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おまけ・後日談
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少しだけ心配した“その日”を無事に乗り越えた翌日、その報せがやって来た。
「本当にフォレックス様の言う通りになったわ」
「まるで本当に“その日”が過ぎるのを待っていたみたいだな」
「……身体はどんどん弱っていたとは聞いていたけれど」
その報せはミリアンヌさんの最期に関するもの。
「やっぱり“何か”ある世界なのね」
「……」
フォレックス様も静かに頷く。
だって余りにもタイミングがよすぎるもの。
まるで“不要”とされたみたい──
なんて物騒な事を考えてしまう。
「でも、もう時は戻らない」
フォレックス様がそっと私の肩に手を伸ばし引き寄せる。
「そうね。これで本当に終わった……のよね?」
「あぁ……終わったんだ」
あの日の無念だった私の思いがようやく軽くなった気がした。
***
それから月日は流れ、今日は私とフォレックス様の結婚式の日。
この日が無事にやって来た事に安堵する。
フォレックス様は、以前から口にしていた「何がなんでも最短で結婚式を挙げるんだ」という主張を一度も譲らず、本当に最短で式の予定を整えていた。
すごい執念だと思う。
式の前に顔を合わせた時、フォレックス様は言った。
「大丈夫だと分かっていても、やっぱりまた何か変な邪魔が入ったらと思うと……やっぱり急ぎたかったんだ」
「フォレックス様……」
そう言いたくなるくらい私達には色々な事があった。ありすぎた。
「まぁ、俺はもうこの先も何があってもリーツェを諦める気も手放す気もないけどね」
「それは、私もです!」
私だってフォレックス様以外の人との未来なんてもう考えられないもの……!
「そうだな、リーツェ。それと、その……今日のドレス姿……最高に綺麗だよ」
「ふふ、ありがとうございます。フォレックス様も素敵です」
「いやいや、リーツェの可愛さには誰も叶わない」
「大袈裟ですよ」
「大袈裟なもんか……リーツェが俺のお嫁さん……幸せだ」
私達がそうして互いを誉め合いながら見つめ合っていると、
「はーい。気持ちは分かるけれども、イチャイチャは陛下のいない所でして頂戴ね? 陛下は残念ながら息子のラブシーンに耐性が無いみたいなのよ」
「「!!」」
私達の間に王妃様が入って来た。
ラブシーンに耐性が無いと言われた陛下は王妃様の後ろで渋い顔をしていた。
そのまたついでにその後ろにはもう1人……陛下同様、渋い顔をした私のお父様まで!
「……母上」
「何かしら? 全く、フォレックス……あなたはどれだけリーツェちゃんの事が好きなの?」
「言葉に出来ないくらい好きだ」
フォレックス様は真顔で即答した。
「即答なのね……」
……そう言えば、フォレックス様っていつから私の事を好きだったのかしら??
ふとそんな事を思ってしまった。
最初のプロポーズの時は私達まだ子供だったけれども。
「フォレックス様はいつから私の事を好きだったのですか?」
「え?」
フォレックス様がびっくりした顔を私に向ける。
「そ、それを聞くのか!」
「だって気になってしまって」
「……」
すると、フォレックス様は少し黙り込んだけれど、覚悟を決めたように口を開く。
「は、初めて会った時から……可愛いなって思ってた」
「え? 初めて?」
フォレックス様はコクリと頷く。
「一目惚れ……だったんだと思う」
「そ、そう、ですか……」
「気付いたらめちゃめちゃ好きだった」
「めちゃ!?」
自分でその話題をふったくせに、何だか恥ずかしくなってしまい私は両手で顔を覆い隠す。
「こら、リーツェ。前から言ってるけどその可愛い顔は隠さないでくれ」
「無理ぃ……」
そんないつもの会話を繰り広げる私を遠くから見守る3人は──
「……始まったわ」
「始まったな」
「リーツェ……」
王妃様、陛下、お父様の順番で呆れた声を出す。
「でもこれは、孫の顔が早く見れそうね! 楽しみだわ」
最後に嬉しそうに王妃様がはしゃいでいたと言う。
そんなこんなで私達は式の本番を迎えた。
ベール越しにフォレックス様の横顔をチラッと見つめる。
(私達、本当に結婚するのね……愛を誓い合う時が……!)
「リーツェ・ミゼット公爵令嬢」
「は、はい」
フォレックス様が私の前に跪く。
おかしい。こんな段取りだったかしら??
