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22. 水晶の示す先

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「こんにちは~、殿下に言われて来ましたけど~?」
「おお、サヴァナ様!」

 嫌々ながらも殿下に言われたので、私は仕方なく王宮魔術師の元を訪ねた。

「お待ちしておりました」
「……」

 どうぞ、どうぞと椅子を勧めてくる王宮の筆頭魔術師。
 他の魔術師たちもその後ろについて静かに見守っている。

(なに、この空気……)

 とりあえず、私は言われたそこに腰を下ろした。
 よく分からないことになんて付き合っていられない。さっさと用件聞いて立ち去ろう。
 そう決めた。

「それで?  私に来て欲しいって何の用ですか~?」
「……」

 私が訊ねると、筆頭魔術師はどこか気まずそうに目を逸らす。
 他の魔術師たちも何処か気まずそうな空気を漂わせている。

(は?  ……もしかして王宮魔術師たちはやっぱり私のことを疑っているの!?)

 信じられない!
 誰もが認める選ばれた私を何だと思ってるの?
 特にこの目の前のヨボヨボ筆頭魔術師!
 もう歳も歳だし引退させるべきって後でクリフォード殿下に言っておかなくちゃ!

 そんな中、その筆頭魔術師はふぅ、とため息を吐きながら私のことを見た。

「……サヴァナ様。さすがに変じゃとは思いませぬか?」
「へ、変?」
「この雨ですよ。降り始めてからもう半月にはなりますぞい。いくらなんでも……さすがにこれはおかしいとしか言えませぬ。サヴァナ嬢。そなたの守護の力は──」
「……っ!」

(そんなこと今更、言われても私は魔術のことなんて、さっぱりだもん!)

 私は首を振って叫びながら反論した。

「守護の力は私が“ここに居る”だけでいいと仰っていたじゃないですか!」
「───そうじゃ。守護の力というのは、力を授かったローウェル伯爵家の者──がだけで我が国が守られる……そういう力のはずなのじゃ!」
「だったら、私に出来ることはありません!  力を授かった私はここにいます!」

 私は胸を張る。
 それに私の魔力は充分にあるって話だったから、これは絶対に私のせいじゃないわ!

 私の反論を聞いた筆頭魔術師は明らかに肩を落としていた。

「分かっておる。だが、何かがおかしいとしか思えぬのじゃ」
「だから~……」

 筆頭魔術師は私の言葉を遮ってこう言った。

「サヴァナ様……すまないが、もう一度あの水晶に触れてみてはくれないだろうか?」
「は?」
「何も……何も変わったことが起きなければそれはそれで構わぬ。じゃが、もし……」
「……?」

 もし……の後はなに?  なんなのよ?
 ゾクッ……
 身体が震えた。
 ───何故かは分からない。
 だけどこの時、私はすごく、すごーく嫌な予感がした。

(だけど、ここで嫌だと言ったらますます疑われる……それは嫌!)

「……分かりました!」
「サヴァナ様……」

 触ればいいんでしょ?  触れば!

「また光ればいいんですか?  それとも無反応ならいいんですか?」
「…………あの誕生日の時のように金色に光るはずじゃ」

 ──本当に力を授かっているのなら。
 筆頭魔術師はその言葉は口に出さずに飲み込んだ。

「ふーん」

(さあ、この魔術師を黙らせて唸らせるくらいの眩しい光を放ってちょうだい!)

 そんなことを思いながら、私は再び水晶に触れた。

 ……だけど。

 しーん……
 この私が触ってやっているのに水晶はうんともすんとも言わない。

「は?  何で光らないの?」
「……」
「ちょっと!  ふざけないでよ!」

 ペタペタペタ……これでもかと水晶を触り続けるけど水晶は光らない。
 冷たい汗が私の背中を流れる。

(嘘……嘘よ、嘘……こんなの絶対に嘘なんだから!)

 ペタペタペタペタ……
 何かの間違いよ!  早く……早くあの時みたいに光りなさいよ!

