【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
63 / 66

63. 破滅に向かう国 ②

しおりを挟む

 ❋❋❋


 クロムウェル王国では、国王を始めとした皆が遂に雨が止んだことを喜んだ。

 ───これは“本物”の守護の力が発動したに違いない!
 これでこの国は安泰だ!

 ……何も知らない国民はそう喜んだ。
 事情を知らされていない貴族たちも大喜びし、本物の守護の力の持ち主のマルヴィナがようやく力を使ってくれたのだと信じ込んだ。
 同時に、偽者にも関わらず“本物”を騙ったサヴァナには“お前のせいで……”と、ますます冷たい目を向けた。

(雨が止んだのに、なんでまだまだ私が責められなくてはいけないのよ!?)

 サヴァナは自宅の屋敷に戻らせてもらえず、ずっと王宮に軟禁状態で事情聴取を受けていた。
 その為、より多くの人の視線に晒され精神的に参っていた。
 そこで、遂に雨が止んだことで皆の自分を見る厳しい目も和らぐ……
 そう信じたのに。

(もう、いや!  家に帰りたい!)

 そう思うも……

(そうだった……今、家は……)

 ルウェルンに行く前に屋敷の使用人の殆どはお父様に叩き出されてしまっていて残っておらず、お母様も出て行ってしまったから残っているのは、妻に出ていかれて毎日メソメソしている腑抜けたお父様だけ……

(ダメ……どこにいても地獄……)

 サヴァナはがっくり項垂れた。



 また、一方でマルヴィナの追放に関わり、クロムウェル王国を出てしまっていたことを知っていた者たちも雨が止んだことに安堵した。
 特に“愚かな”国王は───

「───見たか、クリフォード!  雨が止んだぞ!」
「そ、そうですね……」

 クリフォードは陛下に呼ばれて謁見室に向かうと、上機嫌の父親に出迎えられた。

「これは、おそらくマルヴィナ嬢の守護の力のおかげだろう!」
「……」
「だが……兵はまだ、向かわせたばかり……ということは、魔術師たちか?  いや、それよりも兵が予定より早く入国出来た可能性もあるか……」

 ブツブツと大きな独り言を呟く父親をクリフォードはなんとも言えない気持ちで見つめる。

(……本当にそうなのか?)

 クリフォードの脳裏には“あの日”のマルヴィナの言葉の数々が甦る。

 ───私を捨てたのはあなたたちです!
 ───私は、守護の力をクロムウェル王国のために使う気は一切ありません
 ───追放もされましたので、もちろんローウェル伯爵家とも無関係です
 ───私は無関係なので、今後、国がどうなろうと知ったことではありません
 ───クロムウェル王国なんかに未練はありませんので、どうぞ私のことはお構いなく

(あんなにも美しくゾッとする笑みで言い切っていたマルヴィナだぞ?)

 だが、自分の勝利を信じて疑わない国王陛下は嬉しそうに高笑いをしていた。

「なんであれ……これは…………上手くいった!  そういうことに違いない!  マルヴィナ嬢……いや、我が国のための守護の力が帰ってくるのだ!」
「ち、父上……」
「守護の力によって国が加護されたとなれば、我が国に怖いものなどない!  ルウェルン国が怒る?   そんなもの……怒りたければ怒るといい!」

 ハハハと笑いながら、どこまでも強気な父親を見ながらクリフォードの心はますます不安を覚える。
 で雨が止んだなら……マルヴィナがクロムウェル王国を加護したというのであれば、確かにルウェルン国を怒らせても大丈夫だろう。
 筆頭魔術師も帰国後に守護の力はクロムウェル王国を護るための力だと言っていた。

 ───だが、もしも雨が止んだのがだったとしたら?

(未練はない、構うな───マルヴィナはそう言っていたんだぞ!?)

 それに、先に出発した魔術師たちからは一切連絡がない。
 彼らはルウェルン国に入国し、王宮に着いたらすぐに状況についての報告連絡をするようにと言われていたはずだ。
 魔術師のみが使える情報伝達手段があるので、手紙が行方不明になったとは考えにくい。

「ち、父上……」
「なんだ?  クリフォード。これでもまだ文句があるのか?  余計なことは考るな!  お前はマルヴィナ嬢を妃に迎える準備でもしておけ!」
「……」
「丁重にもてなすんだぞ!?  また、逃げられたら面倒だからな!」
「……」
「さぁ、魔術師か兵、どちらの手柄かは分からんが、連れて戻ってくる日が楽しみだな!」

 やはり、父上は一切聞く耳を持たなかった。


────


 しかし、それから数日が過ぎるも、魔術師、兵ともに帰還する様子は見受けられず、魔術師からはただの一度も連絡が来ない。
 しかし、天気は雨も降らずに晴れている。むしろ、暑いくらいだ。
 だから不安を感じているのはごく一部の人間のみ。

 守護の力を手にした我らの勝利だ!  ルウェルンなどおそるるに足らず!
 と高笑いをしていた国王陛下……父上も日に日に焦りが見え始め機嫌が悪くなっていく。

「────何故、誰も戻らんのだ!  魔術師は?  兵は?  マルヴィナ嬢はどうした!?」

 定例会議の場で父上は、苛立ちながらバンバンと机を叩いて周囲にそう怒鳴るけれど、当然、答えられる者などいない。
 皆、どこか気まずそうに顔を見合わせるだけ。

「……」

 やっぱりおかしい……本当にマルヴィナは連れ戻されるのか?  クロムウェル王国に対して守護の力をかけたのか?  使ってなどいないんじゃないか?
 クリフォードがそう思った時だった。

「───失礼します。“ルウェルン国”から陛下宛に手紙が届いております」
「何っ!?  早く寄越せ!」
「……はっ!」

 父上は侍従長がおそるおそる持って来たその手紙を勢いよくひったくる。
 そして、その場で手紙を開封した。
 書かれている内容に目を通した父上は「はぁ?」と変な声を出した。
 そして、読み終えると怒りの形相でグシャッとその手紙を握り潰した。

「へ、陛下?」
「父上……?」
「ふざけるなよ……ルウェルン国の若造王子め……」

 ワナワナと身体を震わせてそう怒っていることから、手紙の送り主はおそらく、イライアス殿下。
 いったい何を書いて送って来たのだろうか……

「───“今後のことについては、じっくりと話し合いましょう”だと?  まるで我が国が負けたかのような言い回しではないか!  なんだこれは!」

(今後のことについて──?)

「何を偉そうに!  滅ぼせるものなら、滅ぼしてみろーーーー!」


 父上がそう叫んだ瞬間……突然、空が眩しく光った。

しおりを挟む
感想 417

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

処理中です...