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66. 欲しかった愛と幸せ
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────……
「マルヴィナ、おはよう」
「おはようございます、トラヴィス様!」
私が微笑みながら挨拶に答えると、トラヴィス様も優しく微笑み返してくれた。
(今日も美しい……)
トラヴィス様の美しい微笑みに弱い私の胸は大きく高鳴る。
私が見惚れているとトラヴィス様の顔が赤くなった。
「───今日もマルヴィナは可愛いな」
「!」
そっと抱き寄せられて耳元でそんなことを囁かれた。
「トラヴィス様も……今日も素敵……です」
「マルヴィナ……」
嬉しそうに笑ったトラヴィス様に優しく抱きしめられる。
幸せな温もりとあたたかい愛情を感じることが出来るこの瞬間が私は好き。
「お兄様、マルヴィナさん、おはようございます───って!」
ばっちり抱きしめ合っている所を目撃し、顔を真っ赤にしたリリーベル様に「あ、あ、朝から何をしているんですの!!」と怒られる。
そんな日常、そんな優しい時間……私は思う。
(───幸せ、だわ)
あの騒動から数日。
その間に私は、正式にトラヴィス様との婚約も結んだ。
今、身分も何も持たない私は平民。
てっきりどこかの貴族の養子になってからでないと婚約は出来ないと思っていたら、イライアス殿下の許可が降りていることと、この国は魔術大国なだけあって生涯の伴侶は身分より魔力重視となる場合もあるのだという。
よって、私たちの婚約に反対の声を聞くことはなく、トラヴィス様狙いの女性たちの悲鳴が大変なことになっただけ……
なんであれ、婚約者となったトラヴィス様は、もともと甘かったのに最近はグンッと甘さが増し増し。
リリーベル様からは「毎日、甘いものを食べているような気持ちになっていますわ」なんて文句を言われることもあるけれど、幸せな日々を送っていた。
────
「───マルヴィナ!」
「はい、え? ひゃっ!?」
その日も昼食の後、魔術の訓練をしていたらトラヴィス様に声をかけてくる。
と、同時に抱き寄せられたので、思いっきりトラヴィス様の胸に飛び込んでしまった。
「お、お帰りなさいませ? ど、どうしました?」
今日のトラヴィス様は朝からイライアス殿下に呼ばれて王宮に行っていたはず。
いつの間に戻られたのかしら?
「ただいま! ……殿下によると、クロムウェル王国との話し合いの目処がついたそうだよ」
「!」
あれから兵たちは早々に引き上げ、慌てて国へと帰っていった。
一方、魔術師たちはというと……彼らの前には私の方から顔を出した。
私の姿を見た魔術師たちは動揺し、そこでようやく自分たちがルウェルンに来た真の目的を思い出したようで……
混乱し始めたので慌てて、もう私を連れ戻す必要の無いことや、この数日にあった出来事を話し、彼らの今後は全て自己判断に任せることにした。
───本気で魔術を学ぶ気があるなら我が国としては大歓迎だよ?
美貌も国一番の魔術師にそう微笑まれてあっさり陥落していたけれど。
さすがトラヴィス様!
私の大好きな人は老若男女問わず惑わせてしまうくらい素敵だった。
そして、クロムウェル王国は私の雷撃(ちなみにその後も二発ほど攻撃をしてみた)により大パニックとなっていた。
落ち着いて状況把握しようとする者もいなければ、消火活動すらも放って我先に逃げようとする人ばかりで、全く動けなかった国王陛下を始め大臣たちはろくでもない、という事実が浸透し始めているそう。
そこへ、帰還した兵たちによる暴露話も広まり、現在、陛下たちはどんどん追い詰められているという。
ちなみに、魔術師だけでなくこの兵たちもルウェルン国への移住を希望しているとか。
「国内からは退位を求める声があまりにも多いので、陛下は退位するそうだ」
トラヴィス様曰く、守護の力の持ち主の私に逃げられただけでなく、攻撃までされたことに大きなショックを受けて今は廃人状態なのだとか。
そんな人に国は任せられない。
「……そうですか。では、次の王はそのままクリフォード殿下が?」
「一応、そうなるらしいけど、あの王子、ゆくゆくはクロムウェル王国は我が国に吸収されることを望んでいるみたいだ」
「え?」
「もう、国が崩壊……ボロボロなんだってさ」
具体的にどうするのかはこれからの話し合いによるらしいけれど、“クロムウェル王国”が失くなるのも時間の問題なのかもしれない。
「マルヴィナの放った攻撃は色んな意味であの国にとって大きな衝撃となったみたいだ」
その言葉には苦笑いしかでない。そこで、ハッと気付いた。
「そういえば、サヴァナは──」
サヴァナは帰国してから家に帰れず、ずっと王宮にいたと聞いた。
そして不幸にも、雷撃により燃え移りで王宮内に火事が起きた場所はサヴァナのいた部屋と近かったようで、逃げている最中に他の人たちの波に巻き込まれて顔に軽い火傷を負ったとか。
(自分は可愛いとあんなに豪語していた自慢の顔なのにね……)
「彼女は色んな意味で危険なので、この先は一生、厳しい監視下の元で生きていくことになるらしい」
(それって要するに囚人……)
父親だった人は、その日も家にいたので火事の被害こそ免れたものの、王家の守護者の役目を放棄したと非難を受けているとか。
母親だった人も、逃げ出した先で今も後ろ指を指されているとか……
───こうして話を聞くと、私の家族だった人たちはろくな目にあっていない。
(私は幸せになるわ……!)
