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第一部:第十七章 真実は突然に
(一)追悼①
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(一)
事件の翌日。
カレルロッサの戦いが終わった丁度その頃、追悼式が始まっていた。
式には意識の無い重体者を除き、重傷者を含め、生存者のほぼ全員が出席したが、そこに行方不明者の姿は無い。
行方不明者、それはアルディスとエフィアナの二名。
追悼式の前、リックスはラーソルバールにこっそりと教えてくれた。
「式の開始時点では二人は確かに卒業生の中に居た」
リックスは、この二人が兵士達に紛れていた事に気付いている。
勲章仲間も同じだ。
だが、誰もそれを他の生徒には言ってはいない。
言える雰囲気では無いのかもしれないが、ラーソルバールに配慮している事に加え、学友を犯罪者の一人にしたくないという思いが有ったに違いない。
「あんなに気のいい奴は居ないんだが…」
そう一言、リックスは悔しそうな表情を浮かべ、付け加えた。
エラゼルも朝方に慌しく戻ってきており、式に参加している。
戻ってくるなり、ラーソルバールの部屋の扉を叩き、朝の弱い部屋の主を無理矢理起こした。
「よし!」
シェラが部屋に居る事を確認すると、満足したように自室に戻って行った。
突然の事に、ラーソルバールもシェラも呆気に取られてしまい、その場に固まっていたが、ふと我に返ると二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
これが落ち込んでいたラーソルバールを笑わせる為の、エラゼルなりの気遣いなのか、それとも素でやっている事なのか、二人には分からない。
「心配だったんだよ、きっと」
シェラはそう言ってラーソルバールの頬を軽くつねった。
そのシェラも式の中、ラーソルバールの席の隣で沈痛な面持ちで座っている。
あの時、シェラとフォルテシアが率先して誘導してくれたから、一年生には被害が出ずに済んだとラーソルバールは感謝している。
昨日は礼を言いそびれたが、式が終わったらちゃんと伝えなくては、と思っている。
追悼式を行う大講堂の壁には、大きな穴が空いたまま。
春のまだ冷たい風が講堂内に流れ込む。
時折すすり泣く声も聞こえるが、追悼の言葉がそれをかき消す。
「騎士になると決めた時から、生死はそこに有ると分かっていたものの、その直前にこのような形で生を終えるとは、当人は決して思って居なかったはず……」
教員の言葉が涙声に変わる。
そして、死者の名を読み上げていく。
悲しく、切ない瞬間。
その名を持った者は生を終えた。魂は何処へ向かい、何処に行き着くのだろう。
ラーソルバールはその人達がまた生まれ変わるその時、生を全うできる事を願って止まない。
ドラッセの死に際し、王都の襲撃事件と同様にラーソルバールは無力さを感じた。
戦いの中、眼前で人が死ぬ。
騎士になる以上、それは避けられない事。死者が自分だという可能性もある。
だが、もう少し先。学生で居るうちは大丈夫。
そんな甘えがあったと、ラーソルバールは痛感していた。
己のためらいが、仲間の誰かを殺す。
ためらいを捨てる事ができるだろうか。
自身の手が、誰かの最愛の人を奪う事になるかもしれない。だが、自身の仲間は守りたい。それは大きな矛盾だと分かっている。
それでも、守りたい大事なものがあるのだと。
追悼はただ涙を流すだけではなく、死者の想いを背負って前を向く儀式でもある。その事を胸に刻んだ。
事件の翌日。
カレルロッサの戦いが終わった丁度その頃、追悼式が始まっていた。
式には意識の無い重体者を除き、重傷者を含め、生存者のほぼ全員が出席したが、そこに行方不明者の姿は無い。
行方不明者、それはアルディスとエフィアナの二名。
追悼式の前、リックスはラーソルバールにこっそりと教えてくれた。
「式の開始時点では二人は確かに卒業生の中に居た」
リックスは、この二人が兵士達に紛れていた事に気付いている。
勲章仲間も同じだ。
だが、誰もそれを他の生徒には言ってはいない。
言える雰囲気では無いのかもしれないが、ラーソルバールに配慮している事に加え、学友を犯罪者の一人にしたくないという思いが有ったに違いない。
「あんなに気のいい奴は居ないんだが…」
そう一言、リックスは悔しそうな表情を浮かべ、付け加えた。
エラゼルも朝方に慌しく戻ってきており、式に参加している。
戻ってくるなり、ラーソルバールの部屋の扉を叩き、朝の弱い部屋の主を無理矢理起こした。
「よし!」
シェラが部屋に居る事を確認すると、満足したように自室に戻って行った。
突然の事に、ラーソルバールもシェラも呆気に取られてしまい、その場に固まっていたが、ふと我に返ると二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
これが落ち込んでいたラーソルバールを笑わせる為の、エラゼルなりの気遣いなのか、それとも素でやっている事なのか、二人には分からない。
「心配だったんだよ、きっと」
シェラはそう言ってラーソルバールの頬を軽くつねった。
そのシェラも式の中、ラーソルバールの席の隣で沈痛な面持ちで座っている。
あの時、シェラとフォルテシアが率先して誘導してくれたから、一年生には被害が出ずに済んだとラーソルバールは感謝している。
昨日は礼を言いそびれたが、式が終わったらちゃんと伝えなくては、と思っている。
追悼式を行う大講堂の壁には、大きな穴が空いたまま。
春のまだ冷たい風が講堂内に流れ込む。
時折すすり泣く声も聞こえるが、追悼の言葉がそれをかき消す。
「騎士になると決めた時から、生死はそこに有ると分かっていたものの、その直前にこのような形で生を終えるとは、当人は決して思って居なかったはず……」
教員の言葉が涙声に変わる。
そして、死者の名を読み上げていく。
悲しく、切ない瞬間。
その名を持った者は生を終えた。魂は何処へ向かい、何処に行き着くのだろう。
ラーソルバールはその人達がまた生まれ変わるその時、生を全うできる事を願って止まない。
ドラッセの死に際し、王都の襲撃事件と同様にラーソルバールは無力さを感じた。
戦いの中、眼前で人が死ぬ。
騎士になる以上、それは避けられない事。死者が自分だという可能性もある。
だが、もう少し先。学生で居るうちは大丈夫。
そんな甘えがあったと、ラーソルバールは痛感していた。
己のためらいが、仲間の誰かを殺す。
ためらいを捨てる事ができるだろうか。
自身の手が、誰かの最愛の人を奪う事になるかもしれない。だが、自身の仲間は守りたい。それは大きな矛盾だと分かっている。
それでも、守りたい大事なものがあるのだと。
追悼はただ涙を流すだけではなく、死者の想いを背負って前を向く儀式でもある。その事を胸に刻んだ。
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