上 下
203 / 439
第一部:第十七章 真実は突然に

(四)終わりと始まりと①

しおりを挟む
(四)

 馬車の中、ラーソルバールはため息をついた。
 その手にあるのは褒賞金と、勲章。さらには叙爵を示す書状と、準男爵であることを示す短剣。
 国王から下賜された物で、謁見の終わり間際に有無を言わさず全てを渡された。
 確かに、正式に準男爵となり領地を与えられるのは騎士学校を卒業してから、という話で落ち着いた。むしろ爵位を与えたい王家が、約束手形を無理矢理持たせた、と言うべきだろうか。
 こんな事が世に知れたら一大事だろう。ラーソルバールは不安になった。
 男爵家の娘が世襲ではなく新たに爵位を受けるなど、成り上がりも良いところだ、と非難され、妬まれるに違いない。
 確かに、年始の一軒も、宰相の暗殺未遂も、近い場所に居合わせただけ。
 ひいては、イリアナの事件も居合わせただけ。
 ひょっとして災難を招いているのは、自分自身なのかとさえ思えてくる。
 近いうちに発表があるらしいが、恐ろしくてたまらない。

 その発表と前後する予定なのが、反乱貴族の名前と、処分内容である。
 各領地には既に知らされ、国王の代理人が領地の運営を行う事になっているだろうが、国内には未だ公にされていない。
 衝撃の内容が待っているに違いなく、ラーソルバールの叙勲の話がそれに埋没してくれる事を願うしかない。

 ラーソルバールの憂鬱そうな顔を見て、エラゼルが苦笑した。
「そう暗い顔をするな。謁見も終わったのだし、もう少し気を抜いても良いのではないか」
 帰りの馬車は、城の物ではあるが、王家の紋章は入っていない。
 王子も居らず、車内にはエラゼルしか居らず、気が楽なのは間違いない。
「こんなもの貰っても困るだけなんだけど…」
「良いではないか、準男爵殿」
 エラゼルはニヤリと笑ってからかう。
「やめてよ、恥ずかしい…」
「自身が爵位を持っているのなら、今後は公爵家の娘の取り巻きと言われなくだろう?」
「ぐ……」
 そういう問題ではない、と言いたいところではあるが、言い返すこともできない。

 結局、エラゼルは勲章と褒賞金を受け取っただけ。
 他にエラゼルに渡されたのは、暗殺未遂事件の際に、共に戦った生徒達の名が記された感謝状と、その者達の分の勲章と褒賞金。エラゼルの勲章は彼らより一段階上で、皆を代表して受け取ったようなものだ。
 戦闘中に死亡したドラッセの名も感謝状に記され、勲章も存在している。
 謁見の際に、宰相が読み上げた感謝状に記された人々の中に、その名が有ったときには思わず涙が出そうになった。
 勲章など有ったところで、死んだ人間が生き返る訳ではない。だが、両親にとっては息子が確かに生きた証であり、最後の行いが評価されての物であるから、無いよりは有った方が良いに決まっている。
 もしかしたら、ドラッセの両親にとって、息子が死んだ場で活躍し爵位を受けたラーソルバールは憎むべき存在になるかもしれない。「何故、息子は死んだのに、あの小娘は生きていて、準男爵などになったのか」と。
「色々あるかも知れんが、それを受け止めるのもまた、ラーソルバールの役目だ」
 考えている事が分かっているのだろうかと思う程、エラゼルの言葉は的確だった。
「うん……」
 言葉には応じたものの、憂鬱でしかない。

 馬車に揺られながら、ラーソルバールはあれこれと考える。
 今後はどうなる。同じような生活が送れるのだろうか。
 父には謁見の話は伝えてあるが、ちゃんと説明をしなければならない。
 またお金を受け取ってしまったが、どうしたら良いだろう。
 これで友たちとの間に溝が出来たらどうしよう。
「叙爵くらいで溝が出来るような友を持ったのか?」
 考えていたら、口に出ていたようで、エラゼルが聞き咎めた。
「ううん、そんな事は無いと思うけど…」
「そうだな、人の心は絶対ではない。信じていても、そうでは無くなる事もある。まあ、私は気にしないが」
 エラゼルは微笑を湛え、馬車の外を眺める。

「街も復興したな」
「うん、そうだね」
 通りかかった路地から、整然と並ぶ家々と、行き交う人々の姿が見えた。
 年始に破壊された場所は、見事に復興しており、その光景が二人には何よりの喜びとなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...