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第1章 アルストロメリア編

第27話 小さな庭

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またアアリスはアルに、お姫様抱っこをされて運ばれている。

(アルの無表情さにドキドキ感が薄れて、私も今は平常心ですね)

「あのアル、これはどこに行くのですか」

「行ってからのお楽しみだ」

「お楽しみではわからないですよ?」

「少しは楽しみに待て」

(待てとは何ですか、私は犬ですか。あまり釈然としませんが、ここはこらえて待ちます)

「少し目を閉じていていろ」

「えっ、なんでですか?」

「それを教えたら意味がないだろう」

「でも、気になりますね」

「お前はこの程度もできないのか」

「この程度とはなんですか!」

「この程度もできないとは、躾がなっていないといっている」

「はぁああああ! なんですか、その言い方は」

お姫様抱っこから解放されようと、身をひねるアリス。

「こら、暴れるな持ちにくい」

アルはアリスをさらに強く抱きしめる。

「ちょっと抱きしめすぎです」

「お前が暴れるからだろうが」

「暴れていないです。身体をひねっただけです」。

アリスは子供のように言い訳をして、
アルに向かって舌を出す。

完全に子供である。
さすがのアルもこれにはイラッときて後で必ずお仕置きをしてやると誓うのだった。

「まぁ細かいことはいい。頼むから目を閉じていてくれ」

「しょうがないですね。わかりました」

一言多いアリスだったが、
今回はアルに従って目を閉じるのだった。




アルに従い目を閉じること20分。
アリスはあまりの長さに待ちくたびれていた。

(まだ着かないのですか。随分と遠いのですね。この城自体がバカみたいに広いので、仕方のないことですが。それにしても私は重くないですよね? 20分も私をお姫様抱っこしていて、アルは大丈夫でしょうか。というか急に落とされないですよね私?)

「着いたから、目を開けていいぞ」

目を開けるとそこは小さな庭にテーブルが置かれただけの場所だった。

「あのアル、ここすごく暗いんですけど?」

「あぁ、暗いな」

「よからぬことを企んではいませんよね」

「さぁ、どうだろうな」

「冗談ですよねアル?」

「さぁ、どうだろうな」

「えっ、私それなら逃げますよ」

「逃がすと思うか?」

(あのアルさっきから私をいじめて楽しんでいませんか? あのニヤニヤしてるところがイラッとくるのですが)

「まぁ、いいメイドたち準備をしろ」

アルがそうメイドに命令すると、
メイドたちはキャンドルを、並べ火をつけていく。
そして、最後に出来上がったのはキャンドルで照らされ、
幻想的な雰囲気を醸し出した小さな庭である。
庭に植えられたクチナシが花を咲かせ、
その芳香がアリスの鼻孔を刺激しより甘い気分になる。

「どうだアリス。この庭は」

「ええ、とてもきれいですね
 小さな庭ですがキャンドルの光と合わさることで幻想的です」

「そうだろう。ここは祖母がキャンドルを使うことを前提に作った庭だからな」

「そうなのですか。そのおばあ様にはお会いしていませんね」

「それは、そうだろう。とっくに死んでいる。俺の前世の記憶がわずかにあることを信じてくれた唯一の理解者だった」

アルは悲しそうな顔でそう呟くのだった。

「そうですか。それはすいません」

「いやいい。今は俺の理解者はアリスだからな」

この言葉にアリスは心が温かくなるのを感じる。
愛している人が自分を必要としてくれた。
そのことがたまらなく嬉しいのだ。

「それで、この庭はこんなにも小さいのですか」

「たしか、自分の心を癒すのに小さな庭で十分とかいう考えだったかな」

「それは素敵な考えですね」

「そうか?」

「そうです。過ぎたるは猶及ばざるが如しです」

「なぁ、アリス愛している」


唐突にアルはアリスに愛を囁く。
それに対してアリスも答える。

「はい、私も愛しています」

アリスは幻想的な雰囲気に酔い完全に羞恥を忘れているのだ。

「アリスがレイとキスをしたとき、すごく苦しかったんだ。 だからアリス、お前で嫉妬を忘れさせてくれ」

「はい、私にできることならなんでも」

アルはアリスの口づけをする。
互いに舌を絡めあい、互いに愛を求め合う。
何度も何度も互いの愛を確認していくアルとアリス。
お互いの唾液が混ざり合ったころには、
二人の心は愛で満たされていたのだった。

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