やさしさの加奈子

雨野じゃく

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やさしさの加奈子

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加奈子は人から、やさしいね、と言われることがある。 
しかし、彼女はそんな人間ではない。 
 
加奈子は学級委員をしている。 
就職に有利だといわれ、そうした。 
教師やクラスの人たちから頼まれた雑用やお願いを、よく聞いていた。 
 
彼女の中学ではもうすぐ、学園祭が始まる。 
学級委員ということで教師から、クラスの出し物を何にするか決める、司会を任された。 
だけど、彼女は人をまとめるのが得意でもない。クラスのみんなもやる気がない。 
だけど断れない。 
加奈子は自分で立候補したのだから、司会をすることは学級委員の仕事なのだから。 
しかし、加奈子は学園祭当日、病気の妹のお見舞いに行きたかった。 
病室に行ったとき、妹は元気な顔を見せることが多かったが、時折、枕が濡れていた。 
妹の手術が、学園祭の翌日に予定されており、加奈子は励ましてあげたかったのだ。 
 
加奈子は悩んだ。 
教師の言うことを聞いて、やらなきゃいけないことをするのか。 
自分を優先して、周りからの評価を下げるのか。 
 
出し物を決める当日、クラスのみんなの前で、加奈子はこう言いだした。 
「みんなにお願いがあります。私の妹のためにみんなで、あの子をはげませる何かを作りませんか?」 
加奈子は経緯を話し始めた。 
妹のこと、自分のことを。 
私は病気の妹をはげましたいです。だけど学級委員として、学園祭に参加しなければなりません。そのために、両立させたいのです。 
これはみんなを強制するものでもありません。やりたくないと思ったら、そうして欲しいと思っています。 
これから話すのは、完全に私の主観です。なので、みんなの意見もお聞きしたいです。 
そう言って、話し始めた。 
加奈子は緊張している。 
不安を抱えながら、一生懸命しゃべった。みんなの反応が怖かった。 
いつもみんなの言うことを聞いていたから、自分を主張するのが、怖い。 
否定されたくない。 
私は優しくなければならないから。誰かに負担をかけてはいけないから。 
 
話し終えると、クラスは静まった。 
少し間を開けて、クラスの一人が発言した。 
「私は参加するよ」 
それを期に 
「僕も賛成。」 
「先生も職員の人に話してみるよ」 
全員ではないが、参加してくれることになった。 
加奈子は緊張から解放された。 
うれしくて、安心して、泣き出した。 
「みんな、ありがとう。」 
 
当日、妹を学園祭に招待した。 
妹は、最初のほうはぎこちない笑顔を見せていたが、環境に慣れていくにつれてクラスの出し物に喜んだ。やわらかい笑顔を見せるようになった。 
出し物すべては妹のために行われていた。 
翌日の手術は見事に成功し、妹は元気になった。 
 
加奈子は相変わらず、教師や生徒の手伝いをよくした。 
変わったこといえば、加奈子はお願いされる前に手伝うことが多くなった。 
それは以前のように、やらなきゃいけないから、そうしないと嫌われてしまうと思ったからといった動機ではなく 
妹のために行動した時のような思いで行っていた。 
 
加奈子は優しい人間だった。 
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