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第一部:第四章 ラーソルバールの休暇(前編)

(一)通り雨のあとで③

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「手助け感謝する」
 来るなと言った手前、恥ずかしいのか、護衛の男は言葉短く告げた。
「まだ終わってませんよ」
 そう答えると、ラーソルバールは賊の退路を絶つように、後背にまわる。
 苛立ちを隠せない賊の頭領は、ラーソルバールに向き直った。
「全員殺っちまえ!」
 先程とは違い、自分を殺しに来る。ラーソルバールは甘い考えを捨てた。
 賊は戦斧を構え、距離を測るように動く。他の戦いも打ち合いが止むことなく、何度も激しい金属音が響く。
 先に大きく動いたのは、賊の頭領だった。
 眼前の娘を狙って横に振るった斧が避けられると、軌道を変えて、力任せに振り下ろした。
「オラぁ!」
 その動きを読んでいたラーソルバールは、受け止めると見せかけて、剣の刃を滑らせて受け流した。剣を叩き折るつもりで振り下ろされた斧は、勢いのままに水気を帯びた地面に深々と食い込んだ。
「な……」
 驚く間もなく、頭領の首元に剣が突き付けられた。斧の柄には片足を乗せられ、押さえつけられている。小娘相手と侮ったつもりも、生捕りするために手を抜いたつもりもない。技量の差で、軽くあしらわれたのだと痛感した。
 その瞬間、頭領は敗北を悟った。
 厳しく睨み付けるこの娘に、反撃を試みたところで無駄に終わるだろう。屈辱ではあるが、諦めるしかなかった。

 他の賊も、すぐに護衛の男達によって倒され、捕縛された。
「逃げた賊は居ないですか?」
 先程話した男は、護衛のリーダーだったらしい。
「ああ、これで全員のはずだ」
 ラーソルバールはその言葉にほっとした。逃げた者はまた、盗賊行為を働く可能性が高いからだ。全員捕縛できたのならば少しは、道の安全に貢献できただろうか。
 だが根本にあるものを変えなければ、また誰かが盗賊になる。それと分かっていても、今の自分には何が出来るだろうか。
 思い上がりも甚だしいと、ラーソルバールは頭を振った。

「これから王都に向かわれるんですよね」
「その予定だ。こいつら全員を衛兵に突き出せばいいんだろう?」
「お願いします」
 ラーソルバールは頭を下げた。言わんとする所を分かってくれていたようだ。
「奴らが懸賞首なら褒賞金も出ると思うが…」
「怪我人も居られるご様子、皆さんで分けてください」
「いや、俺達だけじゃあ、命も危なかったかもしれん。そういう訳には……」
 困った様子の男の横に、隊商の長がやってきた。
「王都の方とお見受けします。お礼をしたいのですが、我々は旅の者ゆえ街でお待ちする訳にも参りません。少ないですが現金で」
「いえ、お気持ちだけで結構です。ですが、着替えがあれば、売っていただければ有り難いです。皆さんも同じですが、このままでは風邪をひいてしまいそうで……」
 ラーソルバールが照れ笑いをすると、護衛や商人達は皆それを見て笑った。

 この後、衣服の代金を払うという、ラーソルバールの申し出はあっさりと断られた。
 結果的には、隊商の女性達に無理やり着替えさせられ、更にもう一着持たされることになった。この際、女性達が様々な衣類を用意し、ラーソルバールの着せ替えを楽しんでいたのは、言うまでもない。
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