52 / 66
52. 初めての……
しおりを挟む❋❋❋
その日、私たちは屋敷に戻らず王城に泊まることになった。
私は与えられた部屋で、なかなか寝付けずぼんやりと窓の外を眺めていた。
(リリーベル様、大丈夫かしら?)
水晶を見終えたリリーベル様は、当たり前だけど相当疲れていたらしく、
何の文字なのか見当がついた。だけど、少し調べないといけないことがある。
と口にした後、倒れ込んでそのまま眠ってしまった。
「大きすぎる力の代償で、力を使いすぎると眠ってしまう……かぁ」
リリーベル様は突然、フラっとしたので驚いていたら、トラヴィス様がそういう体質なのだと説明してくれた。
そして、一晩寝ればだいたい復活するのだという。
(そうよね……)
なんと言ってもリリーベル様はまだ十四歳。
通常の魔力だってまだ不安定な年頃。それなのに……
(あの歳であれだけの力を使えるリリーベル様は、いったいどんな人生を送ってきたのかしら……)
そう思わずにはいられない。
「ローウェル伯爵家の力を授かるための儀式が十八歳の誕生日なのもきちんと意味があったのね……」
そう口にした時、コンコンと部屋の扉がノックされた。
一瞬、こんな時間に誰? と思ったけれど私がこの部屋にいることを知っていて訪ねてくる人なんて一人しかいない。
「……」
扉の向こうの姿を想像して私の胸がトクンッと高鳴る。
「──マルヴィナ、俺だ。起きている?」
「!」
ああ、やっぱり、トラヴィス様だわ!
そう思って私は笑顔で扉を開けた。
────
「──いっ」
「……い、痛かった……ですか? いえ、痛いですよ、ね」
「ん……少し。でも、大丈夫だ」
「トラヴィス様……」
ソファで隣同士に座った私たち。
腰を下ろすなり私は痛々しいことになっているトラヴィス様の頬にそっと触れた。
「しかし、イライアス殿下め……」
トラヴィス様は美しい顔を歪ませて悪態をついた。
私としても、これはどうしても聞かずにはいられない。
「トラヴィス様…………王子殿下はどうしてこんなことを……?」
「あー……」
トラヴィス様は、リリーベル様が眠りに入る前に頼みごとをされており、その為に王子殿下の元に会いに行っていた。
元々、クロムウェル王国の彼らの様子なども報告もしないといけなかったから、丁度いいんだと言っていたのに……
戻って来たら何故か頬が腫れている。
そして、それはどこからどう見ても殴られた後にしか見えなかった。
「まぁ……殿下が怒るのも無理はないんだ」
「え?」
「ほら、リリーに無理をさせてしまっただろう?」
「あ……」
(そうだった! リリーベル様は殿下の婚約者……)
自分の婚約者が倒れたと聞いて怒らないはずがない。
私が黙り込むとトラヴィス様がそっと頭を撫でてくれた。
「リリーが無茶をするのは性格的に分かっていただろうから、兄だったら察して事前に倒れる前に止めろって怒られた」
「……」
「まぁ、止めても言うことを聞かないのがリリーなんだけど」
トラヴィス様はそう言って肩を竦めた。
「思っていたより水晶を視るのが重かったみたいだ。だけど、リリーが頑張ってくれたおかげでおかげであの謎の文字については分かりそうだよ」
「本当ですか?」
「ああ。明日、殿下の許可をもらって書庫で詳しく調べてみる」
「そうなんですね」
私が安心して微笑みを浮かべると、トラヴィス様とパチッと目が合う。
今、トラヴィス様は眼鏡をしていないので、美貌が溢れていて私の胸のドキドキは止まらない。
(それに、殴られて頬が腫れてしまっているのに、全く美貌が損なわれないってどういうことなの?)
「……マルヴィナ」
「!」
そのままギュッと抱きしめられた。
そして、トラヴィス様は私の耳元に口を寄せて囁く。
「それで? 俺の愛しいマルヴィナを憂い顔にさせている理由は何かな?」
「……え!」
「リリーのこと? 水晶のこと? 自分の力のこと? クロムウェルの阿呆四人のこと? それとも───」
「……っ」
トラヴィス様には何でもお見通しなのかもしれないと思った。
「……まぁ、全部かな?」
「……」
「今日は一度に色々なことがあり過ぎたからね」
「はい……」
私もギュッと抱きしめ返しながら頷いた。
「マルヴィナ。リリーは大丈夫。明日になれば、ケロッとした顔でやかましいことを言ってくる」
「ふふ……」
そんな姿を想像して思わず笑ってしまう。
「水晶も明日になれば謎は解けるだろう。あの水晶、随分と思わせぶりなことをしてきたけれど、あんなのは、ちょっと変なお告げをするただの丸っこい玉だ!」
「……」
トラヴィス様にかかると、国の至宝とも言える水晶が単なる丸っこい玉になるらしい。
「マルヴィナの力の件だって心配しなくていい。だって……」
「だって?」
「マルヴィナには、ルウェルン国一の魔術師がそばに居るんだぞ?」
トラヴィス様が胸を張ってそう口にする。
「……」
トラヴィス様は一つ一つ私の抱える不安を払拭しようとしてくれている。
その優しさがたまらなく好きだと思った。
「クロムウェル王国の阿呆共だって心配しなくていい。事が終わればさっさと送り返す」
「はい……」
「そして、もちろんクロムウェル王国には、今後マルヴィナと接触なんてさせない」
「トラヴィス様……」
私が顔を上げると、至近距離で目が合って、トラヴィス様の綺麗な瞳に思わず見惚れそうになった。
ドクンッと私の胸が大きく跳ねる。
「そうだろう? だってマルヴィナは俺と幸せになるんだから」
「……はい」
私が頷くとトラヴィス様の手がそっと私の頬に触れる。
そして、トラヴィス様の美しい顔がそっと近付いて来た。
(……あ、もしかして)
私はそっと瞳を閉じる。
───チュッ
そして、程なくして私の唇に柔らかいものが触れる。
(唇……へのキスは初めて、だわ)
「マルヴィナ……」
「……トラヴィス様」
唇を離して互いの顔を見る。
トラヴィス様の顔は真っ赤。きっと私の顔も真っ赤。
二人揃って真っ赤だと思うと、幸せで嬉しくて思わず笑ってしまう。
「マルヴィナ。そんな可愛い顔で笑うのは反則だよ」
「え? 反……則?」
そう言ったトラヴィス様は、手を私の頬から動かして顎に手をかける。
そして、上を向かせると素早くチュッとキスをした。
「……!?」
「もっともっと、こういうことをしたくなるからね」
「~~~!?」
トラヴィス様からの愛情たっぷりのキスはなかなか終わらなかった。
そんなトラヴィス様からの愛をたくさん受けながら、私は願った。
(明日には必ず全ての決着を……)
そして、リリーベル様が元気になりますように、と。
────そして、翌朝。
「一晩眠ったとはいえ、こんなにスッキリと回復したのは始めてですわ……!」
そんな風に首を傾げているも、すっかり元気になったリリーベル様の元に昨日のメンバーが集まる。
ちなみに、クロムウェル王国の四人はかなりの寝不足のようで揃いも揃って顔色が悪かった。
「───それでは、まずはサヴァナさんの能力を分かりづらく示したり、謎のお告げを発したとされる文字の説明からいたしますわね」
リリーベル様はにっこりと美しい微笑みを浮かべてそう言った。
340
お気に入りに追加
8,032
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる