【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
2 / 66

2. 可愛い妹

しおりを挟む

❋❋❋


「マルヴィナ!」
「クリフォード様……」

 魔力測定を終えて帰ろうとしていた私の元にこの国の王子様……クリフォード様が駆け寄って来た。

「今日も測定?」
「ええ……」
「結果は──……って、ごめん。その顔で分かるや」
「ごめんなさい」

 クリフォード様は気まずそうにそうに謝った。
 私も私で申し訳ない気持ちで顔を俯ける。

 ───十八歳の誕生日を迎えた私は、これまでのローウェル家の慣習に従って魔力測定の場に挑んだ。
 本来ならそこで水晶は金色に光り輝き、私が授かった“特別な力”がその場で判明するはずだった。
 でも、何故かは分からない。
 その場で水晶が光り輝くことはなく、私は特殊能力の有無さえも分からなくなった。
 両親も含めたあの場にいた人たちの失望した目が私は今でも忘れられない。

「僕は水晶が壊れているんじゃないか説を推すけどね」
「クリフォード様……」
「大丈夫さ、何か事情があって力の発現が遅れているだけだ」
「……ありがとうございます」

 多くの人たちが私に失望する中で、クリフォード様だけがいつもそう言ってくれる。
 だからこそ私は早く力を覚醒させて彼の力になりたい。そう思っていた。

「でも、さすがに困ったな。マルヴィナの力が覚醒しないことには僕らの婚約の話は進められない……」
「……はい」

 ますます落ち込む私。
 クリフォード様がそっと私の手を取って握りしめた。

「あ……」

 幼い時に“未来の伴侶”として引き合わされて以来、ずっと交流を深めてきた私たち。

 ───これはさ、強引に決められた関係だけど、僕自身はマルヴィナのことを大事に思っているんだ。

 そう告白されたのは、十八歳の誕生日の直前だった。とても嬉しかった。
 けれど、いくらずっと私が昔から妃候補だと言われていても、互いを思っていても私が力を発揮出来ないと正式な婚約者にはなれない。
 十八歳を迎えたらすぐに正式に婚約するはずだったのに、その計画も大幅に狂ってしまっていた。

「とりあえず、根気強く魔力の測定を続けるしかない」
「……はい」

 そうは言っても、もう十八歳の誕生日から一年が経とうとしている。

 最初の頃は、クリフォード様みたいに何か手違いがあっただけ、すぐに力は判明する。
 そう言ってくれていた人たちも、さすがにここまで何も起こらないとなると私を見る目はどんどん冷たくなっていく。

 ───ローウェル家、初の出来損ないじゃないか。
 ───無能だ!
 ───特殊能力なんて無いんだろう?

 段々とそう囁かれるようになっていた。

「……マルヴィナ」
「クリフォード様?」
「あのさ───」

 クリフォード様がそう何かを言いかけた時だった。

「あ、見つけた、お姉様~!  一緒に帰りましょ~~」
「え?  サヴァナ?」

 その声に振り返ると、私たちの元に妹のサヴァナが駆け寄って来る。

「あ、やだ。お姉様、殿下とお話中だったのね?  ごめんなさーい」

 てへっという声が聞こえそうな顔でサヴァナは無邪気に笑った。

「ははは、相変わらずサヴァナ嬢は元気がいいな」
「はい!  それが私の取り柄ですから」

 サヴァナは笑顔でそう言い切る。

「そうか。それで今日は妹のところに?」
「そうです!  王女様とお茶をしていました!」

 クリフォード様は、サヴァナの無作法を咎めることなく受け入れて楽しそうに笑っていた。
 昔からサヴァナは無邪気で物怖じしない性格なので、不思議と“誰からも愛される”そんな存在だ。
 そんな性格もあってかクリフォード様の妹にあたる王女殿下とも仲が良くて、よく王宮に入り浸っている。

「あら?  お姉様?  元気がないわー?  …………あ!  そっかまたダメだったのね?」
「……」
「もうすぐ一年たつわよね?  どうしてなのかしらね?」
「……」

