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29. この先の未来を
しおりを挟む(再び、ジュディスとして生きる事は正直考えていなかったわ)
お兄様が残した言葉の意味は、私が“ジュディス”を選びたかったら、実は王女は生きていた……と公表する事も出来る。
そう言ってくれていたのだと分かる。
もともと、生存説の噂は流れていたので世間もやっぱりそうだったのか……と案外、簡単に納得するかもしれない。
特にドゥルモンテ国の人々は喜んでくれる気がする。
(でも……)
───ジュディスでもユディットでも私の可愛い妹である事には変わりない。
(お兄様、私はこの言葉だけで充分です!)
───
「バーナード」
「うん? どうかした?」
私の決めた事を早く伝えたくて、王宮に……バーナード様の元に向かった。
「ヘクトール陛下たちをちゃんと見送り出来た?」
「ええ! ありがとう」
淹れてもらったお茶を飲みながら私が微笑むとバーナード様も微笑んだ。
次に会えるのはいつになるかしら……一国の王様だもの。そうフラフラやってくるわけにはいかない。
なら、私が会いに行けばいいのだろうけれど──
(……私がドゥルモンテ国に足を踏み入れるのは、まだ怖い……)
「僕たちの結婚式に呼んだらきっと飛んでくるんじゃないかな?」
「けっ……」
結婚式……!
思わずお茶を吹き出しそうになった。
その言葉の破壊力に顔が赤くなる。
(バーナード様と結婚……)
「すぐしようと思えば、そんなに時間かからずに出来るよ?」
「え?」
そんなに早く可能なの? と不思議に思った。
バーナード様は軽く微笑むと私の心を読んだかのように言った。
「もともと、“ジュディス”との結婚準備は進められていたからね」
「あ……」
確かにそうだった!
でも、それはジュディスの場合であって───と言いかけた所で、バーナード様が優しく笑った。
「……でも、君は決めたんだろう? いや、最初から決まっていた。だよね? ───ユディット」
「!」
私がビクッと身体を震わすと、向かい側に座っていたバーナード様が立ち上がり、私の隣に移ってそっと腰を下ろす。
そして、そのままギュッと私を抱きしめた。
「バーナード……」
「ジュディスではなく、“ユディット”として生きる事をハッキリ決めたんだろう?」
「……」
なんでバーナード様には分かるの?
私は何も言っていないのに……
「……なんで分かるの? とか思ってるでしょ?」
「っ!」
「僕には分かるよ。だって、君は優しいから」
そう言ってバーナード様は少し身体を離し、額をコツンとぶつけてくる。
「もしも“ジュディス”を選んで、正体を公表したらユディット・ノーマンド公爵令嬢は消えてしまう。そう思ったんだろう?」
「……ユディは、自分の胸に思い出として残っている、消えない……そう言ったけれど」
でも、それはやっぱり悲しい。
ユディが一生懸命生きてきた証を消してしまいたくない。
(ユディット・ノーマンド公爵令嬢は居なかった。ジュディス王女の為に作った架空の人物だと言われかねない。そんなのは絶対に嫌!)
「そこで、自分が消える事を選んでしまうんだからなぁ……」
「“ジュディス”はもう死んだと思われている人間ですから……」
「それでも……だ!」
バーナード様がもう一度、コツンッと額をぶつけてくる。
「……そんなにぶつけられたら赤くなってしまいます……」
「その時はキスで治してあげよう!」
「……っっ! もう! 意地悪!」
私が顔を赤くして文句を言うとバーナード様は楽しそうに笑った。
「……ユディットでもジュディスでも僕は構わない。でも、愛してるのは一人だけだ」
「ん……」
そんな言葉と共にバーナード様の優しいキスが唇に降ってくる。
そこは額じゃないでしょう!? と言いたかったけれど幸せなので言わないことにした。
❋❋❋❋
それから、二年後───
ようやく私とバーナード様の結婚式が執り行われる事になった。
互いに愛を誓い合い、婚姻誓約書に互いのサインを───
「……あ!」
「どうしたの? ユディット?」
サインをする直前に私が一瞬、躊躇ったのでバーナード様が不思議そうな顔をする。
「……いえ、何でもないわ」
「そう?」
「そうよ……」
私は静かに微笑む。
そして、過去のある日を思い出す。
───ねぇ、ユディット? 知ってる? 私達の名前って面白いのよ?
