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61. 動き出した
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「───まさか、魔術師を送り付けて来るとは思いもしませんでした」
「クロムウェルの国王は何を考えているのだろう?」
サヴァナとクリフォード殿下の婚約破棄が発表されたと聞いた翌日。
遂にクロムウェル王国に動きがあったと報告が入った。
同時にルウェルン国宛にクロムウェルの国王陛下から手紙が届いた。
イライアス殿下に呼ばれて見せてもらったその手紙の内容は──……
先日は我が息子達が世話になった。
大変有意義な時間を過ごせたと息子も感謝している───
(は? げっそりとやつれて帰っていたと思うけど?)
……そこで図々しい願いであることは承知の上で、今度は我が国の魔術師たちをぜひ、鍛えてもらいたい。よって魔術師を派遣する───
といった内容で、これは“マルヴィナ捜索”のために魔術師を送ってくることは明白だった。
「魔術大国に魔術師ぶつけてどうするつもりなのでしょう?」
「マルヴィナを見つけて連れ戻すだけだから魔術師でも大丈夫だと甘くみているのかな」
「……まぁ、確かに捜索するなら、一般兵を送るよりも魔術師の方が容易いかとは思いますけど……」
実際、クリフォード殿下や筆頭魔術師は私の目の前でトラヴィス様に捜索を依頼していたものね。
「でも、陛下は阿呆王子にマルヴィナがどこで何をしているのかは聞いているはずだろう? それならもう捜索の必要はないんじゃないか?」
「あ! それはそうですね」
「マルヴィナを連れ戻す───戦争になる覚悟ということだろうから兵を動かすかと思っていたんだけどな」
(私も……てっきり武力行使でくるとばかり思っていたわ)
クロムウェル王国の狙いが分からず、私たちは顔を見合せて大きなため息を吐いた。
❋❋❋
その頃、陛下のとんでも命令で突然ルウェルン国へと派遣となった魔術師たちは───
「なんで俺たちが!」
「本当に魔術を学んで来い…………それなら分かるし、嬉しい話だ。だが、結局それはマルヴィナ様を迎えに行く建前なんだろう?」
「どうしてわざわざ表向きの理由なんて用意する必要がある……」
───とにかく、不満が大爆発していた。
「ルウェルン国に入って、秘密裏にマルヴィナ様を連れ戻せってどういうことなんだ?」
「本物の“守護の力”の持ち主が、実は国を出てしまっていたと知られたら、国民が不安に思うからでは?」
「雨が降り続いていたのはサヴァナ様が我々を騙して、偽者なのに本物のように振る舞った結果だと思っていたが……」
魔術師たちはうーんと顔を見合わせる。
「しかし、やはりマルヴィナ様の姿が見えなかったのは、自主的に国を出ていたからだったんだな……」
「まぁ、サヴァナ様があれだけ持ち上げられたらなぁ……そりゃ、出て行きたくもなるだろう」
その言葉に場がしんみりする。
マルヴィナが実は、不要だと言われて“追放”されたという事実を知らされていない魔術師たちは、マルヴィナが自ら身を引いて国を出て行ったのだとばかり思っていた。
「なぁ、マルヴィナ様からしたら、これっていい迷惑なんじゃないか?」
「なんでだ? 国に戻ったら昔の予定通りに殿下と結婚出来るんだろう?」
「いやー……だが……嬉しいか?」
魔術師たちは思い出した。
全く魔術のことを学ぼうともしなかったサヴァナとクリフォードの二人が、周囲に見せつけるかのようにイチャイチャばかりしていた日々を……
「国が荒れるわけだよ……はぁ」
「ところで、マルヴィナ様が殿下のことなんて、すっかり忘れてもう新しい生活を始めているとしたら……」
「今更、あなたが本当の力の持ち主でした! なんて言われて、すぐに戻って来いは迷惑でしかないだろう」
ズンッとその場の空気が重くなる。
「そうだ───サヴァナ様と言えば、見たか?」
「何をだ?」
「殿下との婚約破棄が発表されて非難が集中してから、すっかり痩せこけてあの可愛らしかった彼女はどこへ? 状態らしいぞ」
「へー」
「なんだろうな……全然同情する気が起きないな」
「同感。自業自得ってやつだろ」
その言葉には全員が頷いた。
「だが、サヴァナ様ってそもそも、帰国した時から様子がおかしくなかったか?」
「確かに……クリフォード殿下も帰国と同時にやつれていたし……」
「筆頭魔術師様やローウェル伯爵もだろ?」
魔術師たちの中で嫌な空気が流れる。
「……殿下と筆頭魔術師様が出発前に何か言いたそうな顔で我々を見ていたのは───」
「───!」
この時の皆の気持ちは一つだった。
───ルウェルン国、怖い!
大事なことを何一つ知らされないまま、彼らは捨て駒のように使われようとしていた───
❋❋❋
「───これは、やっぱりあれかな?」
「あれ?」
私が聞き返すと、トラヴィス様はうん……と頷きながら言った。
「やって来る魔術師たちは囮かもしれない」
「え? 囮?」
「これは、俺の考えだけど───」
トラヴィス様は、先行してやって来る魔術師たちは、私を連れ戻すようにという命令こそ受けてはいるものの、詳細を知らされていないかもしれない、と言った。
「そもそも、報告によると国はマルヴィナこそが、真の守護の力の持ち主だったと世間には発表したが現在のマルヴィナの所在については何も明らかにしていないんだ」
「え?」
「妹による偽り発覚は、帰国後……あぁ、国を出ていたことは世間には内密にしたまま、“色々と気になること”があった為、再検査をした結果で判明したのだと言っているんだよ」
「……それって」
完全に嘘しかついてない……
「だから、これから来る魔術師たちは、阿呆王子たちがルウェルン国を訪ねたことは知っていても、実はそこで既にマルヴィナを連れ戻そうとして失敗していることも聞いていないんじゃないかな」
「!」
「マルヴィナの追放に関わって、すでに国にいないことを知っている者には口を噤ませ、何も知らない者たち、魔術師や貴族には、マルヴィナは今、真実を知らされたばかりで力を発動させる準備をしていると適当な話をして誤魔化している……」
「……何ですか、それ……」
どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのだろうかと怒りが湧いてくる。
「……えっと、それで何も知らされていないであろう魔術師の彼らが囮だと言うのは?」
「彼らはそもそも、マルヴィナが姿を見せなくなったことに疑問を抱いていたそうだから、動かしやすい」
「でも、力の差は明らかですよね?」
「それは、国王も承知の上だ。だから、先に魔術師の彼らを使って俺や他の魔術師の目をそちらに向けさせておく。で、その裏で────」
こっそり兵を動かすつもりかもしれない、とトラヴィス様は言った。
「……兵を差し向ければ私なら、すぐに言うことを聞くとでも思われているのでしょうか?」
「マルヴィナのこと……舐めていそうだよね」
私はふぅ、と息を吐く。
「──ローウェル伯爵家の二人もそうでしたが、どうして皆、私が使える力は“特殊能力”だけだと思っているのでしょうね」
私が反撃することなど一切考えていなさそうな。
「兵が動き出すかは引き続き報告を待つとして……とりあえずは、やって来る魔術師たちをどうするか、か…………あ!」
何かを思いついたのか、トラヴィス様は「そうだ!」とポンッと手を叩いた。
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