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8. 無能はいらない
しおりを挟むその後、パーティーはクリフォード様とサヴァナの婚約が正式に発表され、会場は大盛り上がりを見せていた。
腕を組んで幸せそうに笑い合う二人を私は遠くから見つめる。
お父様とお母様も嬉しそうでその様子にまた胸がチクリと痛んだけれど、大丈夫、大丈夫……と自分に言い聞かせた。
ふと、外をみたら雨はかなり強くなっていて土砂降りになっていた。
そうして、パーティーが終わり屋敷に戻るために乗り込んだ馬車の中は、私にとって苦痛でしかなかった。
「──サヴァナったら婚約したばかりなのに、雨がすごいから今夜は王宮に泊まるわ。それにクリフォード殿下ともずっと一緒にいたいんだもん、ですって。誰に似たのかしら? ねぇ、あなた?」
「全く言い出したら聞かない子だな、サヴァナは」
お父様とお母様はサヴァナの行動を窘めつつも、仕方がないなぁで済ませている。
きっと、これが私だったら引きずってでも家に連れ帰ったでしょうに。
(未来の王妃になろうというのに婚約の段階でそんなことを口にするなんて、はしたない! 変な噂が立ったらどうするの? とかなんとか言って)
───なのに、どうしてサヴァナはなんでも許されるの?
私にはそれがどうしても分からない。
「それよりも、サヴァナの力よ! 素晴らしいわ! 守護よ、守護の力!」
はしゃぐお母様に対してお父様も大きく頷いた。
「ああ。力を受け継いで来た者なら誰もが憧れる力だ」
「そんな最強の力を持ったサヴァナはきっと殿下にも王家にも大事にされて、きっと幸せになれるわね」
「───ああ、そうだな。そこの出来損ないの無能とは違ってな」
お父様にジロリと睨まれて、私はビクッと身体を震わせる。
(───ついに来た!)
「……まさか、長子のくせに力が発揮出来ない無能が存在するとはな。前代未聞だ」
「あら、あなた。クリフォード殿下とサヴァナが言っていたじゃない、そこの無能は頑張っている振りをしていただけで実は裏で遊んでいたって。つまり私たちを騙していたんでしょう?」
「──違うわ! 私は本当にずっ…………っっ!」
二人の冷たい視線が私に向けられる。その目は反論するなんて生意気な。
そう言っていた。
「サヴァナがいなかったら、この無能のせいでローウェル伯爵家は信頼を失っていたかもしれんな」
「ええ、本当にね。だからマルヴィナ、あなたは可愛い妹に感謝することね」
「お父様……お母様……」
それっきり二人が私の方を見ることは無かった。
❋❋❋
「ふふ、今日もいってきま~す」
それから、サヴァナは毎日のように王宮へと通うようになった。
私はてっきりサヴァナはお妃教育を受けているのだとばかり思って少しだけ同情していた。
なぜなら、マナーはもちろん、王妃になるなら外交も重要。そうなると他国語の勉強だって……と覚えること勉強しなくてはいけないことはたくさんあるから。
『お妃教育はやること多くて大変じゃない? 大丈夫?』
毎日、毎日、今日も疲れたわ~と言って帰ってくるサヴァナについついそんな声をかけた。
なのに、サヴァナはあっけらかんとした顔で言った。
『お妃教育? クリフォード殿下はそういう難しいことはゆっくりで構わないって言ってくれているわ』
『え?』
『だって、私の授かった守護の力は、クリフォード殿下と愛し愛されることで大きな力を発揮するんですって! だから、今は殿下と仲良くすることの方が大事らしいの、ふふ』
サヴァナはそう言って意味深に笑う。けれど、私は疑問だった。
その話……本当かしら?
ただ勉強を怠けるための言い訳なんじゃないかしら?
(だって、国を守護するっていうのはもっと……)
───ズキンッ
『────いっ!』
『お姉様? どうかしたの~?』
突然、頭に鋭い痛みが走って思わず頭を押さえた。
『だ……大丈夫。なんでもないわ』
『そう? 変なお姉様~』
『……』
───ズキズキズキ……
(どうして、また頭痛が……?)
結局、この時は私の頭痛が酷すぎて話は打ち切るしかなかった。
(頭痛も気になるけど、それより今、私が最も気になっていることは……)
サヴァナが誕生日を迎えてから数日がたっても、お父様は私の今後について何も話してくれない。そのことがすごく気になっていた。
(……もうローウェル伯爵家を継ぐのは私しかいないはずなのに……どうして何も言わないの?)
てっきり、婿候補となる人をすぐにでもあてがわれて、強引に結婚させられるくらいのことは考えていたのに、不気味なくらい静かだった。
───そして、その疑問の答えは、ちょうどサヴァナの誕生日から約一ヶ月後に判明した。
その日、朝食を食べ終えた私は何故かお父様の執務室に呼ばれていた。
そして衝撃的な一言を告げられた。
「お、お父様……? もう一度お願い、します……」
「はぁ、一度では分からなかったのか? お前の今後が決まった────この家、いや、この国から出て行け」
───コノクニカラデテイケ?
どうして?
だって私はこのローウェル伯爵家を───……
「ん? ああ、その顔。マルヴィナ、もしかしてお前は自分がローウェル伯爵家を継ぐのだと思っていたのか?」
「だって! サヴァナが王家に嫁ぐと決まった今、……私、しかいません」
私がそう訴えるとお父様はお腹を抱えて笑いだした。
「ははは! 誰が無能で出来損ないのお前なんかにこの家を継がせるものか!」
「え……」
「この一ヶ月、王宮の魔術師や、王家とも話し合ってローウェル伯爵家の後継についてはじっくり話し合ってきたのだ」
「……」
「確かにお前は間違いなく我がローウェル家の娘だ。一族の特徴でもある、人より多い魔力量がそれを物語っている」
「……」
「だが、お前は長子なのに力を授かれなかった前代未聞の無能なんだぞ? そんな奴にこのローウェル伯爵家を託せるはずがないだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になった気がした。
唯一残っていた希望がガラガラと崩れていく音がする。
そして、同時に理解した。
(───もう、私の居場所なんてどこにもない)
「マルヴィナ、知っているか? サヴァナが力を授かった直後は、突然、天候が大きく変わったり、嵐が起きて、地域によっては災害が発生したりと、実は国の守護の力が発揮出来ていなかったのだ」
「……」
確かにこの一ヶ月……特に前半は天候が不順だった。今は落ち着いているけれど。
「実はな。サヴァナの力が不安定な理由──その原因はお前にあるのでは? そんな話になったのだ」
「っ! ……ど、どうして私、のせいなのですか?」
聞き返した私にお父様は冷たい目で私を見た。そしてため息を吐く。
「お前が散々嫌がらせをしてきたからだろう? 親にまで隠れてコソコソと」
「──!」
「そのことがサヴァナの精神的負担になっているのでは? そんな話になったというわけだ」
「……」
聞かなくても分かる。
それを強く進言したのはクリフォード様なのだろう。
私は自分の心の中に強い怒りの感情が湧き上がってくるのを感じていた。
「まぁ、サヴァナの力は最近はもう安定したと聞くが、ここはやはり、な。この先のことを考えて……」
「……」
「無能なお前など、いた所で害はあってもなんの役にも立たんからな!」
「……」
(いても役には立たない……だから、私はいらない)
「───お前をこの国から追放することは満場一致で可決された! 反対する者はゼロだった! さあ、荷物をまとめてさっさとこの家からもこの国からも出て行け!」
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