上 下
9 / 37

9. ピンク色の髪をした令嬢は

しおりを挟む


「大丈夫か?」

  ルフェルウス様がぶつかってしまった彼女に手を差し出す。

「は、はい……私ったらつい焦って慌てちゃって」
「いや、こちらこそ申し訳ない」

  ルフェルウス様とぶつかってしまったその令嬢は声も可愛かったけれど、顔立ちも凄く可愛いらしい人で、フワフワのピンク色の髪はとても彼女に似合っていた。

  (どちらかと言うと冷たく見られがちな私とはまるで真逆……)

  向かい合って会話をしている、ルフェルウス様と彼女がとてもお似合いに見えてしまって私の胸の奥がチクリとした。

「慌てていた?」
「はい……情けない事に入学式の会場の場所がよく分からなくて迷子になってしまいました!」

  えへへ、と笑う彼女はどうやら物怖じしない性格に思えた。
  いや、その笑い方は……どうなのかしら?

「入学式の開始まではまだ時間はあるが?」
「ですよね!  つい焦っちゃいましたぁ!」

  ピンクの令嬢は可愛らしい笑顔を見せながらそう言った。

  (変な言い方だけれど、喋り方も雰囲気もあまり貴族令嬢らしくない気がするわ)

  ルフェルウス様の事も分かっていなさそうな様子だし……どこの令嬢なのかしら?
  こんな珍しい髪色ならある程度有名になりそうなものなのに……特に話題に上った事は無い。

  何とも不思議な令嬢ヒト
  そんな気持ちを抱いた。

「迷子……そうか。なら、会場までは私の付き添いに案内させよう」
「え?  付き添い?」

  ピンクの令嬢が驚いている。
  学園の中でまで付き添いがいる人なんて限られているものね。

「そうだ。私の付き添いだ。マース、いるか?」
「は!」

  側に控えていたルフェルウス様の側近の一人、マース様が進み出てきた。

「申し訳ないが、こちらの令嬢を入学式の会場まで案内してやってくれ。学園内の事はお前が一番詳しいだろう?」
「承知しました」

  マース様はこの学園の卒業生なので、確かに詳しいはずだわと納得する。 
  ところが……

「えぇ?  私と一緒に会場に行ってくれないのですか??」
 
  ピンクの令嬢はルフェルウス様の制服の裾をちょいちょいと掴み、上目遣いでルフェルウス様を見つめながらそんな事を言った。

「私がか?」
「はい!  そうですよ」

  ルフェルウス様は砕けた口調で話しかけられても不敬だ!  なんて怒り出したり咎めたりする事はしないけれど、彼女の口調はさすがにそれはどうなの?  ……と言いたくなる。

  (何だか見ているこっちがハラハラする……)

「申し訳ないけど、私には用事があるんだ」
「えぇ?  そうなんですかぁ……ざーんねん」
「その代わりと言ってはなんだが、マースがしっかり案内してくれるからそこは安心してくれ」
「……」

  ピンクの令嬢はチラッとマース様を見た。
  そして、すぐに満面の笑みを浮かべると明るい声で言った。

「えっと、マース……さん?  それではよろしくお願いしますねっ!」

  そして、突然マース様の腕にギュッと抱き着いた。
  ピンクの令嬢の大胆とも言えるその行動にマース様がたじろぐ。

「!?  あ、あの……」
「どうかしましたか??」
「い、いえ……」
「そうですか?  それでは、マースさん。よろしくお願いしまーす」
「は、はぁ……ではこっちです……」

  そう言ってピンクの令嬢とマース様は入学式の会場に向かって行った。



  二人の姿が見えなくなった所で私はふぅ、と息を吐く。

「……」
 
  何だか印象が凄すぎて言葉が出ないわ。

「リスティ?  どうした?」
「いえ、少し変わった方でしたわ、と思いまして」

  私の言葉にルフェルウス様もしばし考え込む。

「確かに……な。あの様子から私が誰かも分かっていなかった気がする」
「ですよね」

  ルフェルウス様自身、これまでの間それほど人前に多く出て来たわけではない。
  だから、顔が分からないと言うのは、よくある話。
  私だってあの日のお茶会が初対面だったし、ミュゼット様があんな風になったのも、ルフェルウス様を間近で見た事による動揺と一応本人も言っていた。

  (でも、何となく雰囲気で察するものと思うけれど……)

  ルフェルウス様は全身で王子様な雰囲気を出していて、隠す事が出来ていない。
  そんな彼も二人が去っていった方向を見ながら小さく呟いた。

「なんと言うか……あぁいう令嬢……なんてのもいるものなんだな」
「……!」

  ルフェルウス様からすれば、それは何気ない一言だったのかもしれない。
  だけど……何故かしら?

  その時、私の胸の中で何かがざわめいた気がした。




*****


「入学式、無事に終わって良かったですね」
「あぁ」

  無事に入学式も終わり、私達は教室へと向かう。
  特に問題なども起きずに終わったはずなのに、何故かルフェルウスの機嫌がどこか悪い。

「ルフェルウス様、どうかしました?」
「……」

  (機嫌が悪いと言うより……どこか拗ねている?)

「何で…………だ」
「?」

  よく聞こえなかったわ。

「ルフェルウス様?  今なん……」
「どうして、リスティとクラスが違うんだ!!」
「はい?」

  思ってもみなかった言葉にびっくりしてしまった。

「てっきりリスティと机を並べて勉強出来ると……ばかり……」
「えっと……」

  困ったわ。何て言葉を返したらいいのか……
  私と勉強したかったのですか?  ……何かが違う気がする。

「が、学園側も色々考えているんですよ!」
「……」
「でも、ほら!  高位貴族ばかりで固まってしまうのも良くないですし。交流は多い方がいいですよ、ね?」

  何故、私は子供に言い聞かすような事を言っているのかしら?
  と思いながらも、私はルフェルウス様を宥めた。

「……リスティは」
「はい?」
「さみしくない……のか?  私と離れて」
「え?」

  さみしい?  ルフェルウス様とクラスが違ってしまって?

「そうですね。さみしく……はありますけど、新しい出会いの方が楽しみではありますね!」

  (だって私、友達と呼べるほど仲の良い令嬢がいないんだもの)

  と、思った私は、そんな素直な気持ちを口にしたのだけど、

「…………」
「え?  ルフェルウス様??」

  何故かルフェルウス様の顔色はどんどん悪くなっていった。


  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。

なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。 7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。  溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!

処理中です...