【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

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19. 新たな居場所

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「……くっ!  もういい。そうだ!  あの 出来損ないマルヴィナが部屋に残していった物が沢山あるはずだ!」
「え?  お父様!?」

 伯爵である父親が急に何かを思い出したように、今は誰も使っていない隣の部屋へと向かった。
 サヴァナは慌ててその後を追う。

「待って、お父様!  お姉様なんかが残したものを使うなんて私は絶対に嫌よ!?  お下がりなんて真っ平御免なんだから!!」
「お前に使わせるわけではない!  売って金の足しにするだけだ」

 そう言って伯爵はかつてマルヴィナが使っていた部屋の扉を開ける。

「お父様……そもそも……どうして急にそんなにお金が無くなっちゃったの?」

 サヴァナにはそれがどうしても分からなかった。
 確かに殿下と婚約してからは彼に見合う為にドレスを新調したり、新たな宝石を買ったりしたけれど、爆発的に増えたわけではない。今までもこれくらいの贅沢はして来たはず。
 それに、姉のマルヴィナが居なくなったことでその分の出費が減ったのでは?

「ここ最近の不安定な天候のせいもあるが……我が家に至っては急に金回りが急に悪く……………ん?」
「どうしたの~お父様?」

 元マルヴィナの部屋の中を見た伯爵が不自然に黙り込んだ。

「サヴァナ。この部屋、こんなにガランとしていたか?」
「え?  ガラン?」

 そう言われてサヴァナも父親の肩越しに部屋の中を覗き込む。

「……あれ?」

 小さな鞄一つのみの持ち出ししか許されなかったお姉様。
 本当にその鞄のみを持って出ていった直後に部屋を見た時は、思った通り、たくさん荷物が残っていてほくそ笑んだものだけど……
 どうしてなのか。部屋はガランとしている。まさに、空っぽ。

「どういうこと?  全然、何も無いじゃない!」
「……なぜだ」

 伯爵は机の引き出し、クローゼット、タンスなど、ありとあらゆる場所を開けたが、全てが空っぽ。売って金になりそうなものどころかゴミ一つ残されていない。
 伯爵は頭を抱えて唸る。

「……こ、これはどういうことなんだ!  あいつ……マルヴィナはほとんどの物を置いて居なくなったじゃないか!」
「そうよ!  なのに、どうして?  う、嘘!?  何で!?」

 二人は家具しか残されていない部屋を見て呆然とする。

「……サヴァナ?  まさかとは思うがお前……」
「え?  私?  ちょっとお父様、冷静になって?  私だって今、こんなに驚いているわ……!」

 サヴァナは自分がこっそり部屋から持ち出しては、売ってお小遣いにしていたのでは?  と疑われてしまい焦って弁解する。

「───ほ、ほら!  わ、私よりお母様……い、いえ、使用人が勝手に持ち出してこっそり売ったのかも!  ね?  ね??」
「~~~……」

(畜生!  誰も彼もが怪しすぎる!)

 そう思った伯爵は廊下に出て声を張り上げた。

「──おい!  今すぐ!  屋敷の者、仕事の手を止めて全員ここに集まれーーーー!」
「お、お父様!?」
「盗っ人を探す!  絶対に許さん!」

 魔術に長けた家のはずなのに……
 まさか、ずっとマルヴィナの幻影魔法による幻覚を魅せられていたなどと夢にも思わない愚かな当主を始めとしたローウェル伯爵家の者たち。

 魔法の解けたマルヴィナの部屋では、今、まさに不毛な争いが行われようとしていた───



❋❋❋


「わ、私を住み込みで……雇う、ですか?」

 トラヴィス様の提案に驚いた私は、声を震わせながら訊ねる。
 聞き間違い……ではないわよね?

「うん。一番日当たりのいい部屋を用意させることにした」
「そ、そんな!  恐れ多いです!」
「え?  でも昼寝するのには最適な部屋だよ?」
「お、お昼寝!?」

 昼寝って!  トラヴィス様の物事の基準がおかしい。
 私が困っていたら、トラヴィス様がそっと手を伸ばして私の頬に触れた。

「───言っただろう?  マルヴィナ、君は心も身体も疲れているって」
「……!」
「それには、ここに来るまでに色々なことがあったからとは思うけど、この国に来てからも職探しに住むところまで……」

