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第一部:第一章 夢への第一歩
(一)夢への入り口②
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先頭の騒ぎがようやく静まった頃、城の鐘が鳴った。続くように近くの教会などの鐘が鳴る。
「受付を開始します!」
鐘の音の余韻が残る中、門の方から大きな声が聞こえた。一人また一人と前に進むにつれ、騒動で忘れていた高揚感が戻ってくる。
やがてラーソルバールの順番がやってきた。
「受付番号三番。ラーソルバール・ミルエルシです」
受験票を提示し、確認を待つ。
「ミルエルシ……?」
受付担当は一瞬顔を上げラーソルバールの顔を見ると、視線を戻した。明らかに前の受験者の時と様子が違う。訝しげに思っていると、またチラリと顔を見られた。
「何か?」
「いや、失礼。何でもない」
誤魔化すように受付の男は慌てて手続きを済ませ「案内に従って三番教室に行くように」と指示をする。
先程の出来事で名前を聞かれていたのかもしれない。そう思うと無性に恥ずかしい。誰にも見られないよう、顔を隠して先を急ぐ。
騎士学校の門は期待を胸に通るものと思っていたが、実際には思い描いていたものと、随分違うものになってしまった。とはいえ、念願の騎士へと至る道の入り口に、ようやく立てたという事は実感できた。
教室に着いて指定の席に座ったものの、先程の恥ずかしさは消えず、肩をすくめてうつむいていた。
それから然程の時間が経たぬうちに、不意に背中をつつかれた。
「……?」
慌てて振り返ると、後ろの席に座った少女が微笑んだ。
濃い茶色の瞳と整った顔、茶に近い金色の長い髪が印象的な少女で、その顔を見て思い出した。
先程、遠巻きにこちらを見つめていた人物だ、ということを。
「貴女、ラーソルバールさんっていうの?」
彼女も先程の件で、自分の名前を覚えたに違いない。気恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じた。
「いつも街の外れの林で訓練してたでしょ?」
「え……?」
「私ね、貴女が剣の訓練をしているのを何度か見たことが有るの」
「はあ……」
何と言って良いか分からず、ラーソルバールは半端な返事を繰り返した。
「買い物の時にあの近くをよく通るんだけど、林の中から聞こえる音がとても気になって、何回か覗きに行った事があるんだよ」
優しい表情で嬉しそうに話す少女に、ふと親しみやすさを覚えた。
「そしたら同じくらいの年の子がいて、剣の扱いが上手で驚いたんだ。凄い子がいるなぁって。話しかけてみようと何度も思ったんだけど、物凄く集中して訓練してたから、邪魔すると悪いと思って遠くから見てるだけにしてたの」
「あぅ……見られてたんだ……」
確かに人に見られているような気配がした事は、何度かあった。
林の中で、子供がひとりで居るのを心配して来てくれたり、暇潰しに見に来る大人は居た。時々差し入れと称して、菓子をくれる人もいた。
だが、子供は誰も寄って来なかった。少女が剣を振り回しているだけの光景は、面白そうには見えなかったのだろう。しかし、この娘は違ったようだ。
「私も騎士になるために多少は練習してたから、できれば一緒にやりたいし、お友達になれたら良いなぁって、ずっと思ってたんだよ」
意外な言葉にラーソルバールは驚いた。
「わ……私と?」
「今の話で他に誰が居るの? あ、申し遅れました。私の名はシェラ・ファーラトス。よろしくね」
シェラと名乗った少女は、ラーソルバールの反応が余程可笑しかったらしい。笑いながら手を伸ばした。
「ラーソルバール・ミルエルシです。名前が長いから、親しい人にはラーソルって呼ばれてます。よろしく、シェラさん」
先程までの件もあり、伸ばされた手を握りながらも、嬉しいような気恥ずかしいような、複雑な心境だった。
「友達なんだから、呼び捨てでいいよ。とはいえ今日は受験だから、ラーソルとはライバルでもあるね」
シェラは、少々複雑そうな表情を浮かべる。
「ううん、定員が決まってる訳じゃなくて基準を満たせば合格らしいから、ライバルとか意識する必要はないよ」
