【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
6 / 66

6. 最強の力

しおりを挟む


 ズキズキズキズキ……
 とにかく頭が割れそうなほど痛む。

(どうしてこんな時に……?  それに全然治まってくれないわ)

「……」

 いっそのこと、このまま倒れてしまいたい。
 そうすれば目の前の光景ももう見なくて済むから──……
 そんな風にも思ったけれど、こんなにめでたい時に水を差した、とか、仮病を使って気を引こうとした……とか言われる予感しかなかったので、必死に耐えた。

 ズキンズキンズキン……

「そうだ。ところで、サヴァナ嬢の授かった特別な“力”とはなんなんだ?」
「あ、私も知りたいです~」

 クリフォード様が王宮魔術師に訊ねる。

「待っておれ。それについては水晶に文字が……」

 訊ねられた魔術師がそっと水晶を覗き込む。
 そして少し驚いた表情を見せて「ほぅ……これは!」と興奮した。

「なんて書いてあったんですか~?」

 王宮魔術師のその様子にサヴァナは不思議そうに首を傾げ、周囲も、これは余程いい力を授かったのだろうと騒がしくなる。
 そんな中でクリフォード様が代表して訊ねた。

「どうだったんだ?  力を授かったのが、ローウェル伯爵家の長子ではなかったということだけでなく、サヴァナ嬢の力はそんなにも珍しいものなのか?」
「……そうですのう」

 王宮魔術師はうんうんと大きく頷く。

「え~?  なんですか~??  もったいぶらないで教えてくださいよ~」

 ズキズキズキズキ……
 サヴァナのはしゃいだ声が聞こえる度に頭痛が酷くなる気がする。

(サヴァナの力……何かしら?)

「───ずばり!  サヴァナ嬢の力は、“守護”の力じゃ。この国をありとあらゆるものから護る力。最も強いと言われる……聖なる力じゃ!」
「え~~?  聖なる力?  嘘っ!」

 ズキンズキンズキン……

 守護の力───それは大なり小なり様々な力を授かる歴代のローウェル伯爵家の人間の中でも、これまでたった一人しか持たなかったと言われる力。
 そう……ローウェル伯爵家の始祖となる人物が持っていた最強の力……そう教わった。
 この力で国に多大な貢献をして伯爵家を賜ったとかなんとか……

「聖なる力の発現ですら珍しいことなのにのう……まさかそれも、始祖と同じ守護の力とは……」
「──サヴァナ嬢!」

 クリフォード様が大興奮でサヴァナの名前を呼んだ。周囲もサヴァナを讃える。

「サヴァナ様!  すごいです!」
「皆さん、ありがとう~~!  ふふ、どうしましょう?」

 サヴァナが皆に囲まれ嬉しそうに微笑んでいる。
 両親もこれまで私が見たことないほどの嬉しそうな顔で笑っていた。

(同じ聖なる力でも“癒しの力”は何代かおきに発現していて、それでも凄いことなのに。サヴァナはそれ以上の力を……)

「ああ、父上。これはもう急遽、お祝いのパーティーを開くべきかと思います」

 興奮したクリフォード様が父親の国王陛下に向かってそんな提案をする。

「……そうだな。今日は我が国にとって素晴らしい日となったのだからな!」
「守護の力の持ち主だなんて、この国の未来も安泰ね」

 国王陛下も王妃殿下も嬉しそうに頷くとあっさり許可を出した。

「え~!  パーティーを私のために?  クリフォード殿下、いいんですか~?  ありがとうございます!」
「当然だよ、サヴァナ嬢。だって君は最高の女性なんだ」
「ふふ、私、この国のために頑張りますね!」
「ああ、期待しているよ」

 親密そうな様子で互いに見つめ合う二人。
 ……ズキンッと私の胸が痛む。
 期待───クリフォード様のその言葉に昔を思い出した。

 ───父上も母上もローウェル家の令嬢を迎えられることをとにかく楽しみにしているんだ。もちろん僕も……ね。マルヴィナ、僕らの未来のために頑張ってくれるよね?

 ……はい、クリフォード様。私、あなたの期待に応えられるように頑張ります。

 いつだったか私はそう答えた。

(……どうして?  どうして私じゃないの?  何が足りなかったの?)

 授かる力は、聖なる力なんてそんな凄いものでなくても良かった。
 それでもあの場に居るのは私でありたかった……

(───ああ、でも、もしかしたら嫉妬してこんな醜いことを考えてしまうから、私には力が授かる資格がなかったのかな……)

 冷静に考えればそんなことは有り得ない話のはずなのに、この時の私は、クリフォード様に言われた“醜い心の持ち主”という言葉が頭から離れてくれなかった。


────


(……もう、帰りたい)

 もう、誰も私のことなんて見ていないし、気にもしていない。
 こっそりこの場から居なくなっても構わないのでは?
 そう思い抜け出そうとした時だった。

「……あ!  お・ね・え・さ・ま~!」
「……っ!」

 サヴァナが元気いっぱいに私のことを呼んでしまった。
 そのせいで、私は再び注目を集めてしまう。
 サヴァナは可愛い笑顔で私の元に駆け寄って来てこう言った。

「お姉様、ごめんなさいね?  どうやら真の力の持ち主は私だったみたいなの!」
「……そ、そう、ね」
「聞いた?  それも、守護の力なんですって!  最強の聖なる力よ!  私、すごくないかしら?」
「……す、すごい、わね」
「ふふ、これはクリフォード様の言うように、時代は変わっているのかもしれないわね!」

 私が震える声でどうにか答えていると、サヴァナは不思議そうに言った。

「も~う、お姉様ったらどうしたの~?  あ、もしかして私のこと……祝福してくれないの?」
「!」

 サヴァナのその一言で、一斉に皆から私に冷たい目が向けられる。

 ───嫉妬してるのでは?
 ───自分が無能だったからって……
 ───妹を祝ってやれないなんて冷たい姉だなぁー……

「───ああ、待って!   皆、お姉様のことをそんな風に言わないであげて?」
「サヴァ……ナ?」
「そうよね、お姉様ごめんなさい、お姉様がショックを受けるのは当然よね?  だって、お姉様は十八歳になってからずっとずっとずっと無駄なことをして来ていたんだと分かったところなんだものね……」
「無駄……?」

 私が眉をひそめるとサヴァナは悲しげに目を伏せながら言った。

「ええ。毎日、毎日、王宮に通っては光もしない水晶に必死になって手を触れていたんだもの……無駄でしょう?」
「……」
「だから、お姉様は可哀想な人なの!  だから、皆もそんな目で見ないであげて?  ね?」
「サヴァナ……」

 サヴァナのその発言に私はますます惨めな気持ちにさせられた。




 だけどこの時、最強の力の発現に浮かれた様子の人々も、そしてこの場でたった一人惨めな気持ちを味わっていた私も気付かなかった。
 誰もがが浮かれる中、水晶を覗き込んでいた王宮魔術師が、何故かずっとしかめっ面をしていたことを。

「うーむ……とてもとてもめでたいことなのだが……この“守護の力”と共に浮かび上がった、よく読み取れないもう一つの文字はなんなのだろうか……」

 と、呟いていたことを────……
しおりを挟む
感想 417

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

姉妹の中で私だけが平凡で、親から好かれていませんでした

四季
恋愛
四姉妹の上から二番目として生まれたアルノレアは、平凡で、親から好かれていなくて……。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...