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1. 特殊な力を持つ家

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 ───マルヴィナ、お前は我がローウェル家の力……特殊能力を引き継ぐことになる長女だ。王家も将来はお前を王子の妃に迎えたいと考えているそうだ。だから、頑張るんだ!

 ……はい、頑張ります!  お父様。

 ───は?  男爵令嬢のお茶会に誘われた?  あなたは未来の王妃になる人間なのよ?  そんな毒にも薬にもならない身分の令嬢と付き合うくらいなら、将来王妃になるための勉強を頑張りなさい!

 ……は、はい、お母様……お断りして勉強を頑張ります……

 ───父上も母上もローウェル家の令嬢を迎えられることをとにかく楽しみにしているんだ。もちろん僕も……ね。マルヴィナ、僕らの未来のために頑張ってくれるよね?

 ……はい、クリフォード様。私、あなたの期待に応えられるように頑張ります。


 ─────頑張れ、頑張れ、頑張れ……

 みんな昔から私にそう言い続けてきた。
 だから、私は言われた通りに頑張ることにした。
 だって言われた通りに“頑張れ”ば、皆、私を愛してくれる。


 そう信じていたから。



❋❋❋


「────うーん、今日も反応がないのう」
「……そうです、ね」

 魔力の測定が出来る水晶に手を触れていた私に、年老いた王宮魔術師が今日も残念そうに言った。

「……ローウェル家の力を受け継ぐ長子は代々、十八歳を迎えてからこの水晶に触れるとそれはそれは眩しいくらいの金色の光を放ち、そこで授かっていた特殊能力が判明すると言うのに……はぁ、これはこれはどうしたものか」
「……すみません」
「マルヴィナ様、あなたのお父上の時はきちんと光り輝いておったのに……なぜ───」
「……」

 なぜ。その続きはもう聞き飽きた。
 十八歳の誕生日を迎えてからずっとずっと毎日のように言われて来たから。

 ───なぜ、マルヴィナ様。あなたが触っても水晶は光らないのですか?

(そんなの……私の方が知りたいわよ)



 クロムウェル王国。
 この国の中で、我がローウェル伯爵家は、伯爵という身分ながら特別な地位にいる。
 というのも、ローウェル伯爵家の者は、他者とは桁違いの魔力の量を持ち、中でも伯爵を継いだ者から生まれる長子は男女関係なく強力な力を持ち、さらには特殊能力まで発現する家系だからだ。

 そして、今代。
 ローウェル伯爵家の長女として生まれた私、マルヴィナ。
 長子として生まれた私は、これらのことからずっとずっと皆の期待を背負って生きて来た。

 また、近い年頃に王子がいた私は、当然のようにその王子の妃候補にもなった。伯爵家の長子が女性の場合は年頃さえあえば、王子と縁組──このパターンが多いのだという。
 そうなると、私には未来の王妃としての勉強も必要になってくる。
 だからこそ、両親は子供の頃から私には常に厳しく接した。 

 “これが、ローウェル伯爵家の長女として生まれた者の宿命なんだ。我慢しなさい”
 そう言って。


 ───いつだったか。

『──おとうさま、おかあさま、サヴァナね、新しいドレスと宝石がほしいの』
『サヴァナ?  そんなの買わなくてもすでに沢山あるだろう?』
『えー、あれはダメ。もっと、わたしを引き立てるような、わたしの好みのものがほしいの。ダメ?』

 まだ子供だった頃、一つ下の妹のサヴァナが両親にそう可愛くねだっていた。
 初めは渋っていた二人だったけど、最後は折れて“しょうがないなぁ”と言って色々買い与えていた。

『わーい、ありがとう!  おとうさま、おかあさま!』

 サヴァナはとても無邪気に喜んでいた。

『おねえさま、みてみて!  いっぱい買ってもらったのよーー』

 新しいドレスを着て可愛い髪留めをつけてキラキラした宝石を身につけて笑う妹。
 その姿を見た時、私の胸がチクっと痛んだ。

(……いいなぁ)

 私が同じように頼んでも、お父様とお母様は“今は必要ない”と言って聞いてくれたことがない。
 私はその不満をちょっとだけぶつけてみた。
 だけど……
『お前は、私たちが買い与えたものだけでは不満なのか!』
 そう怒られた。
 どうして?  どうして私はダメでサヴァナは許されるの?
 更にそう聞いた私にお父様は言った。

『王家に嫁ぐことが決まっているマルヴィナと違って、サヴァナはローウェル伯爵家を継ぐ為に婿を取らないといけないからな。たくさん着飾って外見は可愛い方がいいだろう?』
『そうよ!  社交にも力を入れてローウェル家の次代のために相応しい婿を迎え入れなくちゃいけないのよ。いい人を探すのは大変なんだから!  少しくらいの可愛い我儘くるいなら聞いてあげなくちゃ』

 確かにサヴァナはローウェル伯爵家を継がなくちゃいけない。
 ……でも、王家に嫁ぐ私は大変じゃないの?
 朝から晩まで勉強、マナー、勉強、マナー……その繰り返しばっかりだよ?

 そう聞きたかったけど、この時はなんとなく私が欲しい答えを貰える気がしなかったので黙り込ことしか出来なかった。

『いいか?  新しいドレスや宝石が欲しいなどとくだらないことを言っていないで、マルヴィナはマルヴィナのやるべきことをやりなさい』
『そうよ、どうせ王妃になればドレスも宝石もたくさん、手に出来るでしょう?』
『おかあさま!  そういうことではなくて、私は今──』

 私の反論はあっさり潰される。

『うるさいわね。とにかく、十八歳の誕生日が楽しみね、あなた!』
『ああ、そうだな。いいか?  頑張れよ、マルヴィナ』
『……』

 いっぱい“頑張れ”ば、いつか私にもサヴァナに向けるような笑顔を見せてくれるかな?
 十八歳になって、私だけの特別な力が発揮されれば……二人は喜んでくれる?

 そう思った私は、ますます頑張ろうと決めた。



 ───しかし。

 ようやく迎えた私の十八歳の誕生日。
 理由は知らない。
 だけど、私にその“特別な力”が発揮されることは…………なかった。
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