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第二部:第十九章 シルネラ共和国へ

(一)旅空①

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(一)

 旅立ちの日の朝、ラーソルバールと、旅を共にする仲間達は、騎士学校の寮の前に立っていた。
 身分証明用の認識票と、シルネラのギルドへの連絡文書は既に校長から手渡され、各自が所持している。あとは、魔法学院と救護学園からやってくるはずの参加者と、馬車が来るのを待つだけである。
 しばらく待つと八つの鐘の音が聞こえ、予定通りの時間に馬車がやって来た。
「魔法学院も、救護学園も来ないではないか」
 苛立ちを隠そうともせず、エラゼルは吐き捨てるように言う。
「まあまあ、何か手違いでも有ったのかもしれないし」
 シェラがなだめるが、怒りは収まらない。
「まあ、荷物を積んで待ってようぜ」
「そうだね」
 ラーソルバールはガイザと共に、てきぱきと荷物を載せる。荷物は買い控えたつもりだが、それでもかなりの量がある。
 この日の夜は途中の町で一泊する予定なので、食料は昼食分が有ればいいのだが、旅の途中、宿が取れないような場所で夜を迎える事も有り得る。野宿を想定した場合には、現地調達をする覚悟が必要そうだった。
 荷物を積み終え、出発準備が整ったが、それでもまだ同行者はやって来ない。

「そういえば、認識票は偽名だって言ってたけど要望通りの名前になってる?」
 ラーソルバールが偽名として申請したのは、「ルシェ・ノルアール」というもの。
 シェラが「コッテ・ララ」、エラゼルが「エリゼスト・フォローア」、ガイザが「グラデア・フォスカ」、フォルテシアが「テリネラ・ラミスター」と、それぞれ申請した通りの名が刻まれていた。
「問題ない」
 互いに認識票を見せ合うと、思わず笑いが漏れる。
「全員の名前を覚えるのが大変だ…」
 ラーソルバールは苦笑した。
「でも、何かエラゼルだけ名前が似てるね」
 そう言われてエラゼルはそっぽを向いて頬をやや赤く染めた。
「し…仕方ないではないか、そのような物を考えるのは苦手なのだ!」
 エラゼルの仕草が余りにも可愛かったので、思わずラーソルバールはその頭を撫でたくなった。
「よしよし」
 衝動のまま、隙をついて頭を撫でる。
「むぅ……」
 益々赤くなるエラゼル。対して、ラーソルバールは満面の笑みを浮かべていた。
「こらこら、そんなの見せたら年頃の男の子はイチコロだよ。ね、ガイザさん……じゃなかった。……グラデア」
 視線を外して見ない振りをする年頃の男の子。その頬や耳はやや赤い。
「来た…」
 今まで無言だったフォルテシアが、急に門を指差し言葉を発した。
 指差す方を見ると、魔術師らしい身なりの少年と、走ってやってくる少女の姿が見えた。恐らく彼らが同行者なのだろう。ガイザが小さく「良かった」と呟いたのを、シェラだけが聞いていた。
(どっちのよかった? 赤くなってたこと? 男一人じゃなくなったこと?)

 重そうな荷物を持ったまま、少女は駆け寄ってきて、止まると同時に頭を下げる。
「お待たせしたようですが、鐘が九つ鳴る前と聞いていましたのでご容赦ください。私はディナレス・ドローリア。救護学園から派遣されて来た者です」
 この少女が集合時間について嘘を言っているようには見えない。伝達ミスが有ったのだろう。少年も集合時間の話の際に同意するかのように頷いていたので恐らくそう聞いて来たのだろう。
「俺はモルアール・キーロアル。魔法学院の生徒だ。重要そうな任務だが、よろしく頼む……と言いたいところだが、女ばかりで大丈夫か?」
 モルアールと名乗った少年は、怪訝な顔をする。
「大丈夫だ。騎士団長とやり合っても、一歩も退かない奴が居るから」
 ガイザが笑って言うと、モルアールは信じられないといった様子で、眉をしかめる。
「それはあんたか?」
「いんや、あれだ」
 ラーソルバールとエラゼルの方を指差した。
「嘘だろ?」
 モルアールはそう言った後、絶句した。
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