「…………サヴァナ様」
「……っ」

 名前を呼ばれてそっと顔を上げる。
 筆頭魔術師も他の王宮魔術師も疑惑の眼差しを私に向けてくる。

「違っ……こ、これは……」

 どうしよう……とにかく誤魔化さなくちゃ!
 私は何か良い言い訳がないかと頭をフル回転させる。

「ハッ!  そ、そうよ!  これは、あなたたちが私を嵌める為に用意した偽物なんでしょう!  そうよ、そうに決まっているわ!」
「サヴァナ様、なんてことを言うのじゃ!」
「そうですよ、何故、私たちがそんなことを……!」

 筆頭魔術師もその他の魔術師も偽物だということは否定してくる。
 なんて奴らなの……!

「う、うるさいわよ!   あんまりうるさいと殿下に言ってあなたたち、みんな首にしてもらうわよ!」
「……」

 脅せばどうにかなると思ったのに、彼らは気まずそうに顔を見合わせるだけ。
 もっと焦るとかないの?  なんで?

「~~~っ!」

 どうしよう、どうしよう……
 何で光ってくれないの?  こんなのおかしいでしょう?
 選ばれたのは私!  出来損ないのお姉様なんかとは違うのよ!!
 そう思った時、閃いた。

(ハッ……!  そうよ、この水晶はきっと偽物だもん。うっかり手を滑らせて壊しちゃった……ってことにすれば……全てなかったことに……)

 そうと決まった私は大声で叫ぶために大きく息を吸い込んだ。

「……き」

 ───きゃぁ!  手が滑ってしまったわ~

 と、叫んで水晶を壊してやろうとしたその瞬間、その水晶が光った。

(え?  ついに光った?  私、やっ……たのかしら?)

 その光に驚いて手が止まる。
 だけど、その光はあの時のような眩しい金色の光とは違った。水晶だけがほんのり光っていた。
 筆頭魔術師や他の魔術師たちも困惑しているじゃないの。

(でも、光は光よ!  よく分かんないけど、これで私への疑惑は晴れるはず───)

 そう思った瞬間、水晶の放つ光が細い棒のような形に変わって光の線が出来上がった。

「は?  何これ……」
「こ、これは……なんじゃ……」
「こんなの初めて見た」

 この場にいる者たちが困惑する中で、その光の線は真っ直ぐ伸びてある一定の方角を指していた。
 まるで何かを訴えるように。

「な、何よ……その方向に何があるって言うのよ!」

 私がそう口にした時、魔術師の誰かがポソッと小さな声で呟いた。

「────あの方角にあるのは、ルウェルン国ですね」

 その声につられて皆が一斉にバッとその方角を見た。



❋❋❋



 その頃、祖国の騒動を知らない私は、トラヴィス様の元で魔術の訓練をしていた。

「いいか?  まずは自分の身体の中の魔力を感じとるんだ」
「身体の中の魔力……」

 そう言われても中々難しい。
 私が苦戦していると、トラヴィス様がそっと私の手を握った。
 それも、指を絡めて。

(──っ!)

 その瞬間、なぜか、私の胸がドキンッと大きく跳ねる。

「今から俺の魔力をマルヴィナの身体に流すから───ん?  マルヴィナ、どうかした?」
「ど、ど、どう、とは?」

 自分の声が震えている。

「顔が真っ赤になってるよ?  暑かった?」
「……」

 トラヴィス様は鈍いのか、見当違いのことを口にする。
 私は慌てて否定した。

「あ、暑くはないです……」
「そう?  でも、顔はかなり赤────」
「そ、それは!  手……手が……」
「手?」

 そう言ってもトラヴィス様には伝わらないらしい。

(は、恥ずかしい……でも、きちんと伝えなくちゃ……!)

「トラヴィス様に手を握られて……そ、その、私の身体があ、熱く……なりました……」
「え?」

 今度はトラヴィス様の方がどんどん真っ赤になっていった。
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