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第一部:第十五章 その流れる先は

(三)軍務省②

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 二人は馬車に乗り込むと顔を見合わせた。
「大臣からのお呼びではないと思うけど」
「まあ、夜中の一件だろうな」
 それ以外にはないだろうとは思う。
 事情聴取の類であれば、既にエラゼルが協力しているはずだし、今更何の用があるというのだろう。
 休暇の最後の一日くらい、ゆっくり過ごさせて欲しいものだと、恨めしく思う。
 昨日来た道を逆に走り、街の惨状を再び目にする。
 片付けも進んでおり、動き回る街の人々に悲しみの色は無い。
 今日、明日を生きるため、下を向いている暇はないのだろう。
 昨夜エラゼルに聞いた話だが、家を失った人々は、一時的に専用の宿舎が用意される事になっているらしい。
 破壊や火災による損害があったのは五十件を越えるだろう。復興のため、国からの資金援助もしっかりと有ると良いのだが。
 そんな事を考えていると、すぐに寮に到着した。

 寮の生徒たちが、馬車から降りる私達の様子を何事かと見詰めている。
 明日から学校が始まることもあり、寮には多くの生徒たちが戻ってきているようだ。
 視線を浴びながらも、何事も無かったかのように女子寮へ向かうと、寮母さんに呼び止められた。
 寮母さんの傍らには女性騎士が立っており、二人は手紙を渡された。
「時間が無いので挨拶は省きます。この手紙は馬車内で読んでください。それから、制服に着替えてすぐに戻ってきて下さい」
 そう言われて、エラゼルと共に訳も分からず、急いで部屋に戻って仕度を整えることにする。
 私が戻った気配を感じて、シェラが部屋にやってきたのだが、軍務省に呼ばれている旨を伝えると、驚いた様子で私の仕度を手伝ってくれた。
 軍務省に連れて行かれると分かっていながら、化粧もせずにいる訳にもいかず、申し訳程度に口紅だけつけることにした。元々化粧などあまりした事も無く、時間も無いようなので止むを得ない対応だろうと思っている。
 ……勿論、口紅をつけてくれたのはシェラだ。
 最後に髪を束ねて縛ると、女性騎士の待つ寮母部屋の前に戻った。

 私よりやや遅れてエラゼルも戻ってきた。
 彼女も私と同じく化粧は口紅だけなのだが、素地が良いからだろうか、それを感じさせない美しさだった。
 それには私も笑うしかなかった。
 私の見送りにやってきたシェラが、同じように苦笑いをしていたのはそれが理由だろうか。
 後で聞いてみようと思った。
「さあ、行きますよ」
 二人の顔を見ると、女性騎士は声をかける。
 余程急いでいるのだろうか、早足で先程私達が乗ってきた馬車へと向かう。
「気をつけてね」
 シェラが心配そうに手を振る。
 私はそれに頷くと手を降り、女性騎士の指示に従って馬車に乗り込んだ。
 エラゼルと女性騎士が乗り込むと、すぐに馬車は動き出した。
「ああ、手紙」
 私は慌てて肩掛け鞄から、先程の手紙を取り出した。
「何とある?」
 エラゼルが聞いてきた。
「いや、貴女も同じ物あるでしょ、横着しないで自分のを読みなさいよ」
「どうせ中身は同じだろう。それくらい良いではないか」
 エラゼルは駄々っ子のように、口を尖らせて膨れる。
 その様子があまりにも可愛かったので、私は負けた。
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