異世界でもヤンデレ姫からは逃げられない

第2話 異世界転生と別れと出会い

空は目が覚めると木の下で寝ていた。
これまでの記憶を思い出そうとすると水野空の記憶とソラース・セフィリリスの二つの記憶があることに気づく。

「あぁ、俺は死んで転生したのか。実花から逃げられたのか」

ソラは実花から逃げられた事実を噛みしめ喜びに打ち震える。
もうあのような地獄の日々を送らなくて済むのだ。

（今、俺は15歳だ。これから好きな人と付き合って楽しい青春を謳歌できるんだ）

「ソラース様、移動の準備ができました」

ソラはメイドに連れられて馬車に移動する。
その顔色は優れず悲痛な表情をしていた。

「ソラース、すまない。お前を大国であるグレンフィード王国の人質になることが決まった。小国である我がセフィリリス国が生き残るにはこれしかないのだ。犠牲になってくれ」

ソラの父であるジル・セフィリリスは涙を流しながらソラを抱きしめる。
それが今生の別れであるかのように強く抱きしめる。

ソラはセフィリリス国の第二王子である、小さな国であるため大国のグレンフィード王国には逆らえず、人質を寄越すように命令をされ逆らえずソラを差し出すことになったのだ。

（ありえないな。王国の王は賢王として有名だ。こんな理不尽なことをするなんて何かあるはずだ）

「ソラース、母はあなたが王国でも生きていけることを望んでおります」

ソラの母であるリリア・セフィリリスも涙を流しソラの胸に顔を埋める。

ソラは悲しみを押さえて父と母を悲しませないように涙を抑える。
ここで泣いてしまえば二人をさらに傷つけることになるからだ。

「それでは行ってまいります」

ソラはそれだけを告げると馬車に乗り込む。
馬車がしばらく進んだところでソラは声を抑えて静かに涙を流すのだった。




馬車と鉄道に乗ること一か月、ソラはグレンフィード王国の王都に無事辿りつくことができた。

「お待ちしておりました。これから王城に来ていただけますね」

使いの男は有無を言わさずにソラを迎えの馬車に乗せる。
人質として連れてこられたソラには抵抗することはできず、ただ従うことしかできないのだ。

「それでは私から伝えることは二つです。あなたは第一王女にあって貰います。第二に今回の人質騒ぎは王ではなく第一王女の命令したこと、どうか我等が王を恨まないでください」

「はい、わかりました。もとより小国の私には逆らう意志はありません」

ソラは唇を噛みながら、この理不尽を恨むのだった。
彼が無言で床を見つめる姿を見て、使いの男は胸が締め付けられる思いをする。




王城に着くと門には美しい女性が立っていた。
ソラは一目惚れをしてしまった。
金髪碧眼の美少女にしか目がいかなくなり、それ以外のことを忘れてしまう。

（こんな人と恋に落ちたら幸せだろうな。でも、これほどの美しさだ。さぞかし好きな男はいるのだろう。人質の俺なんかでは絶対に手の届かない相手だな）

ソラはすぐに叶わぬ恋だろうと自らの恋心を抑えるのだった。

「会いたかった。ソラ」

その女性はソラに抱き着き頬ずりをする。
これにはソラも喜びと興奮が抑えられずについ頭を撫でてしまう。

「あのお名前を聞いても良いでしょうか？」

「うん、私はフィリア・グレンフィード。王国の第一王女よ。あなたは私のことをどう思っているの？」

フィリアの言葉にソラは心臓が強く脈打つのを感じる。
生唾を飲み込み、勇気をだして言葉を紡ぐ。

「初めてあった瞬間に運命を感じました。一目惚れです」

「ありがとうソラ。私も前世からあなたを愛しています」

フィリアのこの言葉に、彼の背筋を冷たいものが流れる。
彼は気づいてしまったのだ。
彼女の正体を。

「もしかして実花？」

「今はフィリアって呼んでね」

これには膝をつき涙を流すソラであった。