 トラヴィス様はそこで言葉を切って、それは疲れるよね、と言った。

「だから、ゆっくり休んで欲しいんだ」
「ト、トラヴィス様……」
「昼寝は気持ちいいよ?」
「うっ!」

 その言葉に私の心が大きく揺れる。
 お昼寝……これまでその響きに何度憧れたことだろう……

「それに、リリーの家庭教師を頼むと言ったけど、頑張らなくてもいい」
「え?」
「どうせ、リリーはそんなに長い時間、机に向かっていられないんだからさ」
「───お、お兄様!!」

 リリーベル様が顔を赤くしてトラヴィス様に抗議する。

「そ、そんなことはありませんわよ!  三十分くらいなら余裕ですわ!」
「リリー、それは本気で言っているのか?  短いよ……冗談だと言ってくれ」
「なっ……!」

 そんな二人のやり取りに思わずクスリと笑ってしまう。

「……ふ、ふふ」
「マルヴィナさんまで! どうして笑うんですの!」
「リリーの三十分なら余裕発言に引いたんじゃないのか」
「そんな!」

(───楽しい)

 本当に仲の良い兄妹だわ。
 これから私、ここに居ても……いいの?
 そう思ったら、胸がトクントクンと高鳴る。

「あの!  ふ、不束者ですが───よ、よろしくお願い……します」
「こちらこそ、じゃじゃ馬リリーをよろしく」
「──お兄様!  コホンッ…………よ、よろしくお願いしますわ!」

(……あたたかい)

 私が頭を下げたら二人は笑顔で迎えてくれた。
 そのことがたまらなく嬉しかった。




「──それじゃ、宿に行って引き払いとマルヴィナの荷物を持って来ないといけないね」

 話がまとまった所でトラヴィス様がそう言った。

「あ、荷物は持っているので大丈夫です」
「は?」
「え?」

 私がそう言ったら二人が驚いた顔でこっちを見る。

「いや、荷物……全然持っていないじゃないか」
「そうですわよ!」
「はい、手では持ち歩いていませんが───こちらに」

 そう言って私は空間を呼び出して収納魔法を見せる。

「私の荷物は全てこの中に入っていますので」
「……」
「……」

(あら?  なぜか二人が固まっている)

「……収納魔法。マルヴィナは空間魔法も使えるのか?」
「はい。こちらに来る前に見よう見まねで作り上げまして!」

 私が胸を張って答えたら、なぜか二人はますます黙り込んでしまった。

「?」
「リリー聞いたか?  これを……この規模を見よう見まね」
「はい、お兄様。私はお兄様が適任かと思いますわ」
「そうだった。マルヴィナはクロムウェル王国出身だからな……」

 私の収納魔法ってどこかおかしかったのかしら?
 そんな風に思っていたら、トラヴィス様がそっと私の手を取った。
 ドキッと胸が跳ねる。

「……マルヴィナ」
「は、はい!」
「この家で……ゴロゴロして、リリーの勉強を見て、またゴロゴロしている合間くらいの時間にさ」
「は、はあ……」

 ゴロゴロしすぎでは?
 そう思ったせいで間抜けな返事になってしまったけれど、トラヴィス様の続きの言葉を待つ。

「俺から魔術を学ぶ気はない?」
「え?」
「……マルヴィナのことは最初から放っておけない……そう思っていたけど、魔術師としても放っておけないんだ!」
「は……え?」

 トラヴィス様は私に向かってそう力説した。



❋❋❋


 マルヴィナが新たな居場所を手に入れたその日の夜────


「リリー」
「あら?  お兄様」
「少し、いいか?」

 妹の部屋に兄であるトラヴィスが訊ねて来た。

(……来ると思っていましたわ)

 だって、お兄様は何でもお見通しなんですもの。と、リリーベルは思った。

「マルヴィナさんは?」
「眠っている。今日は色々あって疲れただろうからな、ぐっすりだ」

 トラヴィスは、メイドに付き添ってもらってこっそり覗いたところ、スヤスヤと気持ちよさそうに眠るマルヴィナの顔を見てホッとしていた。

「最高級のフッカフッカの枕とベッドを用意させましたものね」
「ああ」

 魔術に頼らなくても安眠出来る最強のグッズだ。
 そうして、マルヴィナには心と身体をゆっくり休めて欲しいとトラヴィスは思った。

「それよりも。俺が今、お前のところに来たのは」
「……」
「リリー、お前は……お前の真実の瞳はあの時、何を“視た”?」
「───……」

 リリーベルは、やはりその話ですのね、と思った。
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