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第一部:第五章 ラーソルバールの休暇(後編)
(三)帰宅②
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それにしても伯爵は良く同行を許したものだと思う。その疑問には次のような答えが返ってきた。
「伯爵様には『休暇』という形でお許し頂きました」
そう答えたメイドの顔には、したたかな笑みが浮かべられていた。
休暇以外の手も何か使った事は想像に難くないが、ラーソルバールはそれ以上怖くて聞けなかった。
「私も王都に行きたかったから、丁度良いんです。このお屋敷のメイドは私だけではありませんからね」
準備が出来たところで、荷物を持ち、メイドと共に玄関ホールに移動する。そこには、カンフォール村から一緒にやってきた二人も居た。
「すみませんでした。お二人にはご迷惑をお掛けしてしまって」
「いやいや、お嬢様のため、村のためであれば全く問題有りませんよ。昨晩は美味い飯も食わせて頂きましたし」
疲れも見せず、意外に上機嫌な二人を見て、ラーソルバールは少しだけ安心した。
「私はこのまま王都に戻ることになってしまいましたので、お二人とは途中までしかご一緒できません。私の乗ってきた馬もお預けすることになり、本当に心苦しいのですが……」
頭を下げようとするラーソルバールを、男たちは制止する。
「またフラフラになられるよりは良いですよ」
「そうそう」
ここが伯爵邸の中でなければ、二人は大声で笑って居たことだろう。ラーソルバールは二人の手を取り、感謝の意を表した。
間もなく伯爵と執事が現れた。
「待たせたな」
伯爵は登城するため、正装をしており、昨晩とはかなり雰囲気が違った。国王との謁見を予定しているためか、張り詰めたような険しい顔をしているように見える。
だが留守を預かる家族三人は、特に昨晩と変わるところが無い。
「ラーソルバールちゃん、また来て頂戴ね」
「そう出来れば良いのですが、私にとっては、伯爵家は恐れ多くて気軽に来れるような場所ではありませんよ」
今回は特別。事前連絡も無く、突然訪れるような事はもうしないだろう。優しく迎え入れてくれたが、かなり失礼な事をしたという自覚は有る。
グリュエルには、いずれ剣の相手をするという約束をさせられたが、他にはラーソルバールにとってマイナスになるような要求はして来なかった。もっとも、何も要求される事は無いはずと、確信を持ってフェスバルハ伯爵の元を訪れた訳だが。
「皆様、お世話になりました。またお会い出来る日を楽しみにしております」
「次はラーソルバールの社交界デビューの時だな。楽しみにしているぞ」
アントワールの言葉で、忘れていた事を思い出した。
貴族階級の者は十五才になると、社交界に強制的に連れ出される。もうすぐ誕生日を迎えるラーソルバールも例外ではない。
「おおそうか。その時は我が家が後援しよう」
伯爵がまでこの話に乗る流れはまずい。
「急ぎましょう、陛下をお待たせする訳にはいきません」
「そうだった。さあ、行くぞ」
伯爵の言葉を受け、振り返ってお辞儀をしてから馬車に乗り込む。
乗り合い馬車と比べ、遥かに快適な空間だが、凝った装飾が有るわけでもなく、機能美を意識して作られた物のようだった。
道中の馬車の中で、伯爵は執事と行政について話し始めた。余計な事をして、会話の邪魔をするような事はできない。黙って外の風景を眺めているほか無かった。
同行していたカンフォール村の二人と別れ、しばらくしてから昼食休憩となった。
腹ごしらえが終わって、また馬車に揺られていると、ラーソルバールは睡魔に襲われた。抗うことができず、隣に座るメイドに寄り掛かるように眠ってしまった。
「昨晩は寝付けなかったようですので……」
メイドが向かいに座る伯爵に、小声で伝える。
「色々と堂に入った所は有るが、やはり年相応ということだな」
「左様で御座いますな」
伯爵と執事は、顔を見合せ小さく笑った。向かいで眠る少女を起こさぬように。
「伯爵様には『休暇』という形でお許し頂きました」
そう答えたメイドの顔には、したたかな笑みが浮かべられていた。
休暇以外の手も何か使った事は想像に難くないが、ラーソルバールはそれ以上怖くて聞けなかった。
「私も王都に行きたかったから、丁度良いんです。このお屋敷のメイドは私だけではありませんからね」
準備が出来たところで、荷物を持ち、メイドと共に玄関ホールに移動する。そこには、カンフォール村から一緒にやってきた二人も居た。
「すみませんでした。お二人にはご迷惑をお掛けしてしまって」
「いやいや、お嬢様のため、村のためであれば全く問題有りませんよ。昨晩は美味い飯も食わせて頂きましたし」
疲れも見せず、意外に上機嫌な二人を見て、ラーソルバールは少しだけ安心した。
「私はこのまま王都に戻ることになってしまいましたので、お二人とは途中までしかご一緒できません。私の乗ってきた馬もお預けすることになり、本当に心苦しいのですが……」
頭を下げようとするラーソルバールを、男たちは制止する。
「またフラフラになられるよりは良いですよ」
「そうそう」
ここが伯爵邸の中でなければ、二人は大声で笑って居たことだろう。ラーソルバールは二人の手を取り、感謝の意を表した。
間もなく伯爵と執事が現れた。
「待たせたな」
伯爵は登城するため、正装をしており、昨晩とはかなり雰囲気が違った。国王との謁見を予定しているためか、張り詰めたような険しい顔をしているように見える。
だが留守を預かる家族三人は、特に昨晩と変わるところが無い。
「ラーソルバールちゃん、また来て頂戴ね」
「そう出来れば良いのですが、私にとっては、伯爵家は恐れ多くて気軽に来れるような場所ではありませんよ」
今回は特別。事前連絡も無く、突然訪れるような事はもうしないだろう。優しく迎え入れてくれたが、かなり失礼な事をしたという自覚は有る。
グリュエルには、いずれ剣の相手をするという約束をさせられたが、他にはラーソルバールにとってマイナスになるような要求はして来なかった。もっとも、何も要求される事は無いはずと、確信を持ってフェスバルハ伯爵の元を訪れた訳だが。
「皆様、お世話になりました。またお会い出来る日を楽しみにしております」
「次はラーソルバールの社交界デビューの時だな。楽しみにしているぞ」
アントワールの言葉で、忘れていた事を思い出した。
貴族階級の者は十五才になると、社交界に強制的に連れ出される。もうすぐ誕生日を迎えるラーソルバールも例外ではない。
「おおそうか。その時は我が家が後援しよう」
伯爵がまでこの話に乗る流れはまずい。
「急ぎましょう、陛下をお待たせする訳にはいきません」
「そうだった。さあ、行くぞ」
伯爵の言葉を受け、振り返ってお辞儀をしてから馬車に乗り込む。
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「昨晩は寝付けなかったようですので……」
メイドが向かいに座る伯爵に、小声で伝える。
「色々と堂に入った所は有るが、やはり年相応ということだな」
「左様で御座いますな」
伯爵と執事は、顔を見合せ小さく笑った。向かいで眠る少女を起こさぬように。
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