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10. もう、戻らない
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(───ああ、やっと出て行ってくれたわ!)
ずっとずっとずっと自分にとって目障りだった姉、マルヴィナが小さな鞄一つ“だけ”を手に持って屋敷を出て行ってくれた。
その後ろ姿を見つめながら、私、サヴァナはニヤリとした笑みを浮かべる。
お姉様にずっと私の近くでウロウロされるのは目障りだと思っていた。
だから、一日でも早く家から……いえ、この国から出て行って欲しかった。
(うふふ……あんな小さな鞄のみでいったい何時まで生き延びられるのかしらね?)
お父様にさり気なく進言した甲斐があったわ~
お姉様は質素に過ごすのが好きみたいだから鞄も小さくていいのではないかしらって。
そうしたら、本当に小さな鞄を用意してくれたわ。さすが、お父様!
(あんな鞄では持ち出せたものは、せいぜい着替えとお金と換金用の宝石が数点って所かしらね~)
それくらいなら、いくら換金したとしてもほんの数日でお姉様の手持ちのお金はすっからかんになるはず。
(でも、ドレスに隠すとかしてコソコソ隠し持って行った可能性も捨てきれない!)
そう思った私は、念の為にどれくらい持ち出したのかを確認しようとお姉様の部屋へと向かってみる。
「なぁんだ、すごくたくさん残ってるわ~」
お姉様の部屋の扉を開けてみると、お姉様の持ち物はかなり残っていた。
「ふふ、やっぱり! そうよね……あんな鞄には全然入りきらないわよね~」
私はこの光景にとても満足した。
お姉様の使っていた物のお下がりなんて冗談でも要らないので、中を物色するという気持ちにもならなかった。
(──せいぜい長生き出来るといいわねぇ? お姉様)
「本当に……今日まで長かったわぁ」
ずっとずっと目障りで嫌いだった。
ローウェル家の長子──そんな理由だけで王子の婚約者候補、すなわち!未来の王妃候補になるとか信じられない!
「王子様の横に立つのは、可愛くて優れた人間がなるべきでしょ? 私みたいに」
お姉様が十八歳の誕生日に力を授からなかったと知った時、私は歓喜した。
同時にもしかして……とも思った。
だから、私は自身の十八歳の誕生日には何がなんでも水晶に触れる必要があったのよ。
そして、触れた結果が───
「……当然の結果よね! ……ただ、なんでお姉様は最後、笑っていたのかしら……」
絶望する顔が見たかったのに。
何故かお姉様はどこかすっきりとした顔をしていて、更には微笑みを浮かべて出て行った。
それがなんだかずっと心に引っかかる。
「ま、きっとお姉様の単なる強がりよね!」
これから先、お姉様がどこでどうなろうと、もう、私には関係ない。
私はクリフォード殿下と結ばれてこの国の王妃となる。
まさかの守護の力を手にしたせいで、皆、私を敬ってくれるのですごく幸せ!
(ずっとずっとずっとこうなりたかったんだもの~)
目障りなだけのお姉様が消えてくれて、これからは自分の時代がやって来る!
そう信じていた私は、お姉様が出ていってから数時間後にポツポツ降り出した雨がだんだん嵐のように強くなっていても全く気にも止めなかった。
❋❋❋
「よーし、無事に王都からは出られたようね……!」
家を出た私は馬車を乗り継ぎながら、とりあえず隣国を目指すことにした。
そして、ひとまず無事に王都から出られたことに安堵する。
実は追放だ! とか言っておきながら、秘密裏に始末されるのでは……?
なんて少しだけ危惧していたから。
もし、そうなると使い慣れていない攻撃魔法を駆使しないといけなかったから……本当に良かったと思う。
「私のことを無能だの出来損ないだのと言っていたから、始末する必要は無いと思われたのかもしれないわね……」
そう考えると複雑ではあるけれど、そう思い込んでくれていて良かったのかもと思った。
そして、空を見上げる。
「……かなり、どんよりしているけれど、天気もギリギリもってくれているようで良かったわ。万が一嵐とかになってしまっていたら、先に進むのは危なかったもの」
そんなことを思いながら、さて……と一息ついた私はこれからどうしようかを考える。
貴族令嬢ではなくなった私に宝石やドレスはもう必要ない。
隣国に着いたら即、換金してお金の足しにする。
収納魔法のおかげでかなり持ち出せたから、それなりのお金にはなるはずだ。
そのお金でしばらくは宿に止まりながら、早急に新しく住むところと仕事を探す──
けれど、それが一番の問題でもある。
「……勉強ばっかりしかして来なかった貴族令嬢の私に出来る仕事って何かしら?」
きっと何かあると信じたい。
「救いは言葉を理解出来ることよね……」
私が行こうとしている隣国は、ルウェルン国は隣同士であっても我が国とは言語や文字が違う。
だけど、私は言葉と文字に関しては子供の頃からずっと勉強してきたので、ルウェルン国に限らず周辺国なら困ることはない。
「私が王妃になることはもう無いけれど…………これまでの私が頑張ってきたことは決して無駄じゃなかった、ということよね……?」
これまで誰も褒めてくれる人なんていなかったけれど、私だけは自分を褒めてあげようと思った。
(そして……これからは、誰も私のことを知らない新しい場所で、今度こそ“幸せ”を見つけてみせるわ!)
そうして、私の隣国、ルウェルンまでの旅は順調に進んでいく。
だけど、国境を超えるときは少しだけ緊張した。
(───もう、この国には戻らない)
そんな決意を込めて私は生まれ育ったクロムウェル王国に別れを告げた。
隣国───ルウェルン国に無事に入国した私は、王都に向かうことにした。
地方よりはきっと仕事があるはずと考えたことと、国境付近の町をウロウロするのは何となく嫌だった。
────
そうして、入国してから約一週間。
なかなか仕事が見つからない私は息抜きを兼ねて、街の大きな図書館へと向かった。
(連日、職探しばかりで疲れちゃったから、少しくらいならいいわよね……?)
───ただただ息抜きをしたくて立ち寄ったこの場所で、私の運命が大きく変わる出会いがあることを、この時の私はまだ知らない。
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