上 下
36 / 439
第一部:第三章 学校生活

(四)思い出と因縁(後編)①

しおりを挟む
(四)

 突然、エラゼルに大きな声で呼び止められたラーソルバールは、飛び上がる程驚いた。
 エラゼルに何かした覚えもない。全く予期して居ない出来事だった。
「なんでしょうか?」
 恐る恐る、訳も分からぬまま聞き返すと、エラゼルは苛立ったように睨み付けた。
「私に何か言うことは無いのですか?」
 何かと言われても困る。
「私……、何かしました?」
 怯える訳でもなく、少し困ったよう答える宿敵を見て、エラゼルは悟った。
 きっと自分は意識されていないのだと。
「試験の結果などを見て何も感じないのですか?」
「結果? あ、すみません、私は掲示をいつも見てないんです。学内順位とか気にしたことがないので……。でも、エラゼルさんがとても優秀だという事は聞いてますよ」
 試験の結果さえ、気にしていなかったというのは、エラゼルにとっては想定外だった。
「違う、そうではない! もうよい!」
 怒りに任せて捨て台詞を吐き、去っていく相手をラーソルバールは呆然と見つめていた。

 そして幼年学校最終年。
 幼年学校最終年は運動能力測定では無く、代わりに剣術大会が催されるのが慣わしだった。
 試験の方は、この一年も相変わらずで終わり、幼年学校での催しは剣術大会のみとなっていた。
 剣の指導自体は護身用という目的で、幼年学校でも月に二度程度行われていた。従って、生徒達にとって剣は馴染みの無いものではない。
 だが、多くの貴族達は個人的に剣術師範を雇い稽古をするのが当たり前になっているため、貧富の差と同様に毎年優劣の差がはっきり出てしまっていた。剣術大会は、幼年学校最終年のみ学年全員で競う決まりで、一度きりの機会に多くの貴族の子らが、小さな名誉欲しさに優勝を狙っていた。
 そんな中、エラゼルには自信があった。
 自分の腕に勝る者は少ないと。
 名誉など要らないが、どんな物だろうと優劣をつけられるのであれば、一番上でなくてはならない。それがデラネトゥス家の者の有るべき姿だと思っていた。
 剣術指導では、稀に他クラスとの合同授業が行われていたが、エラゼルの目には強そうに見える相手が居なかった。
 注意すべきは一人。宿敵ラーソルバール・ミルエルシ。
 彼女が勝ち上がってくるだろうという、予感というよりは確信に近いものがある。
 剣の腕は見たことが無いので分からないが、運動能力が高いのは間違いが無い。だが、油断さえしなければ勝てるはずだ。
 ここで宿敵を倒して優勝すれば、きっと積年の気持ちも晴れるに違いない。そんな思いを胸に、エラゼルは剣術大会を迎える。

 大会は三日かけて行われる事になっていた。
 初日は一回戦が行われ、エラゼルとラーソルバールは共に勝ち上がる。
 エラゼルは開始直後に、胴切りを決めて勝利した。

 宿敵の実力はどの程度のものか。
 他者の試合を眺めながら、ラーソルバールの試合を待った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...