「私、フォレックス・ラッフェンバルは、初めて会った時に一目惚れしたリーツェの笑顔が今も昔も大好きだ」
「フォレックス様?」
「この先もいつでも俺の隣で笑っていて欲しい。そんなリーツェの笑顔が見たいから生涯をかけて君を愛し大切にすると誓うよ」
フォレックス様はそう誓いの言葉を述べて、私の手を取りそっとその甲にキスを落とした。
──こんな演出、聞いてない!
フォレックス様は立ち上がるとそっと私のベールをあげる。
そっと顔を見上げると彼の瞳は少し潤んでいた。
「……リーツェ。愛してるよ」
「フォレックス様?」
「俺はね、リーツェが笑ってくれるなら何だって出来る。この国を笑顔溢れる国にしたいとリーツェが言うのなら俺はその為にどんな努力でもしよう!」
「フォレックス様……」
どうしてかしら? ちょっと意地悪を言ってみたくなった。
「もしも……もしもよ? 私がこの国を滅ぼしちゃえって言ったら?」
「俺の持てる力全て使って滅ぼすと思う」
「!!」
私がギョッとした顔をしていると、フォレックス様は微笑んで言った。
「言っただろう? 俺の愛は重いって」
「それは確かに聞きましたけど」
「うん。だから覚悟をしておいて? リーツェ」
「……何を?」
と、首を傾げたところでフォレックス様の唇が私の唇に重なる。
「もちろん、全力でリーツェを愛するからだよ……今夜」
一旦、唇を離したフォレックス様はそう言った後、もう一度唇を重ねて来た。
「!!」
誓いのキスが二度もあるなんて話も聞いてない!!
あと、何だか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする……!!
困惑する私とざわめく式の参列者の中で、フォレックス様だけがずっと涼しい顔をしていた。
──そして。
式も無事に終わり、その後の国民へのお披露目やらパーティーやらの過密スケジュールを終えた私は今……
本日からの私とフォレックス様との寝室のベッドの上にいた。
(し、心臓が飛び出しそう!)
あと、何で夜着がこんな心許ない感じなの!?
当然のように着せられたけれど、世の中の夫婦の初夜というのはこんなのが当たり前なの??
あまりにもいたたまれない気持ちになって、そっとガウンを羽織ろうとしたまさにその時、勢いよくガチャッと部屋の扉が開いてフォレックス様が駆け込んで来た。
「リーツェ!」
「フォレックス様?」
何をそんなに急いで? と思ったらフォレックス様はそのままの勢いで私を抱きしめながら言う。
「俺の奥さんに早く会いたくて!」
「いや、奥さんは逃げませんよ?」
「分かってる! 分かっているとも!! でも……」
そう言ってフォレックス様が更にギューッと私を抱きしめる力を強める。
「リーツェ。もういいよね?」
「はい?」
「前にリーツェが言ってた、俺がリーツェに望んでる事」
「!!」
そうよ! あの時、フォレックス様は言ったわ。
──私が欲しいって。
「こ、こんな私ですが……ど、どうぞ?」
私は恥ずかしさを堪えてフォレックス様の背中にぎゅっと手を回す。
「リーツェ。それは煽ってるの?」
「え? ひゃっ!」
「俺の奥さんが可愛すぎる……」
そのままフォレックス様にベッドに押し倒されたと思ったら優しいキスが降って来て───……
甘い甘い夫婦の夜は始まったばかり。
✼✼✼✼✼✼✼✼✼
お読み下さりありがとうございます!
実は私、昨夜から今朝にかけて、夜勤勤務(たまにある)だったのですが……超絶暇で 笑
なので皆様からの嬉しい感想を読んでいたら、
無性に後日談が書きたくなってしまい、こっそり時間を見つけてポチポチしてしまいました……
(何やってんだという声は置いておく)
ミリアンヌのその後と、結婚式のリクエストがありましたのでそこを中心に。
夜中のテンションと本日、寝不足の頭で仕上げたのでおかしくてもお許しください。
……実はこの話の連載中、何度も嫌な目に合いましてその度に心が折れかけていたのですが、楽しみに読んでくださっている人がいる! と信じて最後まで書き切る事が出来ました。
感謝しています。
本当にありがとうございました!! ( ⁎ᴗ_ᴗ⁎)ペコッ
新作も楽しんで貰えるよう頑張ります☆
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