5 / 66
5. 砕けた恋心と輝く水晶
しおりを挟む(サヴァナが欲しかったものって、え?)
私が動揺していると、サヴァナはそこまで言ったあと、今度は急に悲しそうな表情になり、目を伏せる。
そして、目元に涙を浮かべながら言った。
「私、お姉様がずっとずっと羨ましかったわ……」
「え?」
「将来が約束されていて……クリフォード殿下みたいな素敵な方の元に嫁げることも決まっていて」
「サヴァ……」
「だって! 私は、ローウェル家の為にどんな人と結婚させられるか分からないのに! お姉様ばかりずるいわーーーー!」
サヴァナはそこで、両手で顔を覆ってワッと泣き出した。
「サヴァナ嬢!」
「ひっく……クリフォード殿下ぁ……」
泣き出したサヴァナをクリフォード様が優しく抱きしめて慰め始めた。
私はその光景を唖然として見つめる。
(いったい私は何を見せられているの?)
同時に庭園で見た光景も思い出してしまい、私の胸がズキズキと痛む。
そんなサヴァナはクリフォード様に抱きしめてもらい落ち着いたのか、涙を拭って顔を上げると潤んだ瞳のままじっと私を見つめる。
「あのね? お姉様がどんなに私に辛く当たっても……傍若無人な振る舞いをしていても、私にとっては大好きなお姉様に変わりはないわ……でも、ちょっとだけ思ってしまったの」
「……」
「お姉様のその場所が欲しいなぁ~って」
「!」
「長子ではなくても……もしかしたらって可能性もあると思わない? だってお姉様は未だに力が発揮されていないんだもの────ね?」
サヴァナがにこっとした笑顔でこてんと首を傾げて私にそう訊ねる。
「……」
私はギュッと拳に力を入れる。
長子ではないサヴァナ……が水晶に触れて確かめる……? 本気で言っているの?
戸惑う私にクリフォード様は淡々と言った。
「────そういうことだ。それに僕の仮説が当たっているかどうかも試したいからな…………どうだ? 可能か?」
仮説……つまり、それは私が心が醜くて酷い女だから力を授かる資格がなかった、ということを指している。
クリフォード様の最後の可能か? という言葉はこの場にいる王宮魔術師に向けられていた。
「……サヴァナ嬢もローウェル伯爵家の一員ではありますから……ですが──……」
王宮魔術師は、こんなことは前代未聞だ……と声を震わせて言った。
今までは力を引き継ぐと言われていた長子がきちんと力を発揮させていたから、他のきょうだいが試した例はありませんでした、などと言う。
「ふーん。やはり試していなかったんだな。これは、古い慣習に囚われすぎていたのではないか? もしかしたら、他に力を持っていた者もいたかもしれないよ」
クリフォード様が呆れたように言う。
そして私に視線を向ける。
「まぁ、これまでのローウェル伯爵家の代々の長子は力を引き継ぐのに相応しい者たちだったから不都合はなかったんだろう───マルヴィナ。君を除いて、ね」
「っ! クリフォード様! ですから、それは誤解で……サヴァナの勘違───っ……」
必死に弁解しようとする私を冷たく睨むクリフォード様。
その目にはもう、私を励ましてくれて、僕は君を信じる、大丈夫だ、一緒に頑張ろう! そう言ってくれていた時の優しさはどこにも無かった。
「この期に及んで、妹への謝罪ではなく自己弁護に走るのか! 本当にサヴァナ嬢が言った通り、本当の君はどこまでも自己中心的な性格だったようだな!」
「!」
この時、私はもうダメだと思った。
クリフォード様には何を言っても私の気持ちは届かないのだと。
そんな絶望している私にクリフォード様は、更なる追い討ちをかけるような言葉を口にした。
「───正式な婚約前で良かったよ。こんな最低な女を妻に……この国の将来の王妃にするなんて絶対に御免だ。国が傾く」
「なっ……」
───私の力ってなんだろう? この国や、クリフォード様の助けになれるような力だったらいいな。
あの日、抱いた思い……
───私の中で、これまで大事に育てて来た恋心が碎ける音がした。
その後、クリフォード様とサヴァナは、儀式は皆に見てもらった方がいいだろう。
そう言ってお父様やお母様、他の魔術師、そして、王宮で働いている人たちや……国王陛下夫妻、王女殿下までもをその場に呼び出した。
(もう、クリフォード様の中でサヴァナが力を引き継ぐことは決定事項なんだわ)
そう思わせる程の手際の良さだった。
「───急に集まってもらってすまない。今日はローウェル伯爵家の次女のサヴァナ嬢が十八歳の誕生日を迎えた───」
クリフォード様は皆の前で説明する間も、堂々とサヴァナの腰に手を回して抱き寄せる。
そんな二人の親密な様子と空気に、この場に集まった人達は大いに驚いていた。
そして、私には嘲笑いと憐れみの視線を向けてくる。
「えっと~? この水晶に手を触れるだけでいいんですかぁ?」
準備の整ったサヴァナが水晶の前に立つ。
目をキラキラさせていて初めて見るそれに興味津々の様子だ。
集まった人々も固唾を呑んでその様子を見守る。
「そうじゃ」
「魔術師さま、何か、お祈りとか誓いとかはいらないんですか~?」
「なくても大丈夫じゃ」
「ふ~ん……じゃ、いっきま~す!」
サヴァナは軽い口調で水晶に向かって手を伸ばす。
そして、サヴァナの手が水晶に触れるのとほぼ同時に───
─────ズキッ!
(……痛ッ!?)
突然、私の頭に鋭い痛みが走った。
そしてズキズキとした痛みが続く。
な、なんなの……?
そう思った瞬間、これまで何度私が触れてもうんともすんとも反応を示さなかった水晶がキラキラと輝き出した。
そして、辺りには金色の眩しい光が放たれる。
「おお! これじゃ……! この光じゃ!」
「きゃ~、キレイ~」
王宮魔術師は嬉しそうな声を上げ、サヴァナも綺麗だとはしゃいでいる。
(…………サヴァナ、が触れたら……輝い……た)
やがて、辺り一面を覆っていた眩しい金の光が鎮まると大歓声に包まれる。
クリフォード様はいの一番にサヴァナの元に駆け寄って抱きしめ、お父様とお母様も嬉しそうにサヴァナの元に駆け寄る。
───ついにローウェル伯爵家の力が発現したぞーーーー!
───真の力の持ち主は“妹”だった!
力を発現したサヴァナの元に、皆が駆け寄って祝福の言葉をかけていく。
皆に囲まれたサヴァナはとびっきりの可愛い笑顔で一人ひとりに応える。
「……」
それはまさにずっと私が小さな頃から焦がれて来た光景そのもの。
ズキンズキンズキン……
そして、もはや誰からも見向きもされず、その場にポツンと取り残された私の頭痛は、なぜだか酷くなる一方だった。
240
お気に入りに追加
8,031
あなたにおすすめの小説


悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる