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6. 最強の力

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 ズキズキズキズキ……
 とにかく頭が割れそうなほど痛む。

(どうしてこんな時に……?  それに全然治まってくれないわ)

「……」

 いっそのこと、このまま倒れてしまいたい。
 そうすれば目の前の光景ももう見なくて済むから──……
 そんな風にも思ったけれど、こんなにめでたい時に水を差した、とか、仮病を使って気を引こうとした……とか言われる予感しかなかったので、必死に耐えた。

 ズキンズキンズキン……

「そうだ。ところで、サヴァナ嬢の授かった特別な“力”とはなんなんだ?」
「あ、私も知りたいです~」

 クリフォード様が王宮魔術師に訊ねる。

「待っておれ。それについては水晶に文字が……」

 訊ねられた魔術師がそっと水晶を覗き込む。
 そして少し驚いた表情を見せて「ほぅ……これは!」と興奮した。

「なんて書いてあったんですか~?」

 王宮魔術師のその様子にサヴァナは不思議そうに首を傾げ、周囲も、これは余程いい力を授かったのだろうと騒がしくなる。
 そんな中でクリフォード様が代表して訊ねた。

「どうだったんだ?  力を授かったのが、ローウェル伯爵家の長子ではなかったということだけでなく、サヴァナ嬢の力はそんなにも珍しいものなのか?」
「……そうですのう」

 王宮魔術師はうんうんと大きく頷く。

「え~?  なんですか~??  もったいぶらないで教えてくださいよ~」

 ズキズキズキズキ……
 サヴァナのはしゃいだ声が聞こえる度に頭痛が酷くなる気がする。

(サヴァナの力……何かしら?)

「───ずばり!  サヴァナ嬢の力は、“守護”の力じゃ。この国をありとあらゆるものから護る力。最も強いと言われる……聖なる力じゃ!」
「え~~?  聖なる力?  嘘っ!」

 ズキンズキンズキン……

 守護の力───それは大なり小なり様々な力を授かる歴代のローウェル伯爵家の人間の中でも、これまでたった一人しか持たなかったと言われる力。
 そう……ローウェル伯爵家の始祖となる人物が持っていた最強の力……そう教わった。
 この力で国に多大な貢献をして伯爵家を賜ったとかなんとか……

「聖なる力の発現ですら珍しいことなのにのう……まさかそれも、始祖と同じ守護の力とは……」
「──サヴァナ嬢!」

 クリフォード様が大興奮でサヴァナの名前を呼んだ。周囲もサヴァナを讃える。

「サヴァナ様!  すごいです!」
「皆さん、ありがとう~~!  ふふ、どうしましょう?」

 サヴァナが皆に囲まれ嬉しそうに微笑んでいる。
 両親もこれまで私が見たことないほどの嬉しそうな顔で笑っていた。

(同じ聖なる力でも“癒しの力”は何代かおきに発現していて、それでも凄いことなのに。サヴァナはそれ以上の力を……)

「ああ、父上。これはもう急遽、お祝いのパーティーを開くべきかと思います」

 興奮したクリフォード様が父親の国王陛下に向かってそんな提案をする。

「……そうだな。今日は我が国にとって素晴らしい日となったのだからな!」
「守護の力の持ち主だなんて、この国の未来も安泰ね」

 国王陛下も王妃殿下も嬉しそうに頷くとあっさり許可を出した。

「え~!  パーティーを私のために?  クリフォード殿下、いいんですか~?  ありがとうございます!」
「当然だよ、サヴァナ嬢。だって君は最高の女性なんだ」
「ふふ、私、この国のために頑張りますね!」
「ああ、期待しているよ」

 親密そうな様子で互いに見つめ合う二人。
 ……ズキンッと私の胸が痛む。
 期待───クリフォード様のその言葉に昔を思い出した。

 ───父上も母上もローウェル家の令嬢を迎えられることをとにかく楽しみにしているんだ。もちろん僕も……ね。マルヴィナ、僕らの未来のために頑張ってくれるよね?

 ……はい、クリフォード様。私、あなたの期待に応えられるように頑張ります。

 いつだったか私はそう答えた。

(……どうして?  どうして私じゃないの?  何が足りなかったの?)

 授かる力は、聖なる力なんてそんな凄いものでなくても良かった。
 それでもあの場に居るのは私でありたかった……

(───ああ、でも、もしかしたら嫉妬してこんな醜いことを考えてしまうから、私には力が授かる資格がなかったのかな……)

 冷静に考えればそんなことは有り得ない話のはずなのに、この時の私は、クリフォード様に言われた“醜い心の持ち主”という言葉が頭から離れてくれなかった。


────


(……もう、帰りたい)

 もう、誰も私のことなんて見ていないし、気にもしていない。
 こっそりこの場から居なくなっても構わないのでは?
 そう思い抜け出そうとした時だった。

「……あ!  お・ね・え・さ・ま~!」
「……っ!」

 サヴァナが元気いっぱいに私のことを呼んでしまった。
 そのせいで、私は再び注目を集めてしまう。
 サヴァナは可愛い笑顔で私の元に駆け寄って来てこう言った。

「お姉様、ごめんなさいね?  どうやら真の力の持ち主は私だったみたいなの!」
「……そ、そう、ね」
「聞いた?  それも、守護の力なんですって!  最強の聖なる力よ!  私、すごくないかしら?」
「……す、すごい、わね」
「ふふ、これはクリフォード様の言うように、時代は変わっているのかもしれないわね!」

 私が震える声でどうにか答えていると、サヴァナは不思議そうに言った。

「も~う、お姉様ったらどうしたの~?  あ、もしかして私のこと……祝福してくれないの?」
「!」

 サヴァナのその一言で、一斉に皆から私に冷たい目が向けられる。

 ───嫉妬してるのでは?
 ───自分が無能だったからって……
 ───妹を祝ってやれないなんて冷たい姉だなぁー……

「───ああ、待って!   皆、お姉様のことをそんな風に言わないであげて?」
「サヴァ……ナ?」
「そうよね、お姉様ごめんなさい、お姉様がショックを受けるのは当然よね?  だって、お姉様は十八歳になってからずっとずっとずっと無駄なことをして来ていたんだと分かったところなんだものね……」
「無駄……?」

 私が眉をひそめるとサヴァナは悲しげに目を伏せながら言った。

「ええ。毎日、毎日、王宮に通っては光もしない水晶に必死になって手を触れていたんだもの……無駄でしょう?」
「……」
「だから、お姉様は可哀想な人なの!  だから、皆もそんな目で見ないであげて?  ね?」
「サヴァナ……」

 サヴァナのその発言に私はますます惨めな気持ちにさせられた。




 だけどこの時、最強の力の発現に浮かれた様子の人々も、そしてこの場でたった一人惨めな気持ちを味わっていた私も気付かなかった。
 誰もがが浮かれる中、水晶を覗き込んでいた王宮魔術師が、何故かずっとしかめっ面をしていたことを。

「うーむ……とてもとてもめでたいことなのだが……この“守護の力”と共に浮かび上がった、よく読み取れないもう一つの文字はなんなのだろうか……」

 と、呟いていたことを────……
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