69 / 439
第一部:第六章 後始末と始まり
(三)騒乱の臭い①
しおりを挟む
(三)
王命による騒乱警戒令が下されてから、ほぼひと月が経過した。
流言は王都を中心とした直轄領には一切発生しておらず、そこに隣接する貴族領から多くの報告が上がった。逆に同じ貴族領であっても、遠隔地での報告が上がることは、全く無かった。
摘発者自身や、背後関係を調べても、特に何か組織的な物が有るわけでもない。金を渡されてやった、という者ばかりで、摘発されたのは国内在住であったり、国外からの行商人だったりと統一性も無かった。
首謀者の特定もできぬまま、発生件数も減少し、事態は収束するかに見えた。
しかし突然、王宮を騒然とさせる出来事が発生する。
七月二十日の事だった。王宮に駆け込んできた伝令が、非常事態が発生したと報告したのである。
重臣一同が緊急で王の間に集められ、伝令からの報告を受けることとなった。
「ジャスカール伯爵領、イスマイア地区アスフォールで暴動が発生し、鎮圧の要請が来ております。なお、ジャスカール伯爵は現在王都に向かって逃亡中との事にございます!」
「ジャスカールめ何をやっておるのか!」
伝令の言葉に王は激怒した。
「例の報告の方はどうなっておるか」
「ジャスカール伯爵からの報告では、流言のようなものは無く、捕縛者も居ないとのものでした」
宰相は記憶していた通りの内容を即答する。
「陛下、恐れながら申し上げます」
憲兵隊を統括する、特務庁長官のザハティンが進み出た。
「申せ」
「ジャスカール伯爵は陛下からの命を軽んじ、『何故、自分の懐を痛めてそんな無駄なことをするのか、どうせ何も起きはしないのだから、対策などする必要はない。何も問題ないと報告せよ』と指示したそうにございます」
「なに……」
火に油を注ぐような発言を、ザハティンは顔色ひとつ変えずに、淡々と言ってのける。
「以前より、公費の着服や領民に対する重税、法外な通行税などの噂が絶えなかったため、内偵調査を行っておりました。噂通り、いずれも伯爵本人の指示によるものだったようです。後程、調査資料を……」
「要らぬ。即時にジャスカールの爵位と領地、私財を全て没収の上、妻子共々禁固刑とする。ザハティンよ、捕縛の件は任せたぞ」
「はっ!」
一礼すると、ザハティンは慌ただしく退出していった。
「暴動の対処は、騎士団を派遣せよ。民とは争わぬようにせよ。ジャスカールが領主ではなく罪人になったと知れば、無駄な戦闘は避けられるだろう。それでも扇動するような輩が居れば、容赦する必要はない」
軍務大臣を呼び寄せると、暴動終息のために指示を出す。
「畏まりました。即時対応致します」
王命による騒乱警戒令が下されてから、ほぼひと月が経過した。
流言は王都を中心とした直轄領には一切発生しておらず、そこに隣接する貴族領から多くの報告が上がった。逆に同じ貴族領であっても、遠隔地での報告が上がることは、全く無かった。
摘発者自身や、背後関係を調べても、特に何か組織的な物が有るわけでもない。金を渡されてやった、という者ばかりで、摘発されたのは国内在住であったり、国外からの行商人だったりと統一性も無かった。
首謀者の特定もできぬまま、発生件数も減少し、事態は収束するかに見えた。
しかし突然、王宮を騒然とさせる出来事が発生する。
七月二十日の事だった。王宮に駆け込んできた伝令が、非常事態が発生したと報告したのである。
重臣一同が緊急で王の間に集められ、伝令からの報告を受けることとなった。
「ジャスカール伯爵領、イスマイア地区アスフォールで暴動が発生し、鎮圧の要請が来ております。なお、ジャスカール伯爵は現在王都に向かって逃亡中との事にございます!」
「ジャスカールめ何をやっておるのか!」
伝令の言葉に王は激怒した。
「例の報告の方はどうなっておるか」
「ジャスカール伯爵からの報告では、流言のようなものは無く、捕縛者も居ないとのものでした」
宰相は記憶していた通りの内容を即答する。
「陛下、恐れながら申し上げます」
憲兵隊を統括する、特務庁長官のザハティンが進み出た。
「申せ」
「ジャスカール伯爵は陛下からの命を軽んじ、『何故、自分の懐を痛めてそんな無駄なことをするのか、どうせ何も起きはしないのだから、対策などする必要はない。何も問題ないと報告せよ』と指示したそうにございます」
「なに……」
火に油を注ぐような発言を、ザハティンは顔色ひとつ変えずに、淡々と言ってのける。
「以前より、公費の着服や領民に対する重税、法外な通行税などの噂が絶えなかったため、内偵調査を行っておりました。噂通り、いずれも伯爵本人の指示によるものだったようです。後程、調査資料を……」
「要らぬ。即時にジャスカールの爵位と領地、私財を全て没収の上、妻子共々禁固刑とする。ザハティンよ、捕縛の件は任せたぞ」
「はっ!」
一礼すると、ザハティンは慌ただしく退出していった。
「暴動の対処は、騎士団を派遣せよ。民とは争わぬようにせよ。ジャスカールが領主ではなく罪人になったと知れば、無駄な戦闘は避けられるだろう。それでも扇動するような輩が居れば、容赦する必要はない」
軍務大臣を呼び寄せると、暴動終息のために指示を出す。
「畏まりました。即時対応致します」
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる