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第一部:第九章 エラゼルとラーソルバール(前編)

(三)招かれざる客②

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 襲撃を止めようとラーソルバールが伸ばした剣は、僅かに届かなかった。
「アアアアァー!」
 絶叫し、青年は転倒する。
「ちっ……」
 姿を現した四人目の侵入者は、長身の男だった。
 怪我人を出してしまった。それもかなりの大怪我だ。出血も多く、毒もある。
 もし、この戦闘が長引けば恐らく青年は死ぬ。
 その切っ掛けを作ったのは、自分だ。
 ラーソルバールは自責の念に駆られながらも、剣を握り戦う事を選んだ。
 体勢を崩さず、そのまま繰り出した切っ先が男に届きそうになった瞬間、背後に強烈な殺気を感じて、慌てて飛び退いた。
 暗闇を切り裂く刃が一瞬だけ見えたが、今までの四人とは、危機感が圧倒的に違った。
 恐らくは、能力、熟練度、その両方が比べ物にならない相手だ。
 正面からの戦いではない暗殺者との戦いなど、経験した事も教えられた事も無い。
 逃げ回る事もできないバルコニーの上では、圧倒的に不利な状況と言っていい。
 最後の一人は場に殺気だけを残し、存在は視界から再び消えた。
 どんな技を使えば、瞬時に闇に紛れ、消え去ることが可能になるのか。暗殺者の技術などラーソルバールは知る由も無い。
 どこから現れるかも知れず、圧迫感に息が切れ、冷や汗が止まらない。
 その様子を見透かしたように、背後から長身の男が襲いかかる。
「しまっ……!」
 消えた相手にばかり意識を集中させていたため、今まで目の前に居た男への警戒を怠っていた。
 不意に近い状態でラーソルバールには避ける余裕が無く、相手の剣を自らの剣で受け止めた。
 力では遥かに劣るラーソルバールは、相手の力に圧し負けて不利な形へ持ち込まれそうになる。
(背後から来る!)
 直感した。相手が自分を確実に殺そうとするならこの機会だ。
 ラーソルバールは剣の力を一瞬抜いて相手の体勢を崩すと、体を捻って横に抜け、相手の足を払った。
 それとほぼ同時に、ラーソルバールが元居た場所へと暗殺者の剣が振り下ろされていた。
「ぬ!」
 ラーソルバールを捉えるはずだった剣は、止めきれずに長身の男の首に深く突き立てられた。
「ぎゃああああああ!」
 声を上げ、長身の男はそのまま倒れ込んだ。
 思いも寄らぬ状況に驚いたのは、暗殺者の方だった。
 姿を晒したまま、一瞬の隙ができた。
(今だ!)
 そう思って飛び出そうとした瞬間、ラーソルバールを狙った短剣が飛んできていた。
 手負いの男から放たれた直後に気が付いたのだが、払い落とす事ができるような体勢ではない。
(避けきれない!)
 半ば諦めた瞬間だった。短剣は一本の剣によって叩き落された。
「詰めが甘いぞ、ラーソルバール・ミルエルシ!」
 純白のドレスに黄金の髪を揺らす、まるでおとぎ話のお姫様のような姿に、一本の剣を携えてエラゼルが現れた。
「エラゼル!」
 安堵と共に、ラーソルバールは勝利を確信した。
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