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42. 特殊な力だった
しおりを挟む「だっしゅ……ダッシュ……奪取……?」
サヴァナがまだ首を傾げている。
そんなサヴァナにリリーベル様が呆れた声で言った。
「……人から力を……主に魔力を強引に奪い取る力でしてよ」
「え? 奪う!?」
ようやくサヴァナの中で“奪取”が結びついたらしい。
これにはさすがに驚きが隠せない様子。
「だ、奪取の力……じゃと?」
「サ、サヴァナに奪取の力……が? あの……問題と言われているやつ……か?」
(問題の?)
筆頭魔術師とローウェル伯爵もサヴァナの力に対して驚きの声をあげる。
特に伯爵の様子が少し変だった。
もしかしたら、歴代のローウェル伯爵家の長子の中でその力を授かった人がいるのかもしれない。
そして、能力の内容的に問題視された、とかかしら?
充分、有り得る話だと思う。
(それも気になるけれど……)
やっぱり、サヴァナの力は魔力を奪い取る内容の力だった。
既にトラヴィス様から聞かされていたし、予想出来ていたことだから、そのこと自体に驚きはあまりない。けれど───
「……リリー、最後に言った“他者とは違う性質を持っている”とはどういう意味だ」
私も感じていたその疑問はトラヴィス様が訊ねてくれた。
「ええ、ですから、それが私がお兄様に彼女の魔力封じをお願いした理由ですわ」
「どういうことだ?」
「……」
リリーベル様は一旦、瞳を閉じてから目を開ける。
その瞳はもはや何度目になるのか……再び金色になっていた。
(リリーベル様、すごい力を酷使している気がする……大丈夫かしら?)
そんな心配が私の中に浮かぶけれど、リリーベル様は続けた。
「───その方の奪取の力には、他には無いかなり面倒な性質がありますのよ」
「他には無い? それは何だ」
「……奪取の力というと先程も言ったように普通は“魔力”を奪う力なのですが、それだけではありませんの」
「は?」
「彼女の“奪取の力”が奪えるものは魔力だけではないのです」
(───なっ!?)
「魔力以外の物も奪えてしまうんですのよ。そう、例えば───人の気持ち……心、とか。本当に言葉通りの奪取の力ですわ」
リリーベル様の説明にこの場の誰もが言葉を失った。
人の心まで奪う?
なんて力なの……それは、リリーベル様が魔力封じをお願いするのも当然だった。
「そして、厄介なのはその力を授かったのは儀式を行った時ではありません。潜在的なものなのです」
「え? サヴァナが潜在的……に持っていた力?」
私が聞き返すとリリーベル様は頷いた。
「そうです。つまり、そこのサヴァナさんはこの力を昔から使えていた、ということになります」
「昔、から使えていた?」
「まぁ、誰からも力のことを教わることも調べられることも無かったでしょうから全て無意識に、なのでしょうけれど」
「……」
私は言葉が見つからなかった。
トラヴィス様としていた仮定の話では、水晶を触った時にサヴァナも力が覚醒したのだと思っていたけれど、本当はそうではなかった……?
《ト、トラヴィス様……》
困った私がトラヴィス様を見上げると、トラヴィス様は私の目を見て頷き返してくれた。
リリーベル様の語ったこの話はトラヴィス様にとっても意外だったようで、かなり驚いているのが伝わって来る。
《ああ、どうやら考えていたのと少し違っていたようだ。むしろ思っていたよりも厄介だった》
《……そうですね》
私が顔を伏せるとトラヴィス様が優しく声をかけてくれる。
《マルヴイナ……大丈夫だ》
《トラヴィス様……》
そう口にしたトラヴィス様が私の肩に腕を回してそっと抱き寄せてくれる。
明らかになった事実に動揺はしたけれど、トラヴィス様の温もりで心が落ち着いていくのが分かった。
そんな中、リリーベル様の説明は続く。
「───ですから。どうやら、サヴァナさんはこれまで“欲しい”と思ったら無意識に力が発動しては自分の思い通りにして来たということになります」
リリーベル様のその言葉に、それまではどこかぼんやりした様子だったサヴァナがハッとして噛み付いた。
「ひ、酷いわ! 私を盗っ人呼ばわりするつもりですか? か、勝手なことを! 私は何も……何も奪ってなんかいないわ!」
サヴァナの抗議にリリーベル様は首を横に振る。
「いいえ───先に述べたように、あなたは昔から自分だけが可愛い。自分だけがチヤホヤされたい。そんな願望が強かった。なのでまずは、見下しながらも両親の愛を全て自分に向くことを願った」
「……え?」
「次は言わなくても分かりますわね、そこの王子様。マルヴィナさんから奪ってやりたい。奪った後のお姉さん──マルヴィナさんの絶望した顔が見たい……そんな気持ちが芽生えた」
「は? ちょっと……」
「そして、極めつけが十八歳の誕生日ですわ。あなたはマルヴィナさんの持つもの“全て”を欲しいと思った。そう、“力”も。水晶に触れた瞬間に強くそう願ったでしょう?」
「なっ……!」
「───その時、あなたはマルヴィナさんから魔力も奪ったのですわ!」
リリーベル様のその言葉は室内にとてもよく響いた。
「ま、魔力って……! お、お姉様……の?」
「あなた、伯爵家の長子が継ぐ力を欲しいと思ったでしょう?」
「……っ」
サヴァナが悔しそうにギリッと唇を噛む。
そして、すぐに叫んだ。
「待ってください! ……それなら、どうして? どうして守護の力は私のものになっていないの!?」
「あなたがマルヴィナさんから奪えたのは、マルヴィナさんの持っていた魔力半分のみだったからですわ」
「は……んぶん? ど、して? これまでは上手くいっていたんでしょう? 何でダメだったの!?」
サヴァナが苦しそうに頭を抱えて一際大きな声で叫んだ。
「……何で、私の一番欲しいものが奪えていないの!?」
「───弱いからだろう?」
喚き散らすサヴァナに対して横から口を挟んだのはトラヴィス様だった。
「リリーのような瞳がなくても、もう俺にも分かるよ」
「よ、弱い? 私が……?」
「マルヴィナに比べて圧倒的に力が弱かったからだ。その程度の力では、マルヴィナから魔力を半分奪うのが精一杯だった。とてもじゃないが国の守護なんて無理……ということだな」
「そ、の程度……お姉様……より……私が劣、るの?」
トラヴィス様は、サヴァナに向かって冷たい目を向けると更に念を押した。
「そうだ……ああ、お前のよく使う言い方で言わせてもらえば───“守護の力を持つのにサヴァナ・ローウェル伯爵令嬢は相応しくなかった”……それだけだ」
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