この先のややこしいことや難しいことは王家に任せて、私は平穏に愛する人と生きていく。
(クロムウェル王国がなくなれば“クロムウェル王国のローウェル伯爵家”も消滅となるわ……だから、これでいい)
「そうだ、マルヴィナ」
「はい」
「君の“守護の力”なんだけど────すでに発動している可能性があるんだ」
「え!?」
いったい何時から!?
驚く私にトラヴィス様は説明してくれた。
クロムウェル王国の兵たちが異様に入国に時間がかかっていたこと──
実はあれから、似たような事例がたまに上がっているのだという。
「ルウェルン国に入れないわけじゃないのだけど、入国前に何かを試されている……そんな気持ちになるらしい」
「……」
「そして、決まってそういう目にあっている人たちは……」
最後まで聞かなくても分かる。
この国に害をもたらそうとしている─────
「あれ? でもクロムウェル王国の兵たち、他国には私の守護の力は及ばないと筆頭魔術師から聞いたとか……言っていましたよね?」
その話を聞いて私は酷く落胆してしまった。
でも、今の話を聞く限りだと……すでに私はルウェルンを守護しているかのような口振り。
「あの筆頭魔術師の言うことだからな……いまいち信用が」
そこは同意しかないので、私も頷く。
「───けど、マルヴィナは本当に不思議な子だと思うよ」
「トラヴィス様……?」
「だから、前例にないことが起こっても全然不思議じゃない」
トラヴィス様が顔を近付けてコツンと額を合わせてくる。
その距離の近さにドキドキする。
「まだまだ、マルヴィナの中にはどんな力が秘められているのかな?」
「……うーん、私は“少し人より魔力量が多くて強いだけのただの一般人です”よ?」
私がそう答えると、トラヴィス様が一瞬面食らったような表情をした。
そして、私と目が合うとすぐに微笑んだ。
「まったく……どこがだ」
「ふふ」
トラヴィス様は私の頬に両手を添える。
「でもね? ただの一般人であろうと、すごい力の持ち主であろうと俺は、変わらずマルヴィナのことが好きだ」
「トラヴィス様……」
「必ず、君は俺が幸せにす…………いや、二人で幸せになろう!」
(二人で……)
その言葉が嬉しくて私は微笑む。
「───愛してるよ、マルヴィナ」
「はい。私も……愛しています」
互いにそう口にしたあと、私たちはそっと唇を重ねた。
─────頑張れ、頑張れ、頑張れ……
昔の私は言われた通りに“頑張れ”ば、皆、私を愛してくれる、そう信じていた。
だけど、私はその愛を得ることはなく……全て妹のものだった。
そうして、可愛い妹に色々奪われていた私だったけれど、
今は……あの頃、欲しかった愛なんかよりも、ずっとずっと素敵な愛を手に入れた。
だから、この先の未来は、愛するあなたと生きていく────
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで、完結です。
すごく、たくさんの方に読んでもらえたようで、めちゃくちゃ驚いています。
本当にありがとうございました!
もともとは、以前に書いた話『出来損ないと罵られ~』『本物の聖女は~』のような、無能扱いされていたけど、実は自分が最強……!
みたいな話を久しぶりに書きたくて始めた話でした。
サヴァナの能力や水晶の謎の言葉などには、たくさん意見があり、中には笑ってしまうものも……
途中、心が揺らぎつつも、最初に自分の考えていた通りで話を進めさせていただきました。
短編詐欺やら終わる終わる詐欺やらをやらかしましたが……最後までお付き合い下さりありがとうございました!
個人的には、トラヴィス・リリーベル兄妹がお気に入りです。
リリーは普通に主人公になって一作書けそうなくらい!
たくさんのお気に入り登録、感想etc..
本当にありがとうございました!(返信は申し訳ございません)
飽きっぽい私が約一ヶ月続けられたのは皆様のおかげです。
そして、次回作!
『“当て馬姫”と呼ばれている不遇王女、初恋の王子様のお妃候補になりました ~今頃、後悔? 知りません~』
私の作品を他にも読んでくださった方は、ピンと来るかもしれません。
この作品の前に書いた話、
『“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢~』のヒーローの双子の兄(苦労人)の話となります。
たくさんのリクエストありがとうございました!
単体でも読めるように書くつもりですが、未読の方はよろしければ併せてどうぞ!
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