、という訳ではないのだが。
「ただ、お頭はそうはいかねえ。仕事をしくじり、手下を死なせ、依頼人まで捕まったとなれば、面目丸潰れだ。アンタらに復讐するため、剣を研いで狙っているだろうさ」
「何故それを我々に?」
警戒を解いたように、エラゼルは椅子の背もたれに寄りかかる。
「ここで会ったのも何かの縁だ。綺麗な娘さん二人の姿に絆されたってとこかねえ」
男は二人の顔を見て笑った。そこにかつての暗殺者の陰は無い。ただ純粋に、胸のつかえが取れた、といった様子だった。
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