───そうなのよ! あのね? 私達って“同じ”なのよ! 偶然にしては凄いと思わない?
───ね? “同じ”でしょ?
……そうだったわ、ユディ。
この話をしたのはジュディスだったわね……
───“Judith”
ジュディスとユディットの綴りは同じ……
(大丈夫、“ジュディス”もちゃんとここにいる。居なくなってなんかいないわ)
「ユディット?」
「バーナード……愛してるわ」
「え!? うわっ!」
サインを終えて、涙が溢れそうになってしまいそれを懸命に堪えていた私は、そう言って自分からバーナード様に抱きついた。
もちろん、バーナード様はしっかり受け止めてくれる。
「……本当に僕のお姫様は…………とびっきり可愛くてお転婆だ」
「え? 何か言った?」
バーナード様が小さな声で何かを呟いたけれど、よく聞こえなかったので聞き返した。
でも、バーナード様は小さく笑ってこう言うだけ。
「……僕も、愛してるよ」
「もう! また、それ!」
「本当の事だからね」
そう言って、バーナード様の顔が近付いてくる。
私はそっと、目を瞑ってその優しいキスが降ってくるのを待った。
───
こうして、かつて影で悲劇の王子と囁かれた事もあるモンテルラン王国の王太子、バーナードの結婚式は、愛に溢れた幸せいっぱいの結婚式となり、花嫁にデレデレで幸せそうな王子の姿を見て皆、ホッと胸を撫で下ろしたという。
また、悲劇の王女の代わりに選ばれた自国の花嫁は、式の間に花嫁の方から急に抱きついたので、未来のモンテルラン王国の王妃は積極的だなぁ、なんて噂される事になった───
───
「───だから、未来のモンテルラン王国は明るいね、だってさ」
「~~~!」
馬車の中でバーナード様がそんな話をしてくれる。
結婚式から三日後、ようやく本日、外の世界に出てこれた私に世間で広まっている話だよ、と教えてくれた。
「恥ずかしい……」
「未来は明るい! なんだから、いいと思うけどなぁ」
「もう!」
(でも、ユディットが皆に受け入れてもらえたなら良かった……)
「……それより、本当に大丈夫?」
「ええ!」
私はバーナード様の目を見てしっかり頷く。
私たちは今日これから、ドゥルモンテ国に向かう。名目は新婚旅行として。
でも、本当の目的は───
(ジュディスのお父様とお母様のお墓参り……)
この二年間、色々と克服したつもりでも、ずっと国境を越える事だけは怖くて踏み出せなかったけれど、どうしても結婚の報告をしたかった。
私が大好きな人と婚約出来た事をあんなにも喜んでくれていた二人だから。
「……だって、あなたが……バーナードが隣にいてくれるもの!」
「ユディット……」
そう言って私はまた、自分からギュッとバーナード様に抱きついた。
────なんて名乗ろうとも、私は私。
いつだって私を溺愛してくれる大好きな人とこの先の未来を一緒に歩んで行く───……
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました。
これで、完結です!
最後までお読み下さりありがとうございました!
私にしては珍しくちょっとした“謎”を入れつつ進めたこの話。
頂いたコメントを見ていたら皆様、色々と考えてくださったようで!
“Judith”
という名前の綴りですぐに同一人物だと分かった人も多かったと思います。
この話はたまたまこの名前を見つけてそこから考えついた話でした。
カタカナ表記にすると全然違うのに……面白いなぁと思いまして!
あ、ちなみに、ロベリアは花言葉から取りました。
振り返ってみると……
ローランだけ独り身ですか。まぁ、彼は大丈夫でしょう……!(適当)
お兄様とユディーも普通に一つの話が出来そうなくらい恋愛しています。
最後までお付き合いありがとうございました!
あ、夜の更新時間がフラフラしていたのは仕事のせいです。
ちょっと書き終わらずギリギリ更新していたので……すみません。
お気に入り登録、感想コメント(返信はごめんなさい……)、そしてエール、どれもありがとうございました!
またいつものように次の話も始めてます!
よければ、またお付き合いください!
『ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~』
久しぶりに転生者? の話ですかね。そして、婚約者がクズだなぁ……と。
それでは、本当にありがとうございました~
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