上 下
210 / 439
第二部:第十八章 旅立ちは報せとともに

(二)依頼①

しおりを挟む
(二)

 ラーソルバール達も遂に二年生となった。
 掲示されたクラス割りに、生徒達は一喜一憂する。
 成績による振り分けもされているが、成績優秀者がラーソルバールの居るクラスに偏った。

 実は武技大会の決勝後、「友人関係を重視しているので、学校内の行事の面倒だったり目立つ役割はお断りします」と言ったことが原因だった。
 その言葉に対して学校側が余計な配慮をした結果、「友人関係を重視している」という枕詞が一人歩きしたらしい。
 本人にしてみれば、「面倒な事をしたくない」と、そのまま言う訳にもいかず、もっともらしい理由として付け足した言葉に過ぎないので、そんな事を言ったことすら忘れている。
 そんなこんなで友人としてシェラ、フォルテシアばかりか、エミーナ、ガイザ、そしてエラゼルまでもが同じクラスに組み入れられたのだった。
 実は、寮に戻れば隣室のミリエルとも親しくしていたのだが、学校側の極秘調査からは残念ながら漏れたようだった。
 騎士学校での新しい一年を、友人に囲まれて過ごす事ができる喜びに浸って居たかったが、現実はそう優しいものではなかった。

 新しいクラスでの自己紹介もそこそこに、教師はいきなり生徒達に、ひと月の間の課外実習を言い渡した。
 予想外の事態に生徒達はざわめいた。
 勿論、毎年二年生は同様の事を行ってはいるが、極秘事項としているので、生徒達が知らないのも無理はない。
 ただ、例年は十日間程度で終わるのだが、この年は違った。
「カレルロッサ動乱により、国内の治安が乱れているので、数人が一組になって治安維持の為の活動を行って欲しい。そうすれば騎士として在るべき姿を学べるだろう」
 そう教師は告げた。
 カレルロッサ動乱が大きな要因となっている。建前も何もない本音である。
 他国との戦闘ばかりではなく、国民に寄り添い、その生活と安全を守るのも、騎士の役割だ。国内の安全確保のため、予定日数を延ばしてでも、騎士団が出来ない部分の穴埋めをする。そうすれば学校では学べない事も身に付くはず、一石二鳥を狙ったというわけだ。
 ただ、それ以外に大きな思惑がある。
 もう一つの目的を覆い隠すため、である。

 この日、ラーソルバールは校長室に呼び出された。ラーソルバール自身に思い当たる節が無いわけでもない。
 呼ばれたからには仕方が無い、相手が相手だけに断る事もできない。そう思って校長室の前までやって来た。
 扉を叩くと、中からドートス校長の声がする。
「入ってください」
 ラーソルバールは気負うことなく、扉を開けて中に入る。
「失礼します」
「ああ、挨拶は要りません。そこにどうぞ」
 校長がソファを指して座るよう促すので、言われるがまま、校長の向かい側に腰掛ける。
「この度は、準男爵になられたそうで、誠におめでとうございます」
「…あ、ありがとうございます」
 頭を下げようとする、ラーソルバールを校長は静止する。
「本来であれば、お祝いをしたいところでは有りますが、申し訳ないのですが、お呼びしたのはその事ではないのです」
 校長の顔に笑みは無い。
 事情があるにしても校長らしくないなと、ラーソルバールは思った。
「早速なんですが単刀直入に申し上げましょう」
 校長は咳払いをひとつすると、ラーソルバールの目を見る。
「貴女には冒険者になって頂きたい」
「はい…?」
 意味が分からず、ラーソルバールは固まった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

異世界行ったら人外と友達になった

小梅カリカリ
ファンタジー
気が付いたら異世界に来ていた瑠璃 優しい骸骨夫婦や頼りになるエルフ 彼女の人柄に惹かれ集まる素敵な仲間達 竜に頭丸呑みされても、誘拐されそうになっても、異世界から帰れなくても 立ち直り前に進む瑠璃 そしてこの世界で暮らしていく事を決意する

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...