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39. 全てを明らかにするために
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リリーベル様のその言葉の続きを皆が固唾を呑んで見守る。
(サヴァナの力が……とうとう明らかに)
“守護の力”ではない。
それは、もう誰の目にも明らか。
サヴァナに愛されていなかったこと事実を知らされたクリフォード様もお父様も、もうサヴァナのことをそこまで信じれていないと思う。
「わ、私の力ですって!? そんなの守護の力に決まっているじゃないの!」
「いいえ、私の瞳には違う“力”が、視えましたわ!」
「っ!」
サヴァナの反論にリリーベル様はきっぱりとそう言った。
私達もその先が気になってしょうがない。
「ち、違う……力、ですって!?」
「ええ。はっきり言わせていただきます! あなたが持っている力は“守護の力”ではありませんわ!」
「な……!」
ガンッ
サヴァナはその言葉に大きなショックを受けているようだった。
「……だったら、なんの力なのよ!! もっと、もっとすごい力!?」
「……」
(そこで、もっとすごい力? と聞くあたり強欲だわ……)
リリーベル様はなぜかそこで黙り込む。
そして、トラヴィス様の方に顔を向けてルウェルン語で訊ねる。
《ねぇ、お兄様? クロムウェルの魔術師様は“水晶”を持って来たのかしら?》
《うん? まだ、確認はしていない……だが、おそらく持って来ているとは思うぞ?》
《そう……》
リリーベル様は何かを思いついたように顔を上げた。
そこにすかさず、ルウェルン語が理解出来ないサヴァナが騒ぎ立てる。
「ちょっと! 今なんて言ったの!? まさか、何か誤魔化すつもりじゃ……!」
「───いいえ、どうせなら皆様の目にも分かるようにお伝え出来たらと思っただけですわ」
「……は? 皆の……目?」
《──お兄様。ちょっとよろしいかしら?》
意味が分からないと喚くサヴァナを無視して、リリーベル様はトラヴィス様を呼んだ。
《なんだ?》
《実は……》
リリーベル様には何か考えがあるのかトラヴィス様に向かって耳打ちをする。
二人はなんの話を? と、思っていたらリリーベル様と話を終えたトラヴィス様が、こそっと私のそばにやって来た。
《……どうしましたか?》
《うん……リリーは、あの性悪妹に水晶を触れさせて彼女の本当の力を皆の前で明らかにさせたいと思ったようなんだけど》
《はい》
確かにリリーベル様が言葉で語るよりその方が分かりやすいし手っ取り早い。
サヴァナも言い逃れが出来ないし。
けれど、トラヴィス様がどこか浮かない顔をしている。
そのことが無性に気になった。
《それには、何か問題があるのですか?》
《……水晶を使って明らかにさせるためには、“マルヴィナ”の力も必要になる可能性が高いんだ》
《え? 私の、ですか?》
私は驚いてトラヴィス様の顔を見上げる。
トラヴィス様は無言でコクリと頷いた。
《それは、つまり──》
そうなる理由は分からないけれど、この幻影魔法を解いて“マルヴィナ”の姿をこの場に現さないといけない、ということ。
私を探し出して連れ帰って……などと阿呆なことを口にしていたクリフォード様。
死んでもらいたいと願うほど私を嫌うサヴァナ。
“私”が姿を見せたら大騒ぎになることは間違いない。
なにより、クロムウェル王国が欲する“守護の力”は私の中にあることも確実に知られる───
《……リリーもそのことを懸念して先に俺を呼んだ》
《私がこのまま隠れていたいと言ったら、リリーベル様は水晶を使わずに皆に説明をするのですね?》
《ああ、そのつもりだ》
(ダメね……きっと、サヴァナはそれでは納得しない)
リリーベル様の真実の瞳で隠していたことが暴露されたので、瞳の力そのものを信じていても、自分の中にある力は守護の力ではないと言われて、はい、そうですか。なんて、あの子は簡単には言わない。言うはずがない。
《トラヴィス様……》
《……うん》
《私、これからもここに……ルウェルン国……いえ、トラヴィス様のそばにいたいのです》
《マ……》
トラヴィス様が私の名前を呼びそうになって慌てて口を噤む。
“マルヴィナ”と直接呼びかけるのは良くないと思ったからだろう。
《コホッ……あ、当たり前だ! お、俺も君に……ず、ずっと俺のそばにいて欲しい!》
《……!》
