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第一部:第八章 心機一転

(二)誕生日③

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「せっかくの誕生日だし、昔のラーソルの事を話しても良かったんだが、口止めされていてね。話すと、ラーソルとエフィアナに殺される」
 肩をすくめて冗談ぽくアルディスが言うので、皆が笑った。
「知りたかったら、領地に行くか、幼年学校の同期に聞けばいいんじゃないかな」
 そう言われてシェラはエラゼルを思い出した。
 ふたりがどんな関係だったかも、多少興味がある。
 ただ、路傍の石だと思われている自分では、彼女と会話をするのは、恐らく無理だろう。きっと悪い人では無いのだろうとは思うのだが。
「幼馴染が皆、社交界に招かれる年になったかと思うと、不思議な気持ちになる。たまたま合同訓練が直前に有って良かったよ」
 エフィアナが嬉しそうな表情を浮かべる。
 本当にラーソルバールを、妹のように思っているのだろう。
「今回のように合同訓練で一緒になることは、多分もう無いだろうから、会う機会もあまり無いな。こうやって食堂でたまに会うくらいか」
「そうだねえ。でも卒業まで半年近くあるし、また会えるよ。それと二人が正騎士になったあと、一年後に追い付くから待っててね。って、それは卒業式に言えばいいか」
 そう言ってラーソルバールはフォークを咥えた。
 貴族の娘とは思えない行儀の悪さに、エフィアナが嗜めるような視線を送る。幼少時からの付き合いのせいか、ラーソルバールはそれに気付くと、慌ててフォークを手に持った。
「時間を合わせて食べるとか、できるんじゃないのか?」
 ガイザが疑問を口にする。
「二年生は、授業や実習の終わり時間が確実ではないんだよ。団体行動になるから、全員が終わるまで解放されない」
「うげ、それは嫌だな」
 アルディスの説明にため息をつく。
 二年生の授業などについては、何も聞かされていない。
「自分が足を引っ張る側になると、申し訳ない気持ちになるよ」
 自虐的に言って笑うアルディスの隣で、エフィアナは笑顔を浮かべる。以前と変わらない、二人の微妙な距離感が面白い。ラーソルバールは黙ってそれを見つめていた。
「ああ、そういえば。新年会の前にもやる事があるでしょ」
 エフィアナが思い出したように切り出した。
「え、ああ、武技大会のこと?」
「面倒なんですか?」
 疑問に首を傾げる。
「騎士団の団長とか、軍務省のお偉いさんとか来るけど、大した問題じゃないよ。一年生と二年生は別。魔法を使えたり、武器も選べるし、自由度も高い。けど、この大会の意義が分からない」
「意義ねえ……競争心を煽るためとか、騎士団の品評会だとか、成績の一発逆転だとか、色々と言われているけど、実際はどうなんだろうね」
 アルディスとエフィアナは顔を見合わせた。
「アル兄と、エフィ姉はどうだったの?」
「俺が二位で、エフィアナは四位だった。俺達に勝ったのはマディエレ・ジラセーラって奴でさ、将来の騎士団長候補とか言われてる」
「その名前聞いた事がある。確か傲慢で冷酷な人だとかいう噂が……」
 ガイザの言葉に、エフィアナが頷き「あれが団長になんてなれるものか」と吐き捨てるように言った。
 その上で「個人的な恨みは無いが」と付け加えることも忘れなかった。
「今年は俺たちが逆襲するけど、君達も頑張ってくれ」
 と、言ってみたものの、アルディスにはラーソルバールが負ける姿が想像できなかった。
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