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第一部:第十六章 動乱

(一)巣立ちの声③

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 そして騎士学校卒業式当日。
 大講堂で一年生が先に席に座って待っていた所に、教官らに先導されて二年生たちは緊張の面持ちで現れた。
 希望と少々の寂寥感と、自らの一歩への緊張と。ここから巣立つ自分達の姿をどう描いているのだろうか。
 それを見る一年生達は、羨望の眼差しを向けている。
 ここから五日もすれば、配属先も決まり、晴れて騎士団の一員として活動することになる。苦労した学生生活が、ようやく報われる日でもある。

 式の開始を前に大講堂には、軍務大臣のナスターク侯爵や、宰相のメッサーハイト公爵が現れ、周囲は緊張に包まれる。
 第三騎士団のファンハウゼン、第八騎士団長のジャハネートの二人の騎士団長もその後に続く。
 一年生、二年生共に着席したまま、その光景を見詰めていた。
 ラーソルバールはファンハウゼンを初めて見た。
 老将と呼ばれている、間もなく齢七十に達する騎士団の最長老である。
 白い髭を蓄え、かつて勇壮な騎士であった事は想像できなくも無いが、その栄光は消えてしまったと揶揄されるほど衰えて見える。
 国王陛下の剣の師であった事を盾に、騎士団長の座にしがみついている、と口汚く罵る者も多いと聞くが、そうした私欲に塗れた人物にも見えない。
 はてさて、どういう人物なのだろうかと少し興味を持った。

 ラーソルバールがファンハウゼンを何気なく見ているうちに、式は始まった。
 一年生達の前に座っていた二年生が、式の開始と共に立ち上がり、敬礼をする。
 校長が登壇し、祝いの言葉を述べる。
 相変わらず短い言葉で終えるのだろうと思っていたが、さすがにこの時ばかりはしっかりと自らの言葉を卒業生達に送っていた。
 らしくない、とラーソルバールは心の中で思ったが、どちらが本当の校長の姿なのかは良く分からない。
 姿勢良く、立ったままの卒業生。ラーソルバールは見知った人たちはどこだろうかと後姿から探すが、幾重にも並ぶ人の中から探し出すのは容易な事ではなかった。
(ああ、あれリックスさんかな…)
 ようやく一人、それらしい人物を見つけた。
(あれが多分、ユーラさんだな)
 女性の後姿から、守護者勲章仲間のひとりを見つける。
(あとは陰になって分からないな…)
 あまり派手に体を揺らす訳にもいかず、視線だけを動かして探すが、それも限界だった。
 ラーソルバールがもぞもぞと体を少し動かし始めた事を、隣に居たシェラが気付き、苦笑すると肘でつついて注意した。

「次に宰相でありますメッサーハイト公爵からの祝辞であります」
 その言葉に一年生も起立敬礼し、その姿を追う。
 メッサーハイト侯爵が立ちあがり、壇上中央へ向かおうとした瞬間だった。

 ドンという凄まじい轟音と共に大講堂の壁が爆発し、吹き飛んだ。
 爆発で何人もの生徒が吹き飛ばされ、壁の破片が講堂内に降り注ぐ。
「何!?」
 何が起きたか理解ができぬまま、粉塵が舞い視界が遮られる。
 予想だにしない出来事に、大講堂は混乱に陥った。
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