「そうなんだ。じゃあ自分に出来る事をやればいいってことね」
簡単に言ったものの、その基準が意外に高いとは聞いている。
「受付を開始します!」
鐘の音の余韻が残る中、門の方から大きな声が聞こえた。一人また一人と前に進むにつれ、騒動で忘れていた高揚感が戻ってくる。
やがてラーソルバールの順番がやってきた。
「受付番号三番。ラーソルバール・ミルエルシです」
受験票を提示し、確認を待つ。
「ミルエルシ……?」
受付担当は一瞬顔を上げラーソルバールの顔を見ると、視線を戻した。明らかに前の受験者の時と様子が違う。訝しげに思っていると、またチラリと顔を見られた。
「何か?」
「いや、失礼。何でもない」
誤魔化すように受付の男は慌てて手続きを済ませ「案内に従って三番教室に行くように」と指示をする。
先程の出来事で名前を聞かれていたのかもしれない。そう思うと無性に恥ずかしい。誰にも見られないよう、顔を隠して先を急ぐ。
騎士学校の門は期待を胸に通るものと思っていたが、実際には思い描いていたものと、随分違うものになってしまった。とはいえ、念願の騎士へと至る道の入り口に、ようやく立てたという事は実感できた。
教室に着いて指定の席に座ったものの、先程の恥ずかしさは消えず、肩をすくめてうつむいていた。
それから然程の時間が経たぬうちに、不意に背中をつつかれた。
「……?」
慌てて振り返ると、後ろの席に座った少女が微笑んだ。
濃い茶色の瞳と整った顔、茶に近い金色の長い髪が印象的な少女で、その顔を見て思い出した。
先程、遠巻きにこちらを見つめていた人物だ、ということを。
「貴女、ラーソルバールさんっていうの?」
彼女も先程の件で、自分の名前を覚えたに違いない。気恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じた。
「いつも街の外れの林で訓練してたでしょ?」
「え……?」
「私ね、貴女が剣の訓練をしているのを何度か見たことが有るの」
「はあ……」
何と言って良いか分からず、ラーソルバールは半端な返事を繰り返した。
「買い物の時にあの近くをよく通るんだけど、林の中から聞こえる音がとても気になって、何回か覗きに行った事があるんだよ」
優しい表情で嬉しそうに話す少女に、ふと親しみやすさを覚えた。
「そしたら同じくらいの年の子がいて、剣の扱いが上手で驚いたんだ。凄い子がいるなぁって。話しかけてみようと何度も思ったんだけど、物凄く集中して訓練してたから、邪魔すると悪いと思って遠くから見てるだけにしてたの」
「あぅ……見られてたんだ……」
確かに人に見られているような気配がした事は、何度かあった。
林の中で、子供がひとりで居るのを心配して来てくれたり、暇潰しに見に来る大人は居た。時々差し入れと称して、菓子をくれる人もいた。
だが、子供は誰も寄って来なかった。少女が剣を振り回しているだけの光景は、面白そうには見えなかったのだろう。しかし、この娘は違ったようだ。
「私も騎士になるために多少は練習してたから、できれば一緒にやりたいし、お友達になれたら良いなぁって、ずっと思ってたんだよ」
意外な言葉にラーソルバールは驚いた。
「わ……私と?」
「今の話で他に誰が居るの? あ、申し遅れました。私の名はシェラ・ファーラトス。よろしくね」
シェラと名乗った少女は、ラーソルバールの反応が余程可笑しかったらしい。笑いながら手を伸ばした。
「ラーソルバール・ミルエルシです。名前が長いから、親しい人にはラーソルって呼ばれてます。よろしく、シェラさん」
先程までの件もあり、伸ばされた手を握りながらも、嬉しいような気恥ずかしいような、複雑な心境だった。
「友達なんだから、呼び捨てでいいよ。とはいえ今日は受験だから、ラーソルとはライバルでもあるね」
シェラは、少々複雑そうな表情を浮かべる。
「ううん、定員が決まってる訳じゃなくて基準を満たせば合格らしいから、ライバルとか意識する必要はないよ」
「そうなんだ。じゃあ自分に出来る事をやればいいってことね」
簡単に言ったものの、その基準が意外に高いとは聞いている。
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