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第一部:第十章 エラゼルとラーソルバール(中編)
(一)武技大会②
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「ただいま」
しばらくしてシェラが観覧席に戻ってきた。
「見てたよ。楽勝だったね」
拍手でシェラを迎える。
シェラは試合開始後間もなく、男子を相手に見事な胴切りで勝負を決めた。
先制攻撃を受け止めると、一瞬身を引いて相手のバランスを崩し、胴に切り込んだ。
加減し損なったが、鎧のおかげである程度の衝撃は吸収できていたはずだ。それでも、相手が崩れ落ちたのは、急所に入ったからだと思われる。
「フォルテシアの言う通り、誰かと比べたら、まるで止まっているかのようだったよ」
「相手に失礼だよ……」
ラーソルバールは、冗談めかしく笑うシェラを嗜める。
もうすぐ一年というこの時期に、ここまで生徒の力量差が大きいのは問題ではないだろうか。
あと一年もすれば騎士見習いとして、この学舎から巣立って行かなくてはならないのだから、心配にもなる。当人はもとより、半人前の騎士を戦列に加えることになる騎士団が困るだろう。
そこまで考えて頭を振った。自分も一回戦で呆気なく倒されるかもしれないので、他人事ではないではないか。そうならないよう、日頃から鍛練しているつもりではあるが……。
色々と余計な事を考えながら、ぼんやりと試合を眺めていたが、シェラに呼ばれて我に返った。
「ほら、エラゼルさんが出てきたよ」
彼女の指差す方向に、剣を手にしたエラゼルが立っていた。
彼女の誕生日の一件があってから、二人の距離感が微妙に変わった気がしている。
もっとも、その後に学校や寮で何度かすれ違っているが、特に何が有った訳でもない。気のせいだと言われれば、そうかもしれない。
少なくとも追い掛け回されていない分、前ほどの苦手感は無くなった気はしている。
やはり自分の気持ちの問題なのか。エラゼルを見つめながら、自分を見つめ直しているような気がして来た。
審判員の手が挙げられ、試合が始まる。
エラゼルは武器を構え、一歩も動かない。対戦相手の男子はそれを見ると、勝機と思ったか、エラゼルに駆け寄って斬りかかった。
だがそれが無謀だったと、すぐに思い知ることになる。
軽々と剣は受け流され、男子生徒は腹部に強烈な一撃を喰らって倒れ込んだ。
「あー、容赦ないなあ」
瞬時の出来事だったが、その一振りが誰の目にも分かる、一切の手加減の無いものだった。
シェラとは対照的に、ラーソルバールは冷静にそれを見ていた。
「怒ったからじゃないかな?」
「怒った?」
シェラにはその理由が分からなかった。
「最初、動かなかったでしょ、相手に補助魔法をかける時間を与えた。けど、何もせずに突っ込んできた癖に、腕も大したこと無いじゃないか、って」
ラーソルバールの説明で納得したようにシェラは頷いた。
「良く分かっているんだね、エラゼルさんの事好きなんだ」
「ち……違う、そういうのじゃ無くて……」
赤くなって必死に否定する。
「何となくだけど、そう考えてそうな気がする。彼女、勝っても凄い不満そうでしょ。あれだけ完璧な一撃なのに、だよ」
「何か妬ける…」
シェラが呟いた言葉は歓声に紛れて、ラーソルバールの耳には届かなかった。
「ん? ……何か言った?」
「ほら、フォルテシアそろそろでしょ。行ってらっしゃい」
誤魔化すように、シェラはフォルテシアを送り出した。
しばらくしてシェラが観覧席に戻ってきた。
「見てたよ。楽勝だったね」
拍手でシェラを迎える。
シェラは試合開始後間もなく、男子を相手に見事な胴切りで勝負を決めた。
先制攻撃を受け止めると、一瞬身を引いて相手のバランスを崩し、胴に切り込んだ。
加減し損なったが、鎧のおかげである程度の衝撃は吸収できていたはずだ。それでも、相手が崩れ落ちたのは、急所に入ったからだと思われる。
「フォルテシアの言う通り、誰かと比べたら、まるで止まっているかのようだったよ」
「相手に失礼だよ……」
ラーソルバールは、冗談めかしく笑うシェラを嗜める。
もうすぐ一年というこの時期に、ここまで生徒の力量差が大きいのは問題ではないだろうか。
あと一年もすれば騎士見習いとして、この学舎から巣立って行かなくてはならないのだから、心配にもなる。当人はもとより、半人前の騎士を戦列に加えることになる騎士団が困るだろう。
そこまで考えて頭を振った。自分も一回戦で呆気なく倒されるかもしれないので、他人事ではないではないか。そうならないよう、日頃から鍛練しているつもりではあるが……。
色々と余計な事を考えながら、ぼんやりと試合を眺めていたが、シェラに呼ばれて我に返った。
「ほら、エラゼルさんが出てきたよ」
彼女の指差す方向に、剣を手にしたエラゼルが立っていた。
彼女の誕生日の一件があってから、二人の距離感が微妙に変わった気がしている。
もっとも、その後に学校や寮で何度かすれ違っているが、特に何が有った訳でもない。気のせいだと言われれば、そうかもしれない。
少なくとも追い掛け回されていない分、前ほどの苦手感は無くなった気はしている。
やはり自分の気持ちの問題なのか。エラゼルを見つめながら、自分を見つめ直しているような気がして来た。
審判員の手が挙げられ、試合が始まる。
エラゼルは武器を構え、一歩も動かない。対戦相手の男子はそれを見ると、勝機と思ったか、エラゼルに駆け寄って斬りかかった。
だがそれが無謀だったと、すぐに思い知ることになる。
軽々と剣は受け流され、男子生徒は腹部に強烈な一撃を喰らって倒れ込んだ。
「あー、容赦ないなあ」
瞬時の出来事だったが、その一振りが誰の目にも分かる、一切の手加減の無いものだった。
シェラとは対照的に、ラーソルバールは冷静にそれを見ていた。
「怒ったからじゃないかな?」
「怒った?」
シェラにはその理由が分からなかった。
「最初、動かなかったでしょ、相手に補助魔法をかける時間を与えた。けど、何もせずに突っ込んできた癖に、腕も大したこと無いじゃないか、って」
ラーソルバールの説明で納得したようにシェラは頷いた。
「良く分かっているんだね、エラゼルさんの事好きなんだ」
「ち……違う、そういうのじゃ無くて……」
赤くなって必死に否定する。
「何となくだけど、そう考えてそうな気がする。彼女、勝っても凄い不満そうでしょ。あれだけ完璧な一撃なのに、だよ」
「何か妬ける…」
シェラが呟いた言葉は歓声に紛れて、ラーソルバールの耳には届かなかった。
「ん? ……何か言った?」
「ほら、フォルテシアそろそろでしょ。行ってらっしゃい」
誤魔化すように、シェラはフォルテシアを送り出した。
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