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37. 徹底的にやるらしい

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 どうやら、今のパチンッという合図で再びクリフォード様の身体に電流を流したらしい。

「ぐっ……な、何をするんだっ!  何故、僕があなたにこんなことをされなくてはいけないんだっっ!」
「……」

 電流に苦しみながら、クリフォード様がトラヴィス様を睨みつける。
 トラヴィス様はやれやれと肩を竦めた。

「おや?  さすがに目が覚めるかと思ったが……やはり、クロムウェルの王子は泥んこわんぱく王子のようだな」
「な、なんだ……と?」

 トラヴィス様の雰囲気に押されたのか、それとも、もう一度電流を流されることを警戒したのか、クリフォード様は少し勢いを失った。

「ここまでの話を聞いて、俺が“分かりました、捜索に協力します”と答えるとでも思ったか?」
「え?」
「もともと、請け負うつもりなどなかったが……」
「う……く……」

 トラヴィス様が一歩一歩近づくとクリフォード様は怯えた様子で一歩、また一歩と後退する。

「そこのまん丸女の話を聞いたはずなのに、それでも何故、姉の性格に難があると言う話になる?」
「……そ、れは」
「そこのまん丸は、父親を唆して小さな鞄一つだけを用意させたんだぞ?  そして、姉が生きていたとしても惨めで這いつくばって生きているなどと平気で口にする!」
「も、もちろん、サヴァナの行為はやり過ぎだ……だが、しかし、そ、それは……サヴァナはマルヴィナに虐げられていたからということもあって……」
「……」

 パチンッ

 なおも言い訳を続けようとするクリフォード様に、トラヴィス様は再び電流を流した。

「ぐっ……!?  うわぁぁぁぁあぁ!?」

 苦しみながらその場でのたうち回るクリフォード様をトラヴィス様は冷ややかに見下ろした。

「なら、聞こう。姉が妹を虐げていた証拠はどこにある?」
「ぐっ…………しょ……え?」
「もちろん、そこのまん丸女の証言以外に、だ」

 トラヴィス様は“そこの”と強調してサヴァナを指さした。

「ひっ……!?」

 指をさされたサヴァナは小さな悲鳴を上げて、その場に縮こまっていた。
 まん丸と言われても、最初のように抗議の声をあげないのは、おそらく自分にも電流が流されることを恐れているからだと思われる。

「王子。お前は、直接その姉が妹を虐げているというその場面を一度でもその目で見たのか?」
「……!」

 クリフォード様はハッとしてしばらく考え込んだ。

「一度も……見て……いない」

 その後、クリフォード様はそう言って静かに首を横に振る。
 その時の顔色は、とても悪くて表情も暗かった。

「つまり?  直接、見てもいないのに、妹の証言だけを鵜呑みにして全て信じたのか……愚かにも程がある」
「……っ!」
「まあ、それはそこの父親も同じようだがな」

 続けてトラヴィス様はチラッと伯爵を見る。
 伯爵の顔色も同様に悪かった。

(そうね……お父様も私がサヴァナを虐めたと信じていたものね……)

「そして、そこの魔術師はと思いつつも、全てを見て見ぬふりってところか?」
「───……」

 筆頭魔術師もトラヴィス様に指摘されて気まずそうに顔を俯ける。

「───どいつもこいつも、まともな思考をしていないようだな……クロムウェル王国にはまともに物事を考えられる奴はいないのか?」

 トラヴィス様のその言葉には誰も反論が出来ずに項垂れる。
 この場はもはや完全にトラヴィス様の独壇場となっていた。

(……トラヴィス様、すごいわ)

 そう感動していた私だけれど、トラヴィス様が手を緩めることはなかった。
 どうやら徹底的にやるつもりらしい。
 そうしてトラヴィス様は皆に声をかけた。

「どうせ、ここまで言っても、これは何かの間違いだ、とか、やはりそこのまん丸を信じたいとか愚かなお前たちは言うのだろう」
「……」

 サヴァナがトラヴィス様から気まずそうに視線を逸らす。

「それなら、そこのまん丸の妹が“嘘つき”であることを証明させるとしよう」
「え?」
「は?」
「何?」
「なんじゃと!?」

 クリフォード様、サヴァナ、伯爵、筆頭魔術師の順で、皆、不思議そうに首を傾げた。

「私が嘘つきって……そんなの」
「分かるさ。とある特殊能力があればね」
「特殊能力……?」

 サヴァナは何それ、と呟いて眉をひそめたけれど、筆頭魔術師が勢いよく顔を上げた。

「……ま、まさか、し、真実の瞳……?」
「ああ、一応、魔術師と名乗るだけあって真実の瞳のことは知っているようだな」
「ま、まさか貴殿は真実の瞳も持っておるのか?  だから……」
「──いや。それは俺じゃない。だが、真実の瞳を持った者は存在する」

 トラヴィス様はそこは否定しながら入口に向かって声をかけた。

「……待たせたな。入ってくれ」
「───本当ですわ。待ちくたびれましてよ?  お兄様」

 そう言いながら、リリーベル様が部屋に登場する。

「すまない。王子があまりにも泥んこわんぱくで、婚約者がまん丸だったから時間がかかってしまった」
「……お兄様。それずっと気になってましたけど、泥んこわんぱくは“色ボケ”と発音しますのよ?  それから、まん丸も“性悪”ですわ」
「ん?  間違ってたか?」

 リリーベル様の指摘にトラヴィス様が首を傾げる。
  
「ええ。間違っていましたわ。まぁ、妙にしっくり来ていて面白かったですけど」
「そうか……クロムウェル語もなかなか面倒だな」

 そう不思議がるトラヴィス様の横で、クリフォード様とサヴァナが愕然としていた。

「い、色ボケだと……」
「性悪……!?」

 そんな二人を無視してトラヴィス様とリリーベル様は続ける。
 リリーベル様は筆頭魔術師に向かって美しく微笑んだ。

「クロムウェルの魔術師様。真実の瞳の持ち主は兄ではなく私ですわ」
「あ、あなたが……」
「私のこの瞳でそこの……性悪女がこれまで、どんな嘘をついてきたのか明かしてみせますわ」
「……」

 美しく微笑むリリーベル様の雰囲気にその場が圧倒され始めた時、サヴァナが声を上げた。

「ちょっと待って!  真実の瞳だかなんだか知らないけれど、そんなの適当に嘘をつくことだって出来るわ!」
「……」
「妹なんでしょう?   私に不利な証言をする可能性だってあるじゃない!」
「た、確かにそうだ……!  何も知らない第三者ならともかく魔術師殿の身内とあっては……!」

 サヴァナに続いてクリフォード様まで抗議の声をあげる。
 トラヴィス様はやれやれと肩を竦めた。

「……そこまで言うならリリーには嘘が付けないよう誓約魔法を用いる。それなら文句はないな?」
「私は構いませんわ。それよりも私が“視た”ものが私の捏造話だなどと言われる方が不快ですもの」
「「!」」

 リリーベル様のゾッとするくらい美しい微笑みに圧倒されて二人は黙り込んだ。

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