【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
41 / 66

41. 妹の力

しおりを挟む


 その文字は“守護の力”という文字のせいでよく読み取れない。

(なんて書いてある?  それにこれは、どういうことなの?)

 筆頭魔術師のこの言い方……サヴァナが“守護の力”を持っていると判定した時にもこのよく分からない文字が浮かんでいた、そう言っているように聞こえる。

 《他にも文字が浮かび上がっていた?  ───つまり、判定は最初から色々と怪しかったということじゃないのか?》
 《トラヴィス様?》

 私の横に並んだトラヴィス様が苦々しい表情でそう口にする。
 また、同じことをクリフォード様も思ったようで、筆頭魔術師に鬼気迫る表情で詰め寄っていた。

「もう一つ文字があったなんて聞いていないぞ!」
「で、殿下……」
「なぜ、黙っていた!  その様子だと父上にも言っていないだろう!?」

 筆頭魔術師は何も答えずガックリと下を向く。その様子から図星なのが窺える。
 その姿を見たクリフォード様が頭を抱えた。

「しかも、解読出来ていなかっただと?  それをするのが魔術師の仕事だろうに」
「……」

 筆頭魔術師ははひたすら項垂れていた。
 伯爵は微動だにせずその場にただ突っ立っていて、クリフォード様は苦悩する表情で続ける。

「今回、水晶はサヴァナが触れた時は反応せず、マルヴィナが触ったら光った。つまり、やはり真の力の持ち主はマルヴィナ?  それはいい。だが、もう一つの文字とは何だ……?」
「お姉様……光った?  でも、もう一つの……文字……何それ?」

 そして呆然として、どこか虚ろな声で呟くサヴァナ。
 それぞれがリリーベル様に向かってどういうことなんだ?  と顔を向けた。

「……なんて目で私を見るんですの……説明はしますけど、その前にお兄様、お願いがありますの」
「ん?」

 リリーベル様は、詳細を説明する前にトラヴィス様を呼んだ。
 それも敢えてクロムウェル語を使っているので、ことが前提だ。

「そこのまん丸性悪女───サヴァナさんに魔力封じの術をかけて欲しいのです」
「え?」
「は?  ちょっと……何で……!?」

 さすがの私もリリーベル様のその言葉に驚いた。
 “魔力封じ”
 その名の通り、魔力を封じて力を使えなくする術。

(まさか、サヴァナの力はそれ程までに危険な力だと言うの……?)

「俺が?」
「……今、この場で彼女より強い魔力を持っているのは、お兄様とマルヴィナさんだけですもの」

 それなら、お兄様しかいないでしょ?  と、リリーベル様は笑う。
 その言葉にリリーベル様とトラヴィス様以外の四人が一斉に私を見た。

「お姉様が、私より強い……?」
「マルヴィナの魔力が私よりも強い、だと?  い、いつから……」

 ローウェル伯爵家の二人が驚きの目で私を見ていた。

「リリー?  魔力封じは……」
「もちろん一時的の封印で構いませんわ。本格的に封じるとなると許可が必要になりますもの。とにかく今、力を使えなくしてくれればそれで結構です」
「……分かった」
「は?  分かった、じゃないわよ!?  やめてよ、なにこの兄妹……怖っ……なんで」
「……」

 当然だけど、嫌がって暴れるサヴァナにトラヴィス様は氷のように冷たい視線を向ける。
 それは美しいから余計に迫力がある。

「……ひっ!?」
「本当にやかましい女だな。静かにしてくれ。その口も封じてやりたいところだ」
「なっ」

 パチンッ
 トラヴィス様はそう言って指を鳴らした。

「あ……」

 サヴァナが、ガクンッと力が抜けたようにその場にへたり込んだ。
 どうやらサヴァナの力は一時的でも封じられたらしい。
 その流れを見ていて思った。

(……トラヴィス様ってやっぱり、指パッチンで力を使えるのよね?)

 前は手をかざして癒しの力をかけてもらったこともあった。
 なのに、どうして守護の術をかけるのには、わざわざキスを……?

 《……?  マルヴィナ。顔が赤いぞ?》
 《えっ!?  あ、いえ、何でも……ありません!》 

 どうやら、先程のキスを思い出して私は顔が赤くなっていたらしい。

(好きだと自覚した人にキスされて動揺しないはずないじゃない!)

 それでも、落ち着け……落ち着けと必死に自分に言い聞かせた。
 サヴァナに目をやると、へたり込んだまま動かない。

「私……の力……」

 そして、力が力がとうわ言のように呟いていることから、魔力を封じられたというのは自分で感じるらしい。
 私は自分の両手をじっと見る。

(私の魔力も半分ほど封じられていたというけれど、感覚としてはよく分からないわ)

 それは呪いと術の違いなのかしら────?

「……それでは、私の“真実の瞳”が視たことを説明しますわね?」

 リリーベル様は、サヴァナの魔力封じの確認を終えた所で口を開いた。

「……結論から言いますわ」

 ゴクリ。
 部屋の中には皆の緊張が走る。

「まぁ、もうこれは言わなくても皆様もお分かりでしょうが、一国を加護出来るほどの力……“守護の力”を本当にお持ちなのは、マルヴィナさんでしてよ」
「……っ!  それなら、私、私はっ!!」

 案の定、そのことに納得がいかないサヴァナが叫ぶ。

「……あなたの力は、水晶にもきちんと浮かび上がっておりましたわ。こちらの……そこの魔術師様が読めなかったと言うもう一つの文字として」

 筆頭魔術師が気まずそうに目を逸らす。

「ここに隠れている文字は、私があなたから読み取った“力”と一致しますのよ。ですから、間違いありません」
「…………だったら、なんて書いてあるのよっ!」
「……」

 リリーベル様がふぅ……と一呼吸置く。
 そんなリリーベル様を見て、サヴァナはハッとして声を弾ませた。

「ハッ!  そうよ!  わざわざ力を封じるくらいだもの。私の力はお姉様なんかよりも、ずっとずっとず~~っとすごい力なんじゃない?」

(え?  どうしてその思考になるの?)

 サヴァナの中には自分の力が“危険なもの”かもという考えはないのかしら?

 《すごい女だな……どれだけ前向き思考なんだ》

 トラヴィス様も私と同じ考えを口にしていた。
 さすがのリリーベル様も面食らった顔をしていたけれど、気を取り直してサヴァナを見つめる。

「ある意味、すごい力でしてよ」
「……ある意味?」

 どこか期待するような目を向けながら首を傾げているサヴァナにリリーベル様は言った。

「あなたの持っている力は────“奪取の力”です」
「だ……だっしゅ?」

 サヴァナは咄嗟に脳内での理解が追いつかなかったのか、首を傾げたまま。
 リリーベル様はそんなサヴァナにため息を吐きながら更に続けた。

「それも、他者とは少し違う性質を持った“奪取の力”ですわ……」

しおりを挟む
感想 417

あなたにおすすめの小説

姉妹の中で私だけが平凡で、親から好かれていませんでした

四季
恋愛
四姉妹の上から二番目として生まれたアルノレアは、平凡で、親から好かれていなくて……。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...