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第一部:第五章 ラーソルバールの休暇(後編)
(二)剣の重さ②
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「護身用の剣ですから、大したものではありません。父から貰った物ですが、私でも使いやすいようにと、軽量化と材質強化の魔法付与が施されている程度です」
嘘偽無く正直に答える。
「なるほど。魔法付与されている時点で大したものだと思うが、王都ではそう苦労もせず入手出来るということか。まあ、危険な物では無いということだな」
伯爵の言葉に頷いて、残り僅かとなったムースを、口に運ぼうとした瞬間だった。
「訓練以外に実際に使った事があるのかね」
非常に答えにくい質問だった。
誤魔化すのが良いか、正直に答えるのが良いか。街道に時折出没する獣や怪物、賊などを退治していますとは言えない。下手に答えれば、何を言われるか分からないので慎重に言葉を選ぶ。
「街道で獣に襲われた際に、護衛の陰に隠れて少々……」
恐る恐る答えた。
「そうか、あまり危険な事はしない方が良い」
「はい、分かりました」
笑顔で話す伯爵に何か、違和感を感じた。
「そういえば、先程面白い話を聞いてな。我が家の使用人が一昨日、領内でも商いを行っている隊商と、王都で会ったと言っておってな」
違和感の正体はこの話だろうか。冷や汗が垂れるのを感じた。
「随分と大きな『獣』を何匹も捕獲しておって、門兵に引き渡しておったそうなのだ」
あれ……。もしかしてバレてる?
「護衛も怪我を負っていたので、事情を聞くと、獣に襲われていたところ、通りがかりの若い娘に助けられたと答えたらしい」
「まあ、すごい娘さんも居たものですね」
夫人、それ私です。とは言えない。
「金髪のかわいい娘さんなんだが、青白い剣を振るって、あっという間に四匹を叩きのめしたらしい。恐ろしい強さだったそうだ」
伯爵は楽しそうに話す。視線はラーソルバールと合わせない。
「父上、そんなに凄い剣の使い手が居るなら、是非とも手合わせしたいものですな」
興味津々という感じで、次男のグリュエルが身を乗り出した。武芸好きだけに、この手の話は気になるのだろう。
「本当の話ですかねえ」
兄の方は弟と対照的に、話半分程度で受け止めているようだった。
「本当かどうかは聞いてみればいい」
「誰に、ですか?」
不思議がるアントワール。
「テーブルに突っ伏している、そこの娘に」
伯爵はラーソルバールを指差した。
唖然とする兄弟と、笑いが堪えられず、横を向いて震える夫人。伯爵的には、してやったりな展開なのだろう。
「……ご存知の上でからかっておられたんですか」
頭だけを上げて顔を真っ赤にしながら、ラーソルバールはささやかな抗議を行った。
「剣を振り回してばかりいるような、お転婆娘だと聞いていたので、使用人の話を聞いて、もしやとは思った。そして剣の話を聞いて八割方、本人に違いないだろうと」
さすが伯爵見事な読みでございます、と手放しで賛辞を贈るような話ではない。出来れば気付かないでいて欲しかった、というのが正直な所だ。
「で、どのような獣で?」
グリュエルとしては気になるらしい。事の顛末を全て知りたいと言い出しそうな雰囲気だ。
「わざわざ門番に突き出すような獣も居ないだろう。盗賊の類ですね」
アントワールは弟と違い、物事を正しく把握しているようだった。
どちらにしても、ラーソルバールとしてはお転婆娘の所業として、恥ずかしい事に変わりはない。
「なるほど。父上はラーソルバールをからかうため、わざわざ獣と言ったのですか。しかし賊を四人ともは……」
兄の言葉でようやく理解したグリュエルは、感心しきりというように唸った。
嘘偽無く正直に答える。
「なるほど。魔法付与されている時点で大したものだと思うが、王都ではそう苦労もせず入手出来るということか。まあ、危険な物では無いということだな」
伯爵の言葉に頷いて、残り僅かとなったムースを、口に運ぼうとした瞬間だった。
「訓練以外に実際に使った事があるのかね」
非常に答えにくい質問だった。
誤魔化すのが良いか、正直に答えるのが良いか。街道に時折出没する獣や怪物、賊などを退治していますとは言えない。下手に答えれば、何を言われるか分からないので慎重に言葉を選ぶ。
「街道で獣に襲われた際に、護衛の陰に隠れて少々……」
恐る恐る答えた。
「そうか、あまり危険な事はしない方が良い」
「はい、分かりました」
笑顔で話す伯爵に何か、違和感を感じた。
「そういえば、先程面白い話を聞いてな。我が家の使用人が一昨日、領内でも商いを行っている隊商と、王都で会ったと言っておってな」
違和感の正体はこの話だろうか。冷や汗が垂れるのを感じた。
「随分と大きな『獣』を何匹も捕獲しておって、門兵に引き渡しておったそうなのだ」
あれ……。もしかしてバレてる?
「護衛も怪我を負っていたので、事情を聞くと、獣に襲われていたところ、通りがかりの若い娘に助けられたと答えたらしい」
「まあ、すごい娘さんも居たものですね」
夫人、それ私です。とは言えない。
「金髪のかわいい娘さんなんだが、青白い剣を振るって、あっという間に四匹を叩きのめしたらしい。恐ろしい強さだったそうだ」
伯爵は楽しそうに話す。視線はラーソルバールと合わせない。
「父上、そんなに凄い剣の使い手が居るなら、是非とも手合わせしたいものですな」
興味津々という感じで、次男のグリュエルが身を乗り出した。武芸好きだけに、この手の話は気になるのだろう。
「本当の話ですかねえ」
兄の方は弟と対照的に、話半分程度で受け止めているようだった。
「本当かどうかは聞いてみればいい」
「誰に、ですか?」
不思議がるアントワール。
「テーブルに突っ伏している、そこの娘に」
伯爵はラーソルバールを指差した。
唖然とする兄弟と、笑いが堪えられず、横を向いて震える夫人。伯爵的には、してやったりな展開なのだろう。
「……ご存知の上でからかっておられたんですか」
頭だけを上げて顔を真っ赤にしながら、ラーソルバールはささやかな抗議を行った。
「剣を振り回してばかりいるような、お転婆娘だと聞いていたので、使用人の話を聞いて、もしやとは思った。そして剣の話を聞いて八割方、本人に違いないだろうと」
さすが伯爵見事な読みでございます、と手放しで賛辞を贈るような話ではない。出来れば気付かないでいて欲しかった、というのが正直な所だ。
「で、どのような獣で?」
グリュエルとしては気になるらしい。事の顛末を全て知りたいと言い出しそうな雰囲気だ。
「わざわざ門番に突き出すような獣も居ないだろう。盗賊の類ですね」
アントワールは弟と違い、物事を正しく把握しているようだった。
どちらにしても、ラーソルバールとしてはお転婆娘の所業として、恥ずかしい事に変わりはない。
「なるほど。父上はラーソルバールをからかうため、わざわざ獣と言ったのですか。しかし賊を四人ともは……」
兄の言葉でようやく理解したグリュエルは、感心しきりというように唸った。
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