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第一部:第十三章 思惑

(一)芽吹き②

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「貴女のお名前は?」
「ご家族は?」
「お住まいいや、ご領地は何処ですか?」
「婚約者はおられますか?」
 あっという間に囲まれたラーソルバールは、次々に質問攻めにあった。
「え、あ、あの…」
 こういった対応に慣れていないため、返答にも困る。
「私は、ミルエルシ家……男爵家の娘で、ラーソルバールと申します。皆様のご期待に沿えるような者ではありません」
 華やかな社交界において、美しいものや、興味を惹かれるものに人は群がる。
 エラゼルのように公爵家の娘ともなると、知名度も高く、いくら美しくとも近寄り難い存在だと認識されているため、同じようにはならない。
 エラゼルと共に居た事がかえって、存在を際立たせる事になったという不運でもある。
 逃げ場の無い状態に追い込まれ、人の輪は次第に狭められていく。
「カザルファード家です。是非お近づきに」
「いえいえ、ヨラインダー家をよろしく…」
「えっと…あの…」
 困り果てていると、背後から腕を掴まれて囲みから引き出され、あっという間に離れたところまで連れてこられた。
「あ、どうも…」
「どうもじゃないわよ、居ないと思ったら囲まれてて…、もう、何やってるの?」
 救いの主はシェラだった。
 友の顔を見た瞬間、ラーソルバールはほっとしたような顔を見せた。
「ただでさえ、真っ赤なドレスで目立つんだから、もっと気をつけないと」
「うん……、エラゼルと一緒に居たときには何も無かったから、大丈夫だと思ってたんだ…けど……」
 少し俯く。
「助けてくれて、ありがとう」
「大観衆の前の戦闘とか平気なくせに、こういうの弱いんだから」
 呆れたようにシェラは言った。
「じゃあ、しばらく父上の近くで大人しくしてる……」
 しょげたように言うラーソルバールを見て、シェラは苦笑いする。
「一緒に居てもいい?」
 見かねたように、シェラは手を握り、言った。
「うん」
 安心したように頷くと、ラーソルバールは笑顔を見せた。

「ガイザさんや、アルディスさんは?」
 ようやく一息ついたところで、シェラに聞かれ、ラーソルバールは彼らのことを思い出した。
「ああ、そういえばまだ会ってないなあ」
 エラゼルと一緒に居たので、遠慮したのだろうか。
「どこかに居るとは思うけど。まだ、受付時間が終わってないから来ていないだけかも知れない」
 そうは言ったものの、気になり始めると、落ち着かない。
 かといって探しにうろつけば、先程のように取り囲まれる可能性もある。
 今は父の陰で顔を隠すように、大人しくしているので問題無いのだが、ここから動けばどうなる事か。
 ラーソルバールはため息をついた。
「よう、どうした辛気臭い顔して」
 ガイザが顔を覗き込んできた。
「来てたんだ」
「いや、来ない訳にはいかないだろ? グレイズって奴も、ゲイルもフォッチョも居たぞ」
 ガイザはニヤリと笑った。
「しかし、女ってのは本当に化けるのが上手いな。最初は二人とも分からなかったよ」
「はいはい、どうも」
 あしらうように応えるラーソルバール。
「アル兄は見なかった?」
「ああ、そうだな、まだ見ていないな」
「もうそろそろ始まりの鐘が鳴る頃なんだけどなあ」
 ラーソルバールが少し寂しそうな顔をしたので、ガイザは思わず顔を背けた。
「と、ところで、俺たちは始まったら何をしてりゃあいいんだ?」
 ガイザの言葉に、ラーソルバールは思わずシェラの顔を見た。
「わ、私だって知らないよ。初めてなのはみんな一緒!」
「なぁんだ、知らないのか」
「なに、なにそんなにガッカリした顔してるの!」
 次の瞬間、ラーソルバールの笑顔を見てシェラはからかわれた事に気づいた。
 おのれ、あとで小さな仕返しをしてやる。とシェラは決めた。
「ラーソル、まず始まったら陛下がお出座しになる。御話を静かに聞き、その後で新大臣のご挨拶だ。それが終われば食事だよ」
 自分達の会話を聞いていないと思っていた父の言葉に、ラーソルバールは驚いた。
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