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24. トラヴィスの自覚
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「え~? 私と殿下がルウェルン国に旅行ですか?」
「旅行……? ちょっと違……うん……まあ、いいや」
「ふふ、新婚旅行……いえ、まだ結婚前だから~婚前旅行になるのかしら? 嬉しいです~」
サヴァナはクリフォードから、一緒に“ルウェルン国にいかないか”と誘われて、勝手に婚前旅行に置き換えて浮かれていた。
「……」
(魔術を学んでもらうための訪問と言ったらサヴァナはがっかりするだろうか……)
クリフォードはこう思っていた。
いつだって愛らしく笑い、清らかで健気で可愛いサヴァナ。
彼女が性悪な姉、マルヴィナに変わってローウェル伯爵家の力を受け継ぐことになったのは当然の結果。
そして、サヴァナはマルヴィナからの虐めや嫌がらせにもずっと耐えて来た頑張り屋だ。
きっと、魔術をしっかり学べば力も安定して我が国を守護する、誰からも尊敬されるような未来の立派な王妃になるだろう───
一方のサヴァナは……
あの謎の光の線を見てから数日。
あれから誰からもなんの追求もなかったため、もういいでしょ? と、だいぶ開き直っていた。
(一応、光ったんだもん! 文句は言わせない。まぁ、今も雨はずっと続いているけど)
そのうち、ちゃんと力が発動して勝手にどうにかなるはずよ!
だから、私はそんなことよりもクリフォード様との仲をもっと深めなくちゃ!
───そして、誰からも愛されて羨ましいと言われるほどの愛され王妃になるんだから!
などと考えていた。
(旅行なんて殿下との仲を深めるチャンスよ~)
そう浮かれていたサヴァナだったけど、気になることが一つ。
「あ……でも、殿下の頭痛は大丈夫なんですか~?」
最近は得に辛そうだった。
そんな様子で旅行なんて大丈夫? と、サヴァナは思った。
「うん……まあ。最近分かったんだけど、魔力を流してもらうと症状が少し落ち着くんだ」
「魔力を……? へぇ……? そ、それなら良かったです~!」
サヴァナは魔力を流すと言われても、よく分からなかったけれど、症状が良くなってるならそれは良かったと喜んだ。
「そういうわけだから、ルウェルンには筆頭魔術師も付き添ってくれることになっている」
「え!(あの、ヨボヨボが!?)」
(えー、二人っきりじゃないの~?)
そう文句を言いたかったけれど、クリフォード殿下は大事な大事なこの国のたった一人のお世継ぎなのだから、それも仕方ないわよね、と思い直した。
「じゃ、向こうには殿下と私と筆頭魔術師の三人で行くんですか~」
「いや。あとは君の父親、ローウェル伯爵も一緒だ」
「え……お父様が!? どうして!?」
(今、お父様は屋敷の行方不明になった荷物の件でギスギスしていて、お母様とも離縁するしないで揉めている最中なのよ!?)
呑気に旅行している場合じゃないはずだ。
「……どうしてって、サヴァナ。君は自分のお父上の能力を忘れたの?」
「え? あっ!」
指摘されてサヴァナは間抜けな声を上げた。
───現、ローウェル伯爵が十八歳の誕生日に授かった特別な能力は“ガーディアン”の能力。
これは王族を護衛する際に発揮される力。
なので、王族が海外に出る時の警護などに伯爵は必ず呼び出されることになっている。
「そっかぁ、お父様も……」
「伯爵が同行しているだけで、僕らはあらゆる物から身を守れるからね」
「……」
分かってはいるけれど、父親が同行かと思うと気持ちが萎える。
(あ、でも!)
せっかくの旅行なんだもん。殿下におねだりしていーーっぱい色々な物を買ってもらうわ!
サヴァナはどこまでいってもサヴァナだった。
(出発が楽しみだわ~~)
❋❋❋
「───は? クロムウェル王国の王太子が婚約者と一緒にこの国に来る?」
「なんでも、王太子が婚約者に魔術を学ばせたいそうだ」
「……婚約者に魔術を?」
トラヴィスは眉をひそめた。
その日、至急と王宮に呼び出されたトラヴィスは、ルウェルン国の王子であるイライアスから、そんな話を聞かされた。
(せっかくマルヴィナとの時間を堪能していたのに……)
そう思ったトラヴィスは内心で舌打ちをする。
最近は、時間が出来るとマルヴィナに魔術を教えているが……マルヴィナはすごく頑張り屋でとにかく一生懸命だった。
───早くたくさん習得してトラヴィス様の力になりたいです!
あんな可愛い顔でそんな健気なことを言われたら───
(抱きしめたくなるじゃないか!)
マルヴィナと過ごすうちに、自分の中でこれまで感じた覚えのない気持ちがどんどん湧き上がってくる。
……声が聞きたい。たくさん笑って欲しい。泣かせたくない。
触れたい。抱きしめたい。
────俺がこの手で幸せにしたい。
(……これって、そういうことなんだろうなぁ……)
俺はマルヴィナのことが好……
「───トラヴィス!さっきから何度も呼んでるんだぞ? 聞いてるのか!?」
「……ハッ!」
怪訝そうな表情のイライアスに呼びかけられハッとする。
「……聞いていなかった。なんだっけ? クロムウェルの王太子の婚約者が我が国で魔術学びたい?」
正直に聞いていなかったと謝るとイライアス自身もあまり乗り気ではないようで、深いため息を吐きながら言った。
「そうだ。それで、クロムウェル王国の要望としては王太子の婚約者に魔術を教える人間は、ぜひ国一番の魔術師……」
「なるほど。そういう話ですか、それならお断りします」
「なっ……! まだ、最後まで言ってないだろう!?」
トラヴィスがくい気味に断って来たのでさすがの王子も慌てる。
断ってくることは想像していたがいくらなんでもこれは即答すぎる。
「どうしてだ……」
(せっかくのマルヴィナとの時間をこれ以上邪魔されたくない……それに……)
「殿下、念の為にお伺いしますが」
「なんだ?」
「──そのやって来るご一行の中の一人。クロムウェル王国の王太子殿下の婚約者は、サヴァナ・ローウェル伯爵令嬢という人物で合っていますか?」
トラヴィスのその言葉にイライアスは眉をひそめた。
「なぜ、そんなに詳しく知っているんだ?」
「……」
(なぜって……)
───マルヴィナ。
彼女はこの国に来る前のことは語りたがらない。
だが、あの桁違いの魔力量を持っていることから、必然的に素性が見えてくる。
そうして少し調べたら色々と分かってきた。
だから俺は確信している。
その我が国にやって来る王太子の婚約者とやらは、マルヴィナの妹に違いない───
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