【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea

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16. 記憶にない夢と疑惑

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  ───突然の襲撃は真夜中の出来事だった。

  騒がしい声や、キャーという悲鳴で目が覚めた。
  ベッドから起き上がって耳を澄ます。
  逃げて───そんな声まで聞こえて来る。

  (逃げて?  何から?)

  只事ではない。そう思った。

  ────逃げなくちゃ。

  王族の部屋には緊急時に外に出るための隠し通路が用意されている。
  よく分からないけれど、使うなら今だろう。
  部屋の外で待機しているはずの護衛やメイドに声をかけるか悩んだけれど、なんとなく扉を開ける事が怖かった。
  だから、そのまま隠し通路へと逃げ込んだ。

  ───でも、それは罠だった。
  あのまま扉を開けていても隠し通路から逃げても辿り着く未来は一緒だった。
  襲撃者は隠し通路の事を知っていた。

  (お父様……お母様……お兄様……皆……)

  どうか無事でいて……!
  そう願いながらも、どうにか逃げて逃げて、後ろから追っ手が来ていない事を何度も振り返っては確認して、ようやく出口が見えて通路から外に出た時、そこに居たのは見慣れた顔のお父様の側近で────
  “あぁ、良かった”  
  何が起きているのかはよく分からないけれど、これで、大丈夫。助けてもらえる。
  そう思ったのに……

『───見つけましたよ、ジュディス王女』

  月明かりの下でそのお父様の側近おとこはニヤリと笑いながらとても冷たい声でそう言った。
  その笑みを見てゾッとした。

  (──な、に?)

『逃げられては、困るんですよねぇ……』
『……っ!』

  ───違う!  大丈夫……なんかじゃない!  
  本能が危険だ、そう言っていた。
  
  ────助けて……助けて!  バーナード!
  残念ながら、ここに居るはずのない大好きで愛しい人の名前を必死に叫ぼうとする。
  だけど、恐怖で声が出てくれない。
  お父様の側近は、こちらに向かって手を伸ばしながら言った。
  反対の手には何かを持っている。
  それは、血に濡れた……

  (ひっ!?)

『さぁ、王女様?  追いかけっこは終わりですよ』

  ───た、助けて……バーナード……

  再び愛しい人の名前を呼ぼうとした。
  だけど、それが声になることは無かった────……



───────

───……


「お嬢様、おはようございます!」
「……ん」

  眩しい陽の光とメイドの声で目が覚めた。

「──!?  お、お嬢様、大変……す、すごい汗です……!」
「え?」

  そう言われて自分の身体を見て驚いた。すごい寝汗をかいていた。

「な、何これ……」
「お、お嬢様……もしかして具合が?」
「そ、そんなことは無いわ」

  私は首を横に振る。身体はどこも怠くもないしピンピンしている。熱がある様子だってない。
  ぐっしょりした寝間着が気持ち悪いだけ。

「お嬢様……」
「何かしら?  変な夢でも見たのかしらね、まるで悪夢のような……って、あら?」
「……っ!」

  軽く笑って冗談のつもりでそう言ったのに、メイドは戸惑いの表情を浮かべる。

「え、ちょっと?  冗談よ!」
「あ、そ、それなら良いのですが……」

  だって、何か夢を見た気はしているけれど、全く覚えていなかった。


───


  そんな少し様子がおかしい寝覚めから朝の支度と朝食を終え、部屋に戻ると、部屋の掃除と寝具を取り替えに来たメイド達が何やらヒソヒソと話をしていた。

「聞いた?  ロベリアさんの話」
「ええ、確かに見たって」
「もし、本当なら少し可哀想かも。まぁ、お嬢様にした事は許せないけど」

  (……ロベリアの話?)

  あれからロベリアとは顔を合わせていない。
  私の名前を使って王宮に潜り込もうとした事は、きちんとお父様に報告されて数日間は外出禁止になったと聞いた。
  今は外出禁止も解けて外に出る事もあるそうだけど、必ず監視をつけている。
  その話によると、あれから王宮には近づく事はしていないらしい。

  (とはいえ、その名前の話題……放ってはおけないわ!)

「ロベリアが───どうかしたの?」
「あ、ユディット様……!」
「す、すみません……仕事中に」

  私が声をかけると、そのメイド達はハッと振り返る。
  どうやら、私語を咎められたと思ったようで、青い顔で謝られた。

「寝具の交換に来ただけですから……」
「え、あっ……」

  二人が申し訳なさそうな様子で部屋を出ていこうとするので、慌てて引き止めた。

「待って?  今、あなた達、ロベリアと言っていたわよね?」
「は、はい……」
「ロベリアがどうかしたの?  何の話か教えてくれるかしら?」
「え……あ……」

  メイド達は一瞬、躊躇った。

「……もしかして、私には言えない話?」
「あ、いや……そうでは無い……のですが……」

  二人のメイドは気まずそうに顔を見合せた後、おそるおそる口を開いた。

「じ、実は、他の使用人に聞いたのですが───」



──────



「────ロベリアの背中に、傷がある……ね。それも……」

  メイドの二人が教えてくれたのは、ロベリアの背中にはどうやら傷があるという話。
  それも、まるで刃物で切りつけられたような傷だという。

「どう考えても、刃物では……馬車に轢かれかけて出来た傷……ではないものね」

  つまり、保護される前からあった傷。

  ロベリアは保護された後の医師の診察時も、肌を見せるのを嫌がったというのはお兄様から聞いていた。だから、無理強いはしなかったと言う。

  (記憶の混乱で脅えているのだろうと思っていたけれど……)

  また、メイド達によくよく話を聞いてみると、保護されたばかりの頃、怪我しているので大変だろうと思い、入浴時に誰かが手伝おうとする事にも強く脅えて拒否反応を示したという。
  普段も基本的に着替えも自分で済ませているので、なかなか背中の“それ”に気付く人はいなかった。
  けれど今朝、たまたま着替えているところを見かけた使用人がいた。
  そして、使用人たちの間でヒソヒソとその話が広まっている……
  普段はそんな陰口を叩く真似をしないメイドたちなのに……ロベリアのした振る舞いがかなり許せないらしい。

  (それよりも、どうして……)

「……ロベリアが王女のはずがないのに!」

  そんな言葉が口から出る。
  あんなにも無神経な行動ばかりする彼女を、バーナード様が今でもあんなに大切にしている人だなんて、私は絶対に認めない。
  バーナード様のジュディス王女への想いを聞いたばかりだからこそ余計にそう思う。

  (絶対に違う!)
 
  でも、いったいこれまでどんな生活を送ったら背中に刃物を受けたような傷が出来るというの?
  目撃したメイドによると、身体には他に傷のようなものは見られなかったというから、虐待を受けていたという線は考えにくい。

「王女でないとしても、やっぱり……襲撃の時の傷……?」

  王女でないのなら……
  そう……前にも思ったわ。ロベリアは王女の関係者かもしれない……と。
  一気にその線が濃厚になった気がした。
  
  自分に直接は関係のない過去の話だとばかり思っていた他国のクーデター事件が、私の心を大きく揺さぶり始めていた。

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