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第一部:第十五章 その流れる先は
(二)歌声②
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フィアーナには言えないような事情もあるので、そこは伏せる。怪物と戦って怪我をしたので救護院にやってきたと簡略に伝えた。
「そうかぁ。でも救護院って騎士団の関連施設だよね。一般の人も入れるの?」
「そういうものなの? 私、騎士学校の生徒だから大丈夫なのかな」
面倒な事になりそうなので、誤魔化しておく。
「それで、怪我の方はもういいの?」
慣れた手つきでフォークとお茶を二人の前に置きながら、フィアーナは質問する。
「うん、痛いところももう無いし、多分大丈夫」
「無理をしすぎなのだ、ラーソルバールは」
エラゼルに咎められた。
「そんな事無いよ。やらなきゃいけない事をやってるだけだから…」
ちょっと口を尖らせて反論してみる。
私にとっては誰かを守るという事は、やらなければならない事だ。
そう言うエラゼルだって同じようなものじゃないか。
私や街の人たちの為に、無茶をしすぎだ。それは賞賛されるべきことだが、仮にも公爵家の令嬢が率先してやるような事ではない。
目で訴えかけたが、相手にされなかった。
「はいはい。じゃあ、美味しいものを食べて頑張ってね」
食事を目の前に置きながら、フィアーナは二人の顔を見た。
「中央区の方で夜中に騒動が有ったって聞いたけど、お客さんはいつも通りだよ」
フィアーナが言う通り、店内に居る客は賑やかで、時折笑い声も聞こえる。
「みんな、関係無いと思っている訳じゃないよ。きっと怖かったり悲しかったりするんだと思う。でもそこで止まってたら、街全部が暗くなっちゃうからね」
「そうだね。フィアーナの言う通りだ。……じゃあこれ、頂きます。」
私もそう強くありたい。
スープを口に運んで、涙が出そうになるのを誤魔化した。
エラゼルも手を合わせた後、黙ってスープを口にする。
美味しい食事に、二人とも少し心が解れ、フィアーナとの昔話も弾んだ。
フィアーナは友達が来ているなら特別ということで、女将さんから店の仕事を少し減らして貰えたようで、カウンターの中で手伝いながら、私とエラゼルに付きっ切りだった。
私とエラゼルが一緒に居る事も、やはり気になっていたようで、理由など色々と聞かれた。
エラゼルも時折恥ずかしそうに小さな声になりながらも、多少は説明していた。
私たちが食事を終える頃、客の一人が席から立ち上がった。
「街が燃えてもまた立ち上がる。俺達は負けない、皆で助け合っていこうぜ!」
その声に、店内から歓声が上がる。
「肥沃なる大地を…照らす光に……」
そして誰かが、国家を歌い始めた。
つられるように、一人、また一人と歌い出す。
気付けば、私やエラゼルを含め、店内全員が歌っていた。
エラゼルは瞳を閉じて手を胸に当てて歌っている。
涙が頬を伝うのが見えた。エラゼルはその目で見た死者を、歌うことで弔っているのだろうか。歌うことで死者を弔うことが出来るならば、私もこの声を届けよう。
守る事ができなかった人たちに、私にできる事はこれくらいしかない。
歌声は力強くそしてどこか物悲しく、店内に響き続けた。
「そうかぁ。でも救護院って騎士団の関連施設だよね。一般の人も入れるの?」
「そういうものなの? 私、騎士学校の生徒だから大丈夫なのかな」
面倒な事になりそうなので、誤魔化しておく。
「それで、怪我の方はもういいの?」
慣れた手つきでフォークとお茶を二人の前に置きながら、フィアーナは質問する。
「うん、痛いところももう無いし、多分大丈夫」
「無理をしすぎなのだ、ラーソルバールは」
エラゼルに咎められた。
「そんな事無いよ。やらなきゃいけない事をやってるだけだから…」
ちょっと口を尖らせて反論してみる。
私にとっては誰かを守るという事は、やらなければならない事だ。
そう言うエラゼルだって同じようなものじゃないか。
私や街の人たちの為に、無茶をしすぎだ。それは賞賛されるべきことだが、仮にも公爵家の令嬢が率先してやるような事ではない。
目で訴えかけたが、相手にされなかった。
「はいはい。じゃあ、美味しいものを食べて頑張ってね」
食事を目の前に置きながら、フィアーナは二人の顔を見た。
「中央区の方で夜中に騒動が有ったって聞いたけど、お客さんはいつも通りだよ」
フィアーナが言う通り、店内に居る客は賑やかで、時折笑い声も聞こえる。
「みんな、関係無いと思っている訳じゃないよ。きっと怖かったり悲しかったりするんだと思う。でもそこで止まってたら、街全部が暗くなっちゃうからね」
「そうだね。フィアーナの言う通りだ。……じゃあこれ、頂きます。」
私もそう強くありたい。
スープを口に運んで、涙が出そうになるのを誤魔化した。
エラゼルも手を合わせた後、黙ってスープを口にする。
美味しい食事に、二人とも少し心が解れ、フィアーナとの昔話も弾んだ。
フィアーナは友達が来ているなら特別ということで、女将さんから店の仕事を少し減らして貰えたようで、カウンターの中で手伝いながら、私とエラゼルに付きっ切りだった。
私とエラゼルが一緒に居る事も、やはり気になっていたようで、理由など色々と聞かれた。
エラゼルも時折恥ずかしそうに小さな声になりながらも、多少は説明していた。
私たちが食事を終える頃、客の一人が席から立ち上がった。
「街が燃えてもまた立ち上がる。俺達は負けない、皆で助け合っていこうぜ!」
その声に、店内から歓声が上がる。
「肥沃なる大地を…照らす光に……」
そして誰かが、国家を歌い始めた。
つられるように、一人、また一人と歌い出す。
気付けば、私やエラゼルを含め、店内全員が歌っていた。
エラゼルは瞳を閉じて手を胸に当てて歌っている。
涙が頬を伝うのが見えた。エラゼルはその目で見た死者を、歌うことで弔っているのだろうか。歌うことで死者を弔うことが出来るならば、私もこの声を届けよう。
守る事ができなかった人たちに、私にできる事はこれくらいしかない。
歌声は力強くそしてどこか物悲しく、店内に響き続けた。
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