 こうなっている理由は私にも分からないから、何も答えられない。

「あ、お姉様、それで顔がそんなに暗いのね?  でも安心して?  お父様とお母様はいつものように私が宥めておくから、ね?」
「宥めておく?」

 クリフォード様がどういうことだい?  とサヴァナに訊ねる。

「お父様とお母様は、お姉様が力を発揮出来ずに家に帰ると、すごーーーく機嫌が悪くなるので、宥めるのはいつも私の役目なんですよ~」
「あー……なるほど、ね」

 理由を聞いたクリフォード様が気まずそうな目でチラッと私を見る。
 一瞬だけ目が合ったけどすぐに逸らされた。

「それは……サヴァナ嬢も毎日大変だな」

 そう言って労うようにクリフォード様は、サヴァナの頭を撫でた。

「いいえ、大丈夫です!  こんなのお姉様の毎日の苦労に比べたらへっちゃらですよ~」
「ははは、そっか。サヴァナ嬢みたいないい子で可愛い妹がいてマルヴィナは幸せ者だな。安心したよ」
「え?  可愛くていい子だなんて~……そんな、もう殿下ったら……照れちゃいます……」

 クリフォード様のその言葉にサヴァナは嬉しそうに頬を染める。

「いや?  君はちゃんと姉思いのいい妹じゃないか。うちの妹とは大違い」
「ええ、そうですか?  王女様だって可愛らしい方ですよ~?」
「そうかな?」

 なんだか楽しそうに会話をする二人の間に割り込めず、私は曖昧に笑っていることしか出来なかった。


────


「ねぇ、お姉様。クリフォード殿下ってやっぱり素敵な方よね?」
「え?」

 帰りの馬車の中でサヴァナが私に向かってそう言った。

「話してて楽しいし、優しいし~あんな素敵な人の元に嫁げて未来は王妃様になるんでしょ?  お姉様が羨ましいわ~」
「サヴァナ……」
「私も長子で生まれたかったなぁ~、そうしたら、お姉様じゃなくて私が殿下の隣にいられたかもしれないのに、残念~」

 サヴァナはいつもの調子で話しているので、いまいち本気なのか冗談なのかが分かりにくい。
 私が反応に困っていたら、サヴァナはふふっと笑った。

「え?  やだ、お姉様ったら……もしかして本気にしちゃったの~?  もちろん冗談よ?  じ・ょ・う・だ・ん!」
「本当に冗談?」
「ふふ、そうよ~」

 さすがにサヴァナのその態度にはムッとしたので私も言い返す。

「サヴァナ。冗談でもそういうことを言われるのはいい気持ちがしないわ」
「え~?  ごめんなさーい。あ、お姉様、怒っちゃった?」
「当然でしょう?  ……あなたのそれ、全然、悪いと思っているように聞こえない」

 私がそう返すとサヴァナは肩を落としていた。

「ちぇっ………………あ、でも……」

 そして、すごく小さな声で何かを呟いていた。

「サヴァナ?  何か言った?」 
「ううん、何でもないわ~気にしないで、ね?  お姉様!」
「?」

 私が首を傾げても、サヴァナはただ意味深に笑うばかり。

「あ、お姉様。そういえば……もうすぐ私、でしょう?」
「え……?  あ、そうね」
「ふふ、私ね?  今年はすっごくすっごく欲しいものがあるの」
「サヴァナは、お父様とお母様に毎年山のようなプレゼントをねだっているじゃないの」

 それに、ローウェル伯爵家の跡継ぎの伴侶になりたいという男性からもたくさんアプローチを受けていると聞いている。
 だけど、サヴァナはまだ婚約者を決めるつもりがないようで、その中から誰か一人を選んだ様子は無いけれど。

「そうだけど、今年はやっぱり特別なのよ~」
「特別?」
「ふふ、そうよ。楽しみね?  お姉様」

 そう笑うサヴァナの微笑みは、やはりどこか意味深に思えた。

しおりを挟む
感想 417

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

処理中です...