【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

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33. 決意と自覚する恋心

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 マルヴィナを探すことにしたクリフォードは、筆頭魔術師を呼び出した。

「……マルヴィナ様を探し出すじゃと?」
「父上からの命令だ。サヴァナの能力が疑われてしまったから、マルヴィナのことを改めて確認したいらしい」
「……なんと!」

 筆頭魔術師の顔色が悪くなる。
 こいつもマルヴィナ追放に加担した身だからな。

「マルヴィナの気配を辿れないか?」
「……探索魔法で居場所を探れと仰る?」
「そうだ。得意だろう?」
「……承知しました」

 王子の命令には逆らえないので、筆頭魔術師はマルヴィナの気配を辿ってみることにした。
 気配をつかみさえすれば居場所の把握は自分にとってそう難しいことではない───

(しかし…………今代は自分には荷が重いことばかりじゃ……)

 マルヴィナ様の十八歳の誕生日から訳の分からないことばかり起きている。

「……んん?」
「どうした?  マルヴィナの気配はこの国にあったか?」
「……」

 思っていたよりも早い筆頭魔術師の反応にクリフォードは顔を上げた。
 これは、マルヴィナは案外近くにいるのかもしれない!

(はて?  ……気配……はある。これはマルヴィナ様に間違いない。じゃが……)

「……殿下。確かにマルヴィナ様はこの国にいるとは思われます……が、居場所の探知が全く出来ませぬ……」
「は?  なんだと?」

 筆頭魔術師は混乱していた。
 マルヴィナの気配はこの国から感じるのに。それ以上が分からない……こんなことは初めてだった。
 マルヴィナの居場所はまるでかのように妨害されてしまう。

(なんなんじゃこれは!)

 ……畜生、マルヴィナをどうやって見つけ出せばいいんだ!
 そう頭を抱えるクリフォードの横で筆頭魔術師は、ここはやはりこの国一の魔術師を頼り、協力をお願いするしかないなと思った。
 手紙でもあんな見透かしたようなことを書いてくるような方だ。おそらく察知能力にも長けているに違いない。

(水晶の件もあるしのう……) 

 本日は殿下に付きっきりだった為、残念ながら魔術師と接触が出来なかった。
 だが、なんとしても帰国前に彼とは話がしたいところだ。

「殿下、ここはルウェルン国一の魔術師に相談をしてみませんか?」
「……なに?」
「この国一の魔術師を名乗る者ならば、人一人探すことなど容易いかと」
「……確かにな。だが、他国の人間にこのゴタゴタのことを知られるのは」

 国の恥を晒すようでクリフォードの中では抵抗する気持ちがあった。

「ならば、そこは、サヴァナ様の姉が実は失踪していて、この国にいる可能性がありサヴァナ様が会いたがっているとでも言えばよろしいのでは?」
「おお、なるほど。それなら国の内情も知られずに済む、か……よし!  明日は僕も授業に参加するから、その時にでも。あぁ、それからこのことは伯爵にも話をしないと───」


 ───何も知らない愚かな二人の密談は続く。


❋❋❋


「……トラヴィス様。一つお聞きしたいのですが」
「うん?」

 トラヴィス様は、私を抱きしめたまま離してくれない。
 さすがに私たち密着し過ぎでは?  そう思うけれど一方で離れたくないと思う自分もいて私は戸惑っていた。
 そんな中で、先程考えた“サヴァナから力を取り戻す”件についてトラヴィス様に聞いてみることにした。

「サヴァナに奪われた魔力を取り返すことって可能なのでしょうか?」
「え?」

 トラヴィス様が驚きの声を上げる。おそらく表情もビックリしていることだろう。

「……私、私の力を半分しか発揮出来なくしている呪いを解明して解きたいんです。そして、その呪いが解けた時には、サヴァナに奪われた魔力も取り返したい……のです」
「マルヴィナ……」

 どうせ、サヴァナは今日の授業の件で、色々嫌になっている。
 放っておいてもさっさとクロムウェル王国に帰りたいと言い出すはず。
 それならば、このまま波風立てずにさっさと帰ってもらって二度と会わない。
 私は私で今ある力だけでこの国で生きていく──

(そんな選択肢もある。そしてそれが一番、平穏なんだとは思う……でも!)

「あの子に奪われたままなのは嫌なのです!」
「!」

 私がそう口にしたら、トラヴィス様の顔がゆっくり近づいて来た。
 そして私の前髪を横によけると、額にそっとキスを落とした。

(……え!)

 突然の柔らかな感触に戸惑う。

 ──ピキッ

(……!?)

 そして、私の頭の中では何か変な音まで聞こえた。
 なにごと!?  と、驚いているうちにチュッと音を立ててトラヴィス様の唇が離れてしまった。

「……」
「……」

 お互い無言で、しばし見つめ合う。
 額にとはいえ、突然のキスに今、私の頬は絶対真っ赤だ。
 ……トラヴィス様は?  
 突然こんなことをしておいてトラヴィス様はどんな表情をしているの?

(あなたの……顔が見たい)

 そう思ってしまった私は、あまり深く考えずに手を伸ばしてトラヴィス様の分厚い眼鏡を外した。

「え!?  待っ……マル……」
「……この眼鏡は狡いですね。あなたの顔が見えません」
「あ、う……いや……」

(あなたの顔も真っ赤じゃないの────)

 眼鏡を私に外されたトラヴィス様の惚れ惚れするくらいの美しい顔は、真っ赤だった。
 その真っ赤な顔と照れる仕草に私の胸がキュンと高鳴る。
 そして、これまた無意識に私はトラヴィス様の頬に自分の手を伸ばして触れる。

「え!?  ちょっ……マル、マル、ヴィナ!?」

(あなたのこんな風に真っ赤になる顔は……私だけが知っていたい)

 トラヴィス様あなたは未来の公爵様、私は身分を追放された隣国出身のただの平民───
 釣り合わないことは重々承知だけれど。それでも……

(……好き。私、トラヴィス様のことが……好きだわ────……)

 ──ピキッ

「……?」

 そう思った瞬間、またしても頭の中で何かの音が鳴った気がしたけれど、今はそれどころではない。とりあえず無視して私はそっと身を乗り出す。

「マ、マルヴィナ……?」
「……トラヴィス様」

 トラヴィス様の名前を口にしたあと、私は彼の頬に向かって自分の唇を近づけてチュッとキスをした。

「~~~~~!?!?」

 ボンッと音がしそうなほど、ますます真っ赤になって声にならない叫びを上げるトラヴィス様。
 そんな彼の目をじっと見て、私は頬を染めて照れながら言った。

「さ、さっきの……し、仕返し!  です」
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