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2. 可愛い妹
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「マルヴィナ!」
「クリフォード様……」
魔力測定を終えて帰ろうとしていた私の元にこの国の王子様……クリフォード様が駆け寄って来た。
「今日も測定?」
「ええ……」
「結果は──……って、ごめん。その顔で分かるや」
「ごめんなさい」
クリフォード様は気まずそうにそうに謝った。
私も私で申し訳ない気持ちで顔を俯ける。
───十八歳の誕生日を迎えた私は、これまでのローウェル家の慣習に従って魔力測定の場に挑んだ。
本来ならそこで水晶は金色に光り輝き、私が授かった“特別な力”がその場で判明するはずだった。
でも、何故かは分からない。
その場で水晶が光り輝くことはなく、私は特殊能力の有無さえも分からなくなった。
両親も含めたあの場にいた人たちの失望した目が私は今でも忘れられない。
「僕は水晶が壊れているんじゃないか説を推すけどね」
「クリフォード様……」
「大丈夫さ、何か事情があって力の発現が遅れているだけだ」
「……ありがとうございます」
多くの人たちが私に失望する中で、クリフォード様だけがいつもそう言ってくれる。
だからこそ私は早く力を覚醒させて彼の力になりたい。そう思っていた。
「でも、さすがに困ったな。マルヴィナの力が覚醒しないことには僕らの婚約の話は進められない……」
「……はい」
ますます落ち込む私。
クリフォード様がそっと私の手を取って握りしめた。
「あ……」
幼い時に“未来の伴侶”として引き合わされて以来、ずっと交流を深めてきた私たち。
───これはさ、強引に決められた関係だけど、僕自身はマルヴィナのことを大事に思っているんだ。
そう告白されたのは、十八歳の誕生日の直前だった。とても嬉しかった。
けれど、いくらずっと私が昔から妃候補だと言われていても、互いを思っていても私が力を発揮出来ないと正式な婚約者にはなれない。
十八歳を迎えたらすぐに正式に婚約するはずだったのに、その計画も大幅に狂ってしまっていた。
「とりあえず、根気強く魔力の測定を続けるしかない」
「……はい」
そうは言っても、もう十八歳の誕生日から一年が経とうとしている。
最初の頃は、クリフォード様みたいに何か手違いがあっただけ、すぐに力は判明する。
そう言ってくれていた人たちも、さすがにここまで何も起こらないとなると私を見る目はどんどん冷たくなっていく。
───ローウェル家、初の出来損ないじゃないか。
───無能だ!
───特殊能力なんて無いんだろう?
段々とそう囁かれるようになっていた。
「……マルヴィナ」
「クリフォード様?」
「あのさ───」
クリフォード様がそう何かを言いかけた時だった。
「あ、見つけた、お姉様~! 一緒に帰りましょ~~」
「え? サヴァナ?」
その声に振り返ると、私たちの元に妹のサヴァナが駆け寄って来る。
「あ、やだ。お姉様、殿下とお話中だったのね? ごめんなさーい」
てへっという声が聞こえそうな顔でサヴァナは無邪気に笑った。
「ははは、相変わらずサヴァナ嬢は元気がいいな」
「はい! それが私の取り柄ですから」
サヴァナは笑顔でそう言い切る。
「そうか。それで今日は妹のところに?」
「そうです! 王女様とお茶をしていました!」
クリフォード様は、サヴァナの無作法を咎めることなく受け入れて楽しそうに笑っていた。
昔からサヴァナは無邪気で物怖じしない性格なので、不思議と“誰からも愛される”そんな存在だ。
そんな性格もあってかクリフォード様の妹にあたる王女殿下とも仲が良くて、よく王宮に入り浸っている。
「あら? お姉様? 元気がないわー? …………あ! そっかまたダメだったのね?」
「……」
「もうすぐ一年たつわよね? どうしてなのかしらね?」
「……」
こうなっている理由は私にも分からないから、何も答えられない。
「あ、お姉様、それで顔がそんなに暗いのね? でも安心して? お父様とお母様はいつものように私が宥めておくから、ね?」
「宥めておく?」
クリフォード様がどういうことだい? とサヴァナに訊ねる。
「お父様とお母様は、お姉様が力を発揮出来ずに家に帰ると、すごーーーく機嫌が悪くなるので、宥めるのはいつも私の役目なんですよ~」
「あー……なるほど、ね」
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一瞬だけ目が合ったけどすぐに逸らされた。
「それは……サヴァナ嬢も毎日大変だな」
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「いいえ、大丈夫です! こんなのお姉様の毎日の苦労に比べたらへっちゃらですよ~」
「ははは、そっか。サヴァナ嬢みたいないい子で可愛い妹がいてマルヴィナは幸せ者だな。安心したよ」
「え? 可愛くていい子だなんて~……そんな、もう殿下ったら……照れちゃいます……」
クリフォード様のその言葉にサヴァナは嬉しそうに頬を染める。
「いや? 君はちゃんと姉思いのいい妹じゃないか。うちの妹とは大違い」
「ええ、そうですか? 王女様だって可愛らしい方ですよ~?」
「そうかな?」
なんだか楽しそうに会話をする二人の間に割り込めず、私は曖昧に笑っていることしか出来なかった。
────
「ねぇ、お姉様。クリフォード殿下ってやっぱり素敵な方よね?」
「え?」
帰りの馬車の中でサヴァナが私に向かってそう言った。
「話してて楽しいし、優しいし~あんな素敵な人の元に嫁げて未来は王妃様になるんでしょ? お姉様が羨ましいわ~」
「サヴァナ……」
「私も長子で生まれたかったなぁ~、そうしたら、お姉様じゃなくて私が殿下の隣にいられたかもしれないのに、残念~」
サヴァナはいつもの調子で話しているので、いまいち本気なのか冗談なのかが分かりにくい。
私が反応に困っていたら、サヴァナはふふっと笑った。
「え? やだ、お姉様ったら……もしかして本気にしちゃったの~? もちろん冗談よ? じ・ょ・う・だ・ん!」
「本当に冗談?」
「ふふ、そうよ~」
さすがにサヴァナのその態度にはムッとしたので私も言い返す。
「サヴァナ。冗談でもそういうことを言われるのはいい気持ちがしないわ」
「え~? ごめんなさーい。あ、お姉様、怒っちゃった?」
「当然でしょう? ……あなたのそれ、全然、悪いと思っているように聞こえない」
私がそう返すとサヴァナは肩を落としていた。
「ちぇっ………………あ、でも……」
そして、すごく小さな声で何かを呟いていた。
「サヴァナ? 何か言った?」
「ううん、何でもないわ~気にしないで、ね? お姉様!」
「?」
私が首を傾げても、サヴァナはただ意味深に笑うばかり。
「あ、お姉様。そういえば……もうすぐ私、十八歳の誕生日でしょう?」
「え……? あ、そうね」
「ふふ、私ね? 今年はすっごくすっごく欲しいものがあるの」
「サヴァナは、お父様とお母様に毎年山のようなプレゼントをねだっているじゃないの」
それに、ローウェル伯爵家の跡継ぎの伴侶になりたいという男性からもたくさんアプローチを受けていると聞いている。
だけど、サヴァナはまだ婚約者を決めるつもりがないようで、その中から誰か一人を選んだ様子は無いけれど。
「そうだけど、今年はやっぱり特別なのよ~」
「特別?」
「ふふ、そうよ。楽しみね? お姉様」
そう笑うサヴァナの微笑みは、やはりどこか意味深に思えた。
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