《クロムウェルにも帰さない……それから、あんな王子の妃になんか絶対にさせるものか!》
その言葉に胸がキュンとした。
《もちろん、リリーだって同じ気持ちだ!》
《……トラヴィス様》
(そうよ。私には二人がついている。一人じゃない……)
私はグッと拳を握り締める。
どのみち、私はサヴァナから奪われた力を取り戻すと決めた。
まだ、呪いを解く方法は不明だけど、いつかは姿を見せなくてはいけない時が来る。それならば───
《……トラヴィス様。リリーベル様に伝えてください》
《え?》
私はトラヴィス様の目を見てはっきりと告げる。
《水晶を使って説明してください、と》
《……!》
《私は幻影魔法を解く準備をしますので》
トラヴィス様はコクリと頷いてリリーベル様の元に向かった。
────
トラヴィス様からの伝言を受け取ったリリーベル様は筆頭魔術師に声をかけた。
「クロムウェルの魔術師様。あなたが国から持参した“水晶”を今すぐこちらに持ってきてくださいません?」
「な、な、んじゃ、と?」
「は? 水晶を持って来ている? 聞いてないぞ!? どういうことだ!?」
「そ、それはじゃの……」
筆頭魔術師はその声掛けに驚き、クリフォード様はそんな話は聞いてないと憤慨した。
「魔術師様はお兄様に色々と相談したいことがあったのでしょう? ですから“水晶”持ってきて……いますわよね?」
「……」
観念したのかコクリと頷いた筆頭魔術師は肌身離さず持っていた荷物の中から、“水晶”をそっと取り出した。
本当に持ってきていたのかと誰もがそう思った空気の中、サヴァナの顔だけは何故か嫌そうに歪む。
(意外だわ。あまり、触りたくなさそうね……?)
「は? なに……まさかここで私が水晶に触れば分かるとでも言うの?」
「ええ、分かりますわ」
「なんでまた……するなら皆の前じゃなくてこっそり…………」
(なんでまた?)
サヴァナは確かにそう口にした。
それを聞いて思う。もしかして、サヴァナはクロムウェルにいる間に水晶に触れる機会があったのかもしれない。
そしてその時にもしかしたら、望むような結果を得られなかった───?
「まさかとは思いますけど、怖気付いているんですの?」
「はぁ!?」
「あら? だって、私が否定してもご自分は“守護の力”を持っていると豪語していたではありませんか。それなのに不安なんですの?」
「な、なんですってぇぇぇ!?」
リリーベル様が、サヴァナを煽っていく。
こういう所は特にトラヴィス様とよく似ている気がする。
「……私は守護の力を持っている! それは絶対に間違いないんだから! よ~~く見てなさいよ!」
そう言って、あっさり乗せられたサヴァナが水晶に触れた。
───しーん……
けれど、水晶は何の反応も示さなかった。
サヴァナの焦った声が聞こえる。
「な、何で……何でまた、こうなるの!? 今度こそちゃんと光りなさいよ!!」
その言葉で確信する。
やはり、サヴァナはここに来る前に何らかの事情で水晶に触ったけど光らなかった。
そして、それは今この場でも同じで───……それは、何故?
「何の反応もありませんわね?」
「……っ!」
リリーベル様の言葉にサヴァナが顔を上げてキッと睨み返す。
「残念ですわね。ですが、私を睨みつけても水晶は光りませんわよ?」
「な、んですって?」
「その水晶を光らせるには、あなただけでは駄目なのです」
「は?」
部屋の中がそれはどういう意味だ? と、いう空気になる中でリリーベル様はチラッと私に視線を寄越した。
(───姿を解け、そう言っている?)
私は頷いて静かに幻影魔法を解く準備にかかる。
《……大丈夫だ。俺が守るから》
《トラヴィス様……》
私の横にはトラヴィス様がついてくれている。それだけで心強かった。
「クロムウェル王国にて行われた儀式……とやらの前と今では違うことが一つありますわよね?」
「何を言っているのよ、水晶には特別なことはせず触るだけで……」
「そういうことではありませんわ。あなたの前に水晶に触っていた人物がいたでしょう?」
その言葉にサヴァナもクリフォード様も筆頭魔術師も伯爵もハッとなる。
「ま、まさか……お、お姉……さま?」
サヴァナのその答えに、リリーベル様はこれまた美しく微笑んだ。
「……説明するよりも再現する方が早いですわ。ね? ────“マルヴィナ”さん」
「「「「!!!!」」」」
彼らはバッと一斉に後ろを振り返った。
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