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第一部:第七章 部隊演習

(三)遅ればせながら①

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(三)

「いくよ、ラーソル!」
「了解」
 撤退しようとする赤軍の前に二人が立ち塞がった。
 ラーソルバールは肩で息をしていたが、大きく息を吸い込んだ。
 偵察を任され、本陣とは反対方向を調べていたのだが、開戦が予想以上に早かったため、間に合わずに慌てて走ってきたのだ。戦場には、たった今到着したばかりだった。

 与えられた仕事は、包囲から離脱しようとする相手を迎え撃つという、明確だが、骨の折れる仕事だった。
 通常は隔絶した力量差が無い限り、個人の武勇で戦局が大きく変わることは殆どない。だが、戦闘規模が小さくなるほどに、個人の武勇が持つ価値は高くなる。
 そしてその存在自体が、時には大きく意味を持つ事も有る。
「しまった、後ろはあいつらか!」
 アルディスが後悔した時には、遅かった。
 隙間を拡げに行った二年生二人が、あっという間に塗料袋を破られた。
「また、あんた強くなったんじゃない?」
「エフィ姉もね」
「これ以上強くなられたら、困るんだよ。姉として」
 戦場で相手の剣を凌ぎながら、余裕で会話を続ける二人。
 エフィアナの腕も現役騎士並は有るのだろう。
「先に一年を潰せ!」
 隙間から誘い出された赤軍は、弱いはずの一年生を倒して切り抜けようとする。
「それは駄目!」
 その光景を見たフォルテシアが、声を上げた。珍しい出来事に、シェラは驚いた。しかし、怒号に消され、フォルテシアの声は届かない。
 瞬間、ラーソルバールの姿が消えた。人波に阻まれたフォルテシアにはそう見えた。その後すぐに、ラーソルバールに向かったはずの、二年生三人が膝を落とした。
「何だ、あいつ!」
 赤軍は起きた出来事を理解できなかった。
「ハハ……。あいつまた強くなってやがる」
 どうにか、本陣の敵を引き離した瞬間の出来事に、アルディスは呆れた。
 赤軍の戦力が減らされ、均衡は崩れた。
 突破を諦めた赤軍は、乱戦に引きずり込もうとしたが、既にそれだけの戦力も無く、殲滅されるのを待つしか無かった。
 シェラ、フォルテシアは二人でカバーしつつ戦うという、シェラが提案した方法で、アルディスと共に最後まで奮戦したものの、逆境を覆すには至らなかった。
 結局、赤軍の二班は勝てる見込みがなくなったとの判断により、降伏を宣言した。
 赤軍にはまだ本陣が残っていたものの、総合判断により青軍の勝利とされ、一年生最初の合同演習は幕を閉じた。
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