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第一部:第七章 部隊演習

(四)宴と戦慄の記憶①

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(四)

 合同演習当日に話は戻る。
 帰りの荷馬車。
 ラーソルバールは荷馬車に乗ると、間も無くエフィアナに寄りかかって寝てしまった。
「こんな揺れるものに乗って、良く寝られるもんだ」
 アルディスは呆れた。
「まあ、そう言わないで。この娘も頑張ったから疲れたんでしょ」
 荷馬車の走行音が大きいため、声が通りにくい。それでもラーソルバールを起こさぬよう、エフィアナは大きな声は出さない。
 エフィアナはラーソルバールにとって姉のような存在だが、妹の面倒を見て何か世話をしてくれるようなタイプではない。ラーソルバールとアルディスにとっての制止役であり、良き話し相手だった。言うなれば、精神的年長者といったところだろうか。
「ん、アルディスはあの金髪の娘の知り合いなのか?」
 六班の副班長だったリックスが興味が有りそうに、身を乗り出した。
「ああ……。エフィアナを含め、一緒に育った仲だ。妹みたいなもんだよ」
「ほう、ふた股か」
「冗談は止してくれ。色々と俺の命が危なくなる」
 リックスはその言葉の意図するところを解したのか、エフィアナの顔を見て笑った。
「とにかく、今日は彼女とエフィアナにやられたようなもんだ」
「聞く話によると、うちの斥候もどうやらあの二人にやられたらしい。エフィアナはともかく、あの一年生はそうは見えないんだがなあ……」
 失言だったか。エフィアナに睨まれ、リックスは視線を泳がせた。
「……ああそうだ、今日はスマン。血の気の多い奴が飛び出すのを抑えきれなかった」
 話を逸らして誤魔化すしかない。そういう意図が透けて見える。
「いや、仕方ないさ。それを含めての演習だ。死なないから敗戦も糧になるだろ」
「違いない」
 二人は顔を見合わせて笑った。
「戦術が以外と面白いものだと分かって良かったよ。今日の収穫だ。これからそっちの勉強をしっかりやろうかな」
「剣より学問派のリックスには合ってるかもしれないな」
 普段、この二人が会話をすることはあまり無い。
 互いに嫌っている訳ではなく、騎士としての方向性が少し違っていただけに過ぎない。剣と学問。この二つが今日の演習でうまく交錯し、良い共感を得たのだろう。
「まあ努力する。が、小規模戦闘であんなのに暴れまわられたら、戦術でどうにかなるのか」
 一瞬躊躇した後、アルディスは首を傾げる。
「遠くから弓で?」
「何で、そこ疑問形なんだよ」
「じゃあ、魔法?」
「変わんねぇよ」
 大規模な戦闘であれば、数で圧倒する事も可能になる。それが出来ない場合には?
 それを考えるのも才能ということか。頭を悩ませながら良い策はないかと悶える。マゾヒスティックな役割だ、リックスは頭をボリボリとかいた。
 ふと気になった事がある。
「しかし、あの娘は塗料だらけだな。何人倒したらああなるんだ?」
「……ああ、九人だとさ」
「嘘だろ……」
 アルディスの答えにリックスは絶句した。想定外の答えだった。
「……次回は敵軍にならないよう祈るわ」
 捻り出した言葉は、対策を放棄するものだった。
「そうだ、名案だ! 戦わなければいい」
 アルディスも思考